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日外会誌. 124(4): 317-323, 2023

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特集

外科的冠動脈血行再建術の現状と展望

2.冠動脈バイパス術の変遷とカテーテル治療・薬物治療との比較

三井記念病院 心臓血管外科

大野 貴之

内容要旨
歴史的に重要なランダム試験結果から,CABGの治療効果に関しては三つの原則(Fundamental Triad)が導き出される,①CABGは全死亡予防効果を有する(Mortality Prevention),②効果は予防であるので手術適応があるときは先行治療戦略が正しい(Going First),③内胸動脈を使用したCABGの治療効果の大きさは経年的に増大していく(Gradual Increase).そして最もレベルの高い最新のエビデンスから至適内科治療下におけるCABGの全死亡予防効果に関しては次の一文にまとめることができる:LITA-LADバイパスの有効な2枝病変・3枝病変・主幹部病変に対してCABG先行戦略を採用すれば,採用しなかった場合(例えば積極薬物治療だけを先行した場合,あるいは狭心症状改善のためにPCIも追加した場合)と比較して5年全死亡率は2~3%低下する.そして内胸動脈を使用した冠動脈バイパス手術の治療効果は生涯にわたり経年的に大きくなっていくので,10年目には4~5%,15年目には6~7%,20年目には8~9%にまで大きくなることが期待できる.

キーワード
冠動脈バイパス術, カテーテル治療, スタチン, 全死亡, 予防効果

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I.はじめに
本稿ではCABGの治療効果とこの効果に影響を与えうる他の治療(薬物治療とPCI)に関するランダム試験の論文20本を厳選し,ポイントを記載した.特に最も客観的かつハードなエンドポイントである全死亡率予防効果の大きさに注目している.そして厳選した20本のランダム試験結果を統合した結論から冠動脈疾患生涯治療戦略におけるCABGの役割について考えてみたい.

II.冠動脈治療による全死亡予防効果に関するエビデンス

1990年代以前
冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)に対する治療は,ニトログリセリン(1870年代後半),CABG(1960年代前半),カテーテル治療(1970年代後半),スタチン(1980年代後半)の順に登場している.1960年代前半に始まったCABGは当初から心臓死・心筋梗塞発症の予防効果が期待され,初期10年間に既にいくつかのランダム試験・観察研究(CABG群 vs. 薬物治療群)が計画実施されている.しかし当時はCABGの手術死亡率は高く,心筋梗塞発症率に関しては薬物治療群とCABG群は同等か,むしろCABG群の方が高い報告もある.

1990年代
1.Yusufらのメタ解析
・当時の薬物治療とCABGを比較したランダム試験7本を統合したメタ解析の報告である1)
・対象患者は2,649人で,冠動脈病変は主幹部病変6.6%,LAD近位部病変59.6%,1枝病変10.2%,2枝病変32.4%,3枝病変50.6%,糖尿病合併9.6%,低心機能(EF<40%)7.2%である.
・CABGの90%は静脈グラフト単独で施行されている.
・薬物治療はベータ遮断薬47.4%,抗血小板剤32%,ジギタリス12.9%,利尿剤12.6%であり,スタチン登場前.
・薬物治療群の37.4%は経過観察中にCABGが施行されている.
・薬物治療群と比較したCABG群の全死亡率低下は術後5年目5.6%,7年目5.9%,10年目4.1%である.
2.BARI試験
・CABGとPTCA(POBA)を比較したランダム試験5年目の結果報告である2)
・サブ解析の結果,非糖尿病患者では5年全死亡率はCABG群とPTCA群でほぼ同等だが,糖尿病患者ではCABG群の方が5年全死亡率は低いことが「発見」された.
・CABG施行による5年全死亡率低下は15.1%(PTCA:34.5%→CABG:19.4%)とかなり大きい.

