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日外会誌. 123(6): 627-629, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「医療安全を支えるNon-Technical Skills」
4.当院手術部における患者安全のための取り組み―安心安全な手術を提供するために―

1) 地方独立行政法人市立東大阪医療センター 外科
2) 地方独立行政法人市立東大阪医療センター 手術部
3) 地方独立行政法人市立東大阪医療センター 医療の質・安全管理部

山田 晃正1)3) , 池永 雅一1) , 津田 雄二郎1) , 上田 正射1) , 中島 慎介1) , 谷田 司1) , 松山 仁1) , 樗木 裕美子2) , 中西 隆史3) , 餅田 佳美3)

(2022年4月16日受付)



キーワード
コミュニケーションエラー, タイムアウト, ノンテクニカルスキル, インシデントレポート

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I.はじめに
当センターは二次医療圏の中核病院として,年間約3,000件の全身麻酔下手術を実施している.病院全体としては年間約2,000件のインシデントレポートの提出があるものの,手術部門からの報告数は,全体の約2~3%を占めるに留まっており,その大半がエラー(Level 0)の報告である.
一方,手術部門で発生する重大事案は医療安全管理部へ毎年1~2件の報告があり,軽微な事案を含めると相当数の有害事象が発生していることが容易に想定できる.しかし,手術室は,(1)限られた人員による手術の遂行と,患者自身が麻酔鎮静下であるといった,いわば「閉鎖空間」における秘匿性や,(2)日々進歩する医療機器やそれに付随する数多くの手順が存在する高度の専門性を有し,さらに(3)アウトカムが生命に直結するために極めて高い緊急性・即時性を要する,といった特徴を備えており,更なる要因分析を実施し,現場へのフィードバックをかけるための情報収集のシステムが存在しないことがかねてからの課題であった.

II.目的
安心安全な手術を提供するために,手術部門における精度の高い情報収集のシステムを構築することを目的とした.

III.方法と対象
手術部門で発生する各種の有害事象の情報をより確実に把握するため,以下のステップを経て,すべての全身麻酔下手術症例を対象として,2018年2月から退室時タイムアウトを開始した.
(1)WHOの手術安全チェックリスト1)を基に,当院独自のチェックシート(全16項目)を作成し,電子カルテ上に配置した.チェックシート作成にあたって,患者基本情報は電子カルテから自動入力されるように設計し,入力者の負担軽減のため,マウス操作のみで入力できるチェックボックス式を採用した.また,一部の職員に負担が偏在しないよう,麻酔科医・担当医・看護師で項目判定の分担を行うこととした.
(2)全身麻酔下手術全例を対象に退室時タイムアウトを実施することを,関係する全診療科に周知するとともに,その有益性について科学的根拠としてHaynesらの報告2)を提示した.
(3)手術現場で麻酔科医・担当医・看護師が分担された有害事象の有無を記録した.
(4)毎週チェックシートを医療の質・安全管理部担当者が収集しデータを集計した.
(5)発生した有害事象について,カルテや関係者の聞き取りから情報を追加収集した.
(6)問題を覚知した場合には,医療の質・安全管理部が,手術部門と共同して介入を検討した.

IV.結果
2018年2月~2021年12月に実施された全身麻酔下手術は10,927件で,退室時タイムアウトのチェックシートの報告が行われたのは10,260件(93.9%)であり,約6%の症例で未入力であった.経時的に報告率をみると,4月に代表される人事異動期に連動して,報告率が下がる傾向にあり,定期的なリマインドの必要性が示唆された(図1.白矢印).
全期間の有害事象発生率(有害事象数/全手術数)は2.4%(262/10,927)であり,全身麻酔下手術の約40件に1件の割合で何らかの有害事象が発生していた.また,経時的には開始当初に比し,徐々に有害事象発生率が低下する傾向にあり(図1),その原因が有害事象自体の減少にあるのか,有害事象を報告する意識の低下によるものなのかを検証する必要があると思われた.
項目別有害事象発生数を表1に示す.全262件の有害事象中,⑦予定しない臓器の切除や修復が66件あり,最も発生数が多かった.ついで⑪手術器機の破損・不具合の64件であった.一方稀な有害事象としては,⑧重篤な中枢神経系合併症の発生はなく,⑤術中死亡(腹部大動脈瘤破裂)/⑥誤認手術(整形外科手術における部位誤認)/⑫切除組織・標本の紛失・取り違え(摘出リンパ節の一部紛失)を各1例,②予期しない心停止を2例,④薬剤投与や輸血によるエラーを3例認めた.
経過中,⑪手術器機の破損・不具合が集中して,同一診療科で多発した事案が2回あり,いずれも医療の質・安全管理部が,手術部門と協議の上,一時的な当該器機の使用中止や代替品への機種変更などの介入を行った.
加えて,今まであまり報告のなかった事例として,未然に防ぐことができたガーゼ遺残やハラスメント(いずれも医師から看護師への叱責)の報告を得ることができた.

図01表01

V.おわりに
退室時タイムアウトはこれまでに把握困難であった手術室で発生している問題点を抽出する意味で非常に有用と思われた.

 
利益相反:なし

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