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日外会誌. 124(2): 154-155, 2023

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若手外科医の声

大学勤務の若手外科医の振り返り,現状と将来像

九州大学病院 消化器・総合外科

胡 慶江

[平成23(2011)年卒]

内容要旨
若手外科医として大学に勤務しており,臨床と研究の両立の難しさを感じながら,家族の理解を得て仕事に没頭する日々を送っています.これまでの生活を振り返り,大学勤務の若手外科医の現状と将来像について考えてみました.

キーワード
若手外科医, 現状, 将来像

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I.はじめに
この度,邦文誌編集委員の九州大学病院別府病院外科准教授増田隆明先生から光栄にもご推薦頂き,「若手外科医の声」の執筆という貴重な機会を頂くことになりました.私はスーパーローテーションの臨床研修を2年間完遂して,3年目から外科医になり,今年で丁度10年になります.私自身が外科医を目指す経緯,今までの若手外科医の生活を振り返り,若手外科医の現状と目指している将来像について簡単な私見を述べさせて頂きます.

II.外科医を目指す経緯
外科医を目指すようになったのは2009年九州大学5年生の頃でした.臨床実習が始まって,消化器・総合外科の初日に分刻みのスケジュールをもらった際,朝の集合時間が早く,拘束時間も長いため,外科医になって一生このような生活ができるか少し心配がありました.それでも外科医,さらに消化器総合外科に入局しようと思うようになったのは,「誰一人医局員を見捨てない,どんな人でも学位を取らせてみんなで前に進もう」という医局の方針があって,安心感があるからと記憶しております.学生のうちに入局を決めて,2011年に卒業して多くの先輩が働いている済生会福岡総合病院で臨床研修をすることになりました.スーパーローテーション制度ですので,外科の研修は2カ月程度で,1~2カ月毎に全診療科で研修することになっていました.今思えば,キャリア形成期に全診療科で研修をすることは以後の診療において非常に役立っています.

III.若手外科医10年の振り返り
2年間の初期臨床研修を終え,3年目から済生会福岡総合病院で外科レジデントとなり,外科医の生活を始めました.一次から三次救急まで行う総合病院ですので,忙しくてプライベートの時間が持てませんでしたが,新しい知識と手技を覚える喜びが大きく,同期と切磋琢磨して充実した一年を送りました.4年目は九州大学病院消化器・総合外科でレジデントをして,5年目から大学院生となり,九州大学病院別府病院外科の研究室で本格的な研究生活を始めました.最初の頃は病棟から緊急電話がピタッと来なくなったことに戸惑いながらも,家族との時間が増えて,病棟を持たない生活を楽しむようになりました.私は胃癌腹膜播種関連遺伝子の同定のテーマを頂きまして,バイオインフォマティクスから実験まで先輩に習って行いました.3年間の研究生活を送り,学位を取得させて頂いていた研究室の先輩方に感謝しております.8年目の春に九州大学病院消化器・総合外科に戻り,医員として勤務を始めました.この頃から消化管の手術を中心に勉強し,少しずつ執刀症例も増えるようになり,10年目に消化器外科専門医を取得しました.現在卒後12年目の大学勤務ですが,臨床と研究を両立させる難しさを感じながらも家族のサポートを得て臨床と研究に没頭する日々を送っています.

IV.若手外科医の現状
当科において,大学勤務のレジデントと学位取得後の若手スタッフの現状について簡単なアンケートを実施してみました.今の生活が忙しいと思う人は,レジデントが2/8(25%),若手スタッフが3/4(75%)でした.今の生活で不満に思うのは,仕事量の割に給料が低いこと(レジデントが2/8(25%),若手スタッフが4/4(100%)),執刀が少ないこと(レジデントが1/8(12.5%),若手スタッフが0/4),学術活動の時間が作れないこと(若手スタッフが2/4(50%)),家庭の時間が作れないこと(若手スタッフが3/4(75%))が挙げられます.もう一度選択できるならやはり外科医を選びますかという質問に関しては,レジデントは4/8(50%)が選ばないことになっており,一方で若手スタッフは4/4(100%)が選ぶことになっています.つまり,若手外科医は多忙ですが,経験年数とともに外科の魅力をより感じるようになるようです.これには二つの理由があると考えています.一つは経験年数につれて手術,臨床を習得するようになり,困っている患者を助ける達成感の増加です.もう一つは大学で最先端の治療と研究に触れることで世界を知るようになり,臨床だけではなく医学を向上させようとするモチベーションの向上と考えられます.特に,若手スタッフは日々忙しい割に給料が低いこと,学術活動の時間と家庭の時間が取れないことに不満を感じていますが,もう一度選択するとしても全員が外科医を選んでいます.これは臨床と研究の両方において,若手スタッフが高いモチベーションを持っているからと考えます.

V.若手外科医の将来像
私自身の将来像としては臨床と研究の両方を効率よく行い,家族との時間もとれる外科医になりたいと思います.しかし,自分の能力と時間に制限を感じており,どうしても仕事を優先して家族との時間が疎かになりがちです.また,臨床診療をこなしているだけで,学術活動も十分に行えないのが実情です.若手外科医の現状を踏まえて,私見ですが改善方法について考えてみました.まず,優先順位を決めるなど,自分の仕事の効率を上げます.書類作業などルーティンの仕事の簡略化やタスクシフトを行うことで臨床に費やす時間を節約します.また,チーム交代制などで研究だけの日を設けることで,学術活動に専念できる時間の確保です.レジデントには通常の診療に加え,最先端の治療と研究についても触れてもらうことで,大学病院外科の魅力を上げます.そうすると,若手スタッフの人数が増えて働く環境の改善につながり,各々が目指している将来像に近づきやすくなると思います.

VI.おわりに
外科医を目指す経緯,若手外科医の現状と将来像について考えてみました.一人前の外科医になるために,諸先輩のご指導と家族の理解を頂きながら感謝の気持ちで日々頑張りたいと思います.

 
利益相反:なし

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