2000年代
3.BARI試験3)
・BARI試験の7年目結果の報告である3).
・非糖尿病患者の7年全死亡率はCABG群:13.6%,PTCA群:13.2%とほぼ同等である.
・糖尿病患者の7年全死亡率はCABG群:23.5%,PTCA群:44.3%で,CABG施行による7年全死亡率低下の大きさは20.8%と5年目よりも増大している.
4.Brophyらのメタ解析
・安定冠動脈疾患・不安定狭心症に対するPTCA(balloon angioplasty)とPCI(coronary stenting)を比較した29本のランダム試験を統合したメタ解析(対象患者9,918人)の報告である4)
・balloon angioplastyと比較してCoronary stentingは再PTCA率を低下させたが,全死亡率と心筋梗塞発症率は同等であった.
5.Keeleyらのメタ解析
・STEMI(ST-segment elevation AMI)に対する血栓溶解療法とPTCAを比較したランダム試験23本を統合したメタ解析(対象患者7,739人)の報告である5)
・血栓溶解療法と比較してPTCAにより短期の全死亡率は2%(9%→7%)低下,非致死性心筋梗塞は4%(7%→3%)低下した.
6.CTTメタ解析
・スタチン投与群と非投与群を比較したランダム試験14本を統合したメタ解析(対象患者90,056人)である6)
・2次予防としてのスタチン投与により平均4.7年全死亡率1.2%低下,非致死性心筋梗塞発症率1.8%低下する.
7.BARI試験
・BARI試験の10年目結果の報告である7)
・非糖尿病患者の10年全死亡率はCABG群:22.6%,PTCA群:23.0%とほぼ同等.
・糖尿病患者の10年全死亡率はCABG群:42.2%,PTCA群:54.5%で,CABG施行による10年全死亡率低下の大きさは12.4%と7年目(20.8%)だけでなく5年目(15.1%)よりも小さくなっている.
・糖尿病患者に対するCABGの全死亡率予防効果の大きさが7年目を最大としてその後,小さくなっていく理由については①BARI試験のCABG群では内胸動脈グラフト使用率が39.4%と低いこと,②恐らく追跡期間中に徐々にスタチンが投与されていること,③糖尿病患者の寿命の限界が考えられる.
8.COURAGE試験
・安定冠動脈疾患(2,287人)を対象とした初期至適薬物治療と初期PCI治療を比較したランダム試験の報告である8)
・平均追跡期間4.6年の死亡率は初期至適薬物治療群:8.3%,初期PCI群:7.6%,急性心筋梗塞発症率は初期至適薬物治療群:13.2%,初期PCI群:12.3%と共にほぼ同等であった.
9.Trikalinosらのメタ解析
・安定冠動脈疾患を対象とした61本のランダム試験(PTCA vs. Medical, BMS vs. PTCA, BMS vs. Medical, DES vs. BMS)のメタ解析(対象患者25,388人)の報告である9)
・デバイスの進化(PTCA→BMS→DES)により再血行再建術の頻度は低下したが,全死亡率・心筋梗塞発症率は変わっていなかった.

