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日外会誌. 124(1): 11, 2023

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特集

独自の進歩を見せる日本の甲状腺癌治療学

1.特集によせて

日本医科大学 内分泌外科

杉谷 巌



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ヨウ素摂取過剰の傾向にあるわが国では,甲状腺癌の90%以上を予後良好な乳頭癌が占めることもあり,初回外科治療は甲状腺温存手術(葉切除または亜全摘)を主流としてきた.これは,甲状腺全摘手術を基本とし,放射性ヨウ素内用療法を行う諸外国の方針とは大きく異なるものであった.近年,甲状腺癌の予後因子解析が進み,リスクに応じた取扱いが推奨されるようになって,高リスク癌には全摘・補助療法を,低リスク癌には甲状腺温存手術を行うのが世界標準となった.その背景として,日本の先達が甲状腺癌の生物学的性質を深く理解し,患者のQoLを重視した治療を行ってきた功績が大きい.このようなconservativeな伝統は,甲状腺癌の過剰診断・過剰治療という今日的な問題への対処法としてのactive surveillanceの実践にもつながり,世界のガイドラインを書き換えることになった.濾胞性腫瘍や境界病変についても,日本の病理医,外科医は治療成績を保ちながら,過剰な診断・治療を避けるべく努めてきたが,分子診断の導入にともない新たな局面を迎えている.また,東日本大震災時に発生した福島第一原発事故を契機に小児甲状腺癌の適切な取扱いへの関心も高まっている.極めて予後不良の未分化癌に関しては,多施設共同研究機構である日本甲状腺未分化癌コンソーシアムがそのエビデンス形成に大きな役割を果たしてきた.高悪性度の甲状腺癌には,外科医を中心に拡大根治切除の限界に取り組んできた一方,最近では分子標的薬治療の進歩が著しく,腫瘍内科医の参入も大いに期待され,以前にも増して,Multidisciplinaryな対応が求められている.

 
利益相反:なし

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