日外会誌. 124(2): 213-217, 2023
手術のtips and pitfalls
生体肝移植における胆管空腸吻合のtips and pitfalls
慶應義塾大学医学部 外科 長谷川 康 , 北川 雄光 |
キーワード
生体肝移植, 胆管空腸吻合
I.はじめに
生体肝移植では脳死肝移植と比してグラフトの胆管が細くて薄く,場合によっては複数口になる.また,膵頭十二指腸切除術や肝門部領域胆管癌手術時の胆管空腸吻合と異なり,胆管壁は肥厚していないため脆弱である.これらの要素から,生体肝移植における胆管空腸吻合は技術的に難しく,合併症も多い.Chokらのsystematic reviewによると,生体肝移植術後の胆道合併症の発生頻度は8.4~35.8%であった1).胆管空腸吻合は胆管胆管吻合に比べると,狭窄は少ないが胆汁漏が多いという報告もある2).
II.胆道再建法の選択
自施設では生理的な再建である胆管胆管吻合を第一選択としている.原発性硬化性胆管炎や胆道閉鎖症の患者に胆管空腸吻合を選択している.
III.手術手技
グラフト胆管が前区と後区の二穴となった場合に,後壁を連続縫合・前壁を結節縫合で吻合する手技を解説する.グラフトの胆管が複数の場合,可能であれば形成して一穴にしている(図1a,b).胆管ステントとして4-6Fr膵管チューブを挙上空腸盲端側から出しておく.吻合口が複数の場合は,ステントチューブも複数本留置している.縫合糸は5-0もしくは6-0のモノフィラメント吸収糸を使用し,結紮点が胆管/空腸の外側になるようにしている.前区・後区それぞれの吻合口の左右端に糸をかける.前壁正中に両端針で吊り糸をかけ,視野展開の補助とする(図2).後区の左端から後壁を連続縫合する.左端にかけた縫合糸を外糸として結紮し,外-内と針を通して,空腸の内-外,胆管の外-内と運針する(図3).胆管壁が細く薄いので,糸を引っ張りすぎると胆管壁が裂けたり,狭窄の原因になったりする.空腸を寄せながら,適度な張力がかかるようにする.右端まできたら,外糸にする.吊り糸を結紮し,その片方の糸と連続縫合の糸を結紮する.次に,前区左端の糸を結紮し,後壁を連続縫合する(図4).胆管ステント用のチューブを胆管内に留置し固定する.つづいて,前壁を吻合する.空腸の外-内,胆管の内-外と運針する(図5).最後に吊り糸にしていた糸針で,空腸の内-外と運針する.前区と後区すべての糸をかけ終えてから,外糸として結紮する(図6).吻合終了後に胆汁漏が無いことを確認する.
Pitfallとしては,グラフト肝内で分岐している胆管を縫い込まない事があげられる.吻合前に胆管走行をよく観察し,吻合中は視野展開を十分にしてから丁寧に運針することが肝要と考える.
利益相反:なし
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