2010年代
10.STICH試験
・低心機能(EF35%以下)・冠動脈疾患に対する薬物治療とCABGを比較したランダム試験(1,212人)の報告である10)
・5年全死亡率は薬物治療群41%,CABG群36%と,CABG施行により5%低下しているが統計学的有意差を認めなかった.
11.FREEDOM試験
・糖尿病合併多枝病変(1,900人)を対象としてCABGとPCI(DES)を比較したランダム試験の報告である11)
・5年全死亡率はCABG群:10.9%,PCI群:16.3%,CABG施行により5.4%低下していた.
・5年心筋梗塞発症率はCABG群:6.0%,PCI群:13.9%,CABG施行により7.9%低下していた.
12.Stergiopoulosらのメタ解析
・安定冠動脈疾患に対する初期薬物治療と初期PCI治療を比較したランダム試験8本を統合したメタ解析(7,229人)の報告である12)
・平均追跡期間4.3年で,初期薬物治療群と初期PCI治療群は全死亡・心筋梗塞発症・血行再建・狭心症の全てで同率であった.
13.SYNTAX試験
・SYNTAX試験(主幹部病変 or/and 3枝病変を対象としてCABGとPCI with DESを比較したランダム試験)の3枝病変を対象とした報告である13)
・PCIと比較してCABG施行により5年全死亡率は5.4%(14.6%→9.2%),5年間の心筋梗塞発症率は7.3%(10.6%→3.3%)低下していた.
14.COURAGE試験
・安定冠動脈疾患(2,287人)を対象とした初期至適薬物治療群と初期PCI群を比較したランダム試験の長期結果(最長15年まで)の報告である14)
・15年まで追跡しても初期至適薬物治療群と初期PC群の生存曲線はほぼ同等であった.またこの生存曲線は,年齢・性別を一致させた米国一般国民の生存曲線よりも不良であった.
15.STICHES試験
・STICH試験の10年目結果報告(STICH Extension Study)である15)
・5年全死亡率は薬物治療群41%,CABG群36%と,CABG施行により5%低下しているが統計学的有意差を認めなかったが,10年目全死亡率はCABG施行により統計学的有意差をもって7.2%(66.1%→58.9%)低下していた.
・CABG治療効果の大きさはYusufらメタ解析(SVG単独CABG)の時代とは異なり,5年後よりも10年後の方が大きい.内胸動脈グラフト使用によると考えられる.
・この試験でも追跡期間10年の間に薬物治療群の19.8%がCABG必要と判断され施行(Crossover)されている.
16.Headらプール解析
・急性心筋梗塞を除外した冠動脈疾患(不安定狭心症34.4%)に対するCABGとPCIを比較したランダム試験11本の患者データを再統合したプール解析(11,518人)の報告である16)
・CABG群の左内胸動脈グラフト使用率は96.2%であった.
・スタチン投与率はPCI群:88.1%,CABG群:84.1%であった.
・多枝病変では5年全死亡率はCABG:8.9%,PCI:11.5%で,CABG選択により5年全死亡率は2.6%低下していた.
・糖尿病合併多枝病変では5年全死亡率はCABG:10.0%,PCI:15.5%で,CABG選択により5年全死亡率は5.5%低下していた.
17.FREEDOM試験
・FREEDOM試験8年目追跡結果である17)
・8年全死亡率はCABG:18.3%,PCI:24.3%で,CABG施行により8年全死亡率は6.0%低下していた.
18.SYNTAX試験
・SYNTAX試験10年目結果である18)
・3枝病変では10年全死亡率はCABG:21%,PCI:28%で,CABG施行により10年全死亡率は7%低下していた.
・CABG治療効果の大きさはYusufらメタ解析(静脈グラフト単独CABG)の時代とは異なり,内胸動脈グラフト使用により5年後よりも10年後の方が大きいことがわかる.

2020年代
19.Sabitneらプール解析
・主幹部病変に対するPCIとCABGを比較したランダム試験4本(SYNTAX, PRECOMBAT, NOBLE, EXCELL)の患者データを再統合したプール解析(安定狭心症2,433人[65.6%],急性冠症候群1,960人[44.6%],SYNTAXスコア平均25点)の報告である19)
・CABG群の左内胸動脈グラフト使用率は95.6%であった.
・スタチン投与率はPCI群:90.0%,CABG群:85.1%であった.
・患者全体(安定狭心症2,433人,ACS1,960人)の5年間の自然心筋梗塞発症率はCABG:2.6%,PCI:6.2%)で,CABG選択により3.6%低下するが,5年全死亡率はCABG:10.2%,PCI:11.2%で有意差はない.
・安定狭心症(2,433人)に限定すると5年全死亡率はCABG:8.2%,PCI11.3%で,CABG選択により5年全死亡率は統計学的有意差をもって3.1%低下していた.
20.REVIVED試験
・低心機能(EF35%以下)・冠動脈疾患(主幹部病変13.6%,3枝病変40.2%,2枝病変49.2%,4週間以内の急性心筋梗塞は除外)に対する至適内科治療と至適内科治療+PCIを比較したランダム試験(700人)の報告である20)
・平均追跡期間3.4年で全死亡率は至適内科治療群:32.6%,PCI群:31.7%とほぼ同等であった.
・急性心筋梗塞発症率は至適内科治療群:10.8%,PCI群:10.7%,心不全入院は至適内科治療群:15.3%,PCI群:14.7%,とやはりほぼ同等であった.

