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日外会誌. 123(6): 621-623, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「医療安全を支えるNon-Technical Skills」
2.ロボット支援呼吸器外科手術を安全に行うためのノンテクニカルスキル―若手(under40)のみでロボットチームを立ち上げた経験から―

兵庫医科大学 呼吸器外科

橋本 昌樹 , 中村 晃史 , 中道 徹 , 渡辺 梨砂 , 松本 成司 , 近藤 展行 , 長谷川 誠紀

(2022年4月16日受付)



キーワード
ロボット支援呼吸器外科手術, Non-Technical Skills

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I.はじめに
近年,ロボット支援手術の発展や普及はめざましいものの,若手主体で導入を行っている施設は少ない.ロボット支援呼吸器外科手術(RATS)では胸腔鏡下手術に比べて,術中損傷や術中出血のリスクが有意に高いと言われ1),安全面への配慮が不可欠である.われわれは若手呼吸器外科医4人(導入当時,全員30代)でロボット支援呼吸器外科手術(RATS)を導入する際,安全面に最大限配慮し,RATSを安全に導入することができた.われわれの取り組みについて紹介する.

II.なぜNon-Technical Skillsなのか
われわれは,呼吸器外科手術中に重篤な状況に陥った症例の分析を行ったところ,その多くは回避できた可能性があり,丁寧な手術手技を心がけることはもちろん,手術に関わるスタッフで情報を共有するなどNon-Technical Skillsが,安全な手術の遂行に重要であることを報告してきた2).RATSは術者が四つのアームから三つのインストゥルメントと一つのカメラを操り手術を行う.これらを巧みに操ることで術野展開や視野の設定を全て1人で行うことができる,いわば「究極のsolo-surgery」である.しかしながら,術者だけではRATSは成り立たず,患者の傍らにいる助手や看護師,麻酔科医,臨床工学技士などRATSに関わる全てのスタッフと協調性を持って手術を遂行する必要がある.このように多職種が関わるRATSを安全に遂行するにはNon-Technical Skillsが不可欠であると考え,RATSを安全に行うためのルールを作成した.

III.RATS導入までの準備
外科医と手術室看護師のチームで経験豊富な施設への見学を複数回行い,見学で得た情報をもとに,当院のスタイルへ落とし込みを行った.また多職種でRATS特有のリスクについて検討を行い,術中出血時の対応や,手術体位やチューブトラブルなどに備えて,マニュアルを作成し多職種で共有することとした.そしてそのマニュアルに基づき体位や緊急時対応に対するシミュレーションを繰り返した.

IV.RATS施行時のルール
われわれが作成したRATS施行時のルールを表1に示す.
1)症例選択
導入当初は,安全かつ腫瘍学的な懸念がなくRATSを完遂できる症例を選択した.症例の選択には,以下の点に留意した①分葉良好②解剖学的奇形を伴わない③石灰化病変がない④極端な低身長や肥満ではない⑤腫瘍径が大きくなく胸膜面への露出がない⑥リンパ節転移が予想されない.
2)手術手順書
RATSに限らずどの手術においても,予め手順を決めた上で手術に臨むべきであるが,とりわけRATSにおいては通常の開胸手術や胸腔鏡下手術と使用する器械や手順が異なることも多く,症例の臨床情報,解剖学的特徴,手術手順,使用予定の器械などをまとめた手術手順書を作成し,手術室看護師はじめ多職種で情報共有を行った.
3)RATSの術中には声掛けを心がける
RATSは「究極のsolo-surgery」であるため手技のほとんどは術者が行うが,何を考え,何を行おうとしているのかを声に出して行うことを心がけている.これから行う手技の内容を助手はじめチーム全体に伝えることで皆がその手技の正当性や安全性について考えることが可能となる.また助手がその手術手技や手順について,修正すべき点や注意すべき点があれば,その旨を積極的に助手から術者に声に出して伝えることも心がけている.Solo-surgeryではあるものの術者1人ではなく皆が手術に関わることで様々な「気づき」が生まれ手術の安全性に寄与すると思われる.
4)謙虚な気持ちと権威勾配に注意する
術中の声掛けを容易に行うには,声掛けを容易に行える体制とその声掛けを冷静に受け止められる謙虚な気持ちが重要である.特に術者は他のスタッフの声掛けにはどのような状況においても耳を傾ける必要がある.またチーム全体において権威勾配が偏っていると助手が術者に声をかけることに躊躇する,または術者が助手を気にして萎縮するなどの弊害が予想される.RATSに限らず,権威勾配が偏らない雰囲気をチームで醸成できるように心がけるべきである.

表01

V.航空機の運航モデルとRATS
医療と同様に最高レベルの安全性が求められている航空機運航のシステムはRATSにとても参考になると思われる.図1に示すように,航空機運航の離発着時においてはパイロットが意思を管制塔に伝え,管制塔からの指示を受け,行動に移す,もしくは修正する.RATSも同様で,今から行う手技(目的地)について術者(パイロット)が助手(管制塔)に伝え,両者が良好な関係で確認しながら手術(フライト)を遂行することが肝要である.

図01

VI.おわりに
現在までに140例のRATSを完遂したが,術中のマイナーなトラブルは13例で経験したものの,緊急ロールアウトを要するような重篤な状況に陥った症例は経験していない.RATSを安全に行うためにNon-Technical Skillsが果たす役割はとても大きく,経験を重ねてもなお,その重要性は高いと思われる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Paul S, Jalbert J, Isaacs AJ, et al.: Comparative effectiveness of robotic-assisted vs thoracoscopic lobectomy. Chest, 146(6): 1505-1512, 2014.
2) 橋本 昌樹,近藤 展行,中道 徹,他:呼吸器外科手術における術中Emergency症例の検討.日呼外会誌,30:794-799, 2016.

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