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日外会誌. 124(3): 223, 2023

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Editorial

循環器外科診療におけるShared decision making

千葉大学大学院医学研究院 心臓血管外科学

松宮 護郎



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近年,患者の価値観を尊重する社会的要請の高まりと,evidence-based medicine (EBM)の普及を背景に,医療上の意思決定,患者と医療者の合意形成の手法として共有型意思決定;shared decision making (SDM)がさまざまな疾患領域で注目されている.SDMでは医学的情報に加えて患者の価値観や生活状況も踏まえ,医師と患者がともに最終決定を下す.そのためにSDMでは①エビデンスに基づく医学的情報,②医療チームによる提案,③患者の価値観,意向,懸念などの3項目を患者,家族,医療チームが共有することが重要とされている.
近年,安定型狭心症に対する冠血行再建は至適薬物療法と比較して生存率を改善しないという,ある意味衝撃的な試験(ISCHEMIA試験)結果が循環器領域で注目されている.様々な議論が行われており,この結果をそのまま日常臨床に当てはめることができるのかという疑問も数多く提唱されている.しかしながら,日本循環器学会を中心とするガイドライン委員会ではこの結果を受けて,この試験の対象に該当するような患者にはこれまでの病変の重症度や検査結果に基づく推奨を廃し,SDMに基づく血行再建を行うべき,という方針をクラスⅠとして推奨するに至った.ここでは,この試験の結果をすべて実臨床に当てはめることの不確実性を認めた上で,SDMを患者と医療者が協働して,不確実性に向き合う知恵として使おうとしているとも言える.
しかしながら,現時点においてわが国ではSDMが十分に普及していないことは明らかである.今後,その普及に当たり問題になるのが「必要十分な医学情報を丁寧かつ適切に伝える.」という部分である.働き方改革で医師の勤務時間を適正化しようとする流れの中で,忙しい医療スタッフと患者,その家族が話し合う場をどのように設けるのか,課題は大きい.すでにいくつかの病院で取り組みがなされているように,SDM外来などの専門外来を設置し,多職種で対応することが現実的な対応として挙げられるが,人材育成,診療報酬加算も含めて今後の施策が必要である.「最新のEBMを提供する」ということも必ずしも容易とは言えない.日々,多くの情報が発表され,その中にはエビデンスレベルの高いものから,低いものまでさまざまであるが,その解釈が多くの専門家の中で集約していくのには時間が必要である.したがって,エビデンスそのものは変えようがないが,その解釈と説明にはどうしても偏りが生じてしまう可能性が高い.
今後,他の多くの領域でもSDMがガイドラインで推奨されるようになる可能性が高く,より多くの医師にSDMの認識が広まっていくと思われる.その結果,より適切で患者の納得できる治療法が選択されていくようになることが期待される.

 
利益相反:なし

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