III.CABG治療効果に関する三つの原則
以上の20本の論文結果を統合して導き出される結論は三つである.①1994年のYusufらのメタ解析から2021年のSabitneらのプール解析報告まで,CABGは全死亡予防効果を有することが繰り返し報告されている(Mortality Prevention).一方,PCIに関してはSTEMIに対する治療としては全死亡予防効果を有するが,それ以外の病態に対しては全死亡予防効果がないことが報告されている.②ランダム試験では非CABG群(=PCI群,あるいは至適内科治療群)でも追跡期間中に臨床上必要と判断されるとCABG施行され,結果はITT解析される.Yusufらのメタ解析は薬物治療群の37.4%,STICHES試験では追跡期間10年の間に薬物治療群の19.8%はCABG施行されている.にもかかわらず初期にCABG施行した群の方が全死亡率は低い.効果は予防であるので後から施行しても効果は小さくなるか,なくなるのは当然である.従ってCABGは手術適応があるときには先行させるのが正しい (Going Fast).この点がPCIの治療効果と異なる点である.PCIの治療効果は予防ではないので必要になったとき,例えばSTEMIになったときに施行するのが適切である.③CABGの全死亡予防効果の大きさに影響したのはPCIではなく薬物治療,特にスタチンである.BARI試験ではCABG施行による5年全死亡率低下は15.1%と,FREEDOM試験の5年全死亡率低下5.4%低下と比較するとかなり大きい.これはBARI試験の時代はスタチンがまだあまり使用されていなかったためで,スタチンの時代になりCABGの治療効果の大きさ自体は小さくなったと推測される.しかし一方,静脈グラフト単独時代(およそスタチン使用前の時代と一致)とは異なり,内胸動脈グラフトを使用する時代のCABG治療効果の大きさは5年後よりも10年後の方が大きくなっている.内胸動脈グラフトの15~20年以上にわたる良好な開存率を考慮すれば,CABG治療効果の大きさは15~20年以上にわたり経年的に増大すると考えられる(Gradual Increase).以上の三つはCABGの治療効果に関する原則(A Triad of Fundamental CABG Principles)である.

IV.おわりに
冠動脈疾患生涯治療戦略におけるCABGの役割は明確である.内胸動脈を使用したCABGが有効な全ての多枝病変(ただし急性心筋梗塞はPCI優先)と主幹部病変(ただし急性心筋梗塞とACSはPCI優先)はCABGが第一選択となる.まずCABGを施行し,その後の人生で至適内科治療を行い,それでも心筋梗塞発症あるいは狭心症コントロールできない場合にPCIが適応となる.CABG治療効果(全死亡予防効果)の大きさに関しては,最もレベルの高い最新のエビデンスは①このSabitneらプール解析から「安定主幹部病変ではCABGにより5年全死亡率は3.1%低下する」,②Headらプール解析から「急性心筋梗塞以外の多枝病変(急性冠症候群を含む)ではCABGにより5年全死亡率は2.6%低下する」,の二つである.つまり現在のように積極的に薬物治療とPCI施行されている臨床現場においても,2枝病変・3枝病変・主幹部病変においてはCABG先行戦略を選択することにより5年死亡率は2~3%低下する.この5年死亡率2~3%低下は小さいと感じるかもしれない.しかし内胸動脈を使用した冠動脈バイパス手術の治療効果は生涯にわたり経年的に大きくなる可能性を考えると,10年後は4~5%,15年後は6~7%,20年後は8~9%にまで大きくなることが期待できる(図1).したがって手術を受ける価値があるかないかの客観的指標は患者年齢である.例えば90歳患者にとっては術後5年死亡率低下2~3%は小さいかもしれない.しかし75歳患者(平均余命は12~15年)にとってはこの2~3%は小さくはない.65歳患者(平均余命20年以上)にとってはかなり大きく,手術を受ける価値は充分あると判断することができる.

図01

 
利益相反:なし

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文献
1) Yusuf S, Zucker D, Peduzzi P, et al.: Effect of coronary artery bypass graft surgery on survival: overview of 10-year results from randomized trials by the Coronary Artery Bypass Graft Surgery Trialists Collaboration. Lancet, 344: 563-570, 1994.
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