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日外会誌. 123(6): 614-617, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「外科系新専門医制度の現状,課題そして展望」
4.外科系新専門医制度におけるサブスペシャルティとしての小児外科専門医の役割と今後の課題

1) 鹿児島大学 小児外科
2) 千葉大学 小児外科
3) 東京大学 組織幹細胞・生命歯科学講座
4) 自治医科大学 小児外科
5) 国立成育医療研究センター 外科・腫瘍外科
6) 九州大学 小児外科
7) 大阪大学 小児外科
8) 日本小児外科学会 専門医制度委員会

家入 里志1)8) , 菱木 知郎2)8) , 古村 眞3)8) , 小野 滋4)8) , 米田 光宏5)8) , 田尻 達郎6)8) , 奥山 宏臣7)8)

(2022年4月15日受付)



キーワード
小児外科, 専門医制度, サブスペシャルティ領域, 日本小児外科学会専門医制度委員会, 外科系新専門医制度

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I.はじめに
新専門医制度は2018年度より発足し,2021年度には新制度下での日本専門医機構認定の外科専門医が誕生するとともに小児外科専門医は外科専門医を基盤とした連動研修を含めたサブスペシャルティ専門医の認定を受けることとなった.しかしながらそのサブスペシャルティの認定基準は基盤領域の基準をそのまま当てはめたに過ぎず,必ずしも稀少かつ特殊な小児外科疾患を扱う専門医としての立ち位置を反映しているものとは言い難い.本稿では日本専門医機構からサブスペシャルティとしての認定を受けた小児外科領域の専門医制度の現状と少子化を迎えるにあたっての今後の課題を解説する.

II.小児外科専門医制度の歴史と現状
学会認定医として開始した小児外科専門医はいち早くカリキュラム制を導入し,それは地方施設からハイボリュームセンターである都市部小児病院・こども病院での修練や専門医取得を念頭においたものであり,学閥にとらわれず学会が主体となって均一な専門医を育成するシステムを構築してきた.そのシステムに対して学会内の専門医制度委員会がプロフェッショナル・オートノミーとしての施設基準および専門医水準を保つための機能を果たしてきている.日本小児外科学会専門医制度規則の第一条にはその目的として「日本の小児が高い水準の医学の恩恵を受けることができるために,施設と教育の充実を計り,小児の外科に関する優れた学識と技能を備えた臨床医を社会におくることを目的とする」と記載されている.
2022年1月現在日本小児外科学会の認定を受けた専門医数は695名(276名の指導医を含む)であり,日本小児外科学会施設認定委員会が認定する専門研修医の修練施設としては認定施設90,教育関連施設113(A:57,B:56)となっており,専門医数は徐々に増加しつつある(表1).しかしながら専門研修医の修練施設と専門医の分布には地域差があり,15歳以下の小児人口10万人あたりの専門医数でみると,最も多い都道府県と最も少ない都道府県でみた場合には10倍近い差があり,現状で指導医が不在の自治体も存在する.

表01

III.小児外科専門医の取得条件と専門研修医の研修施設要件
日本小児外科学会が定める小児外科専門医の取得には,表2に記載した条件が必要となる.小児外科専門医は外科専門医を基盤領域とするサブスペシャルティ専門医であるが,小児外科医は呼吸器・消化器・泌尿生殖器・頭頚部・体表と多くの臓器ならびに先天形態異常疾患から施設によっては小児がん・臓器移植まで携わる必要があり,多領域の研修を経験できる外科専門研修の意義が特に大きいと考えられる.小児外科専門研修は,表3に示す学会が認定する研修施設でのみ行うことができる.研修の基幹施設となる認定施設を中心に,教育関連施設A,教育関連施設 B が認定施設と連携して専門研修を担う.さらに小児外科診療を開設して3年以内の施設を対象とする特定教育関連施設を昨年新設した.専門医新規申請の際に必要な臨床経験は上記の研修施設で行われた NCD-P(小児外科領域のNCD)登録症例に限定している.
小児外科では基盤領域の外科専門医のプログラム制とは異なりカリキュラム制を採用しているため,今回のサブスペシャルティの認定では単独施設としての専門研修基幹施設の設定が可能となっている(図1).またカリキュラム統括責任者間での合意があれば,専門研修医のカリキュラム間の異動も可能となっており,ライフイベントを含めた自由度の高いキャリアパスを形成することが可能である.

図01表02表03

IV.サブスペシャルティ認定後の課題と今後の対策
現時点では日本専門医機構が求めるサブスペシャルティの専門医数の要件としては以下のすべてを満たすことが求められている.1)すべての大学病院本院に1名以上のサブスペシャルティ専門医が常勤.2)大学病院本院を除く単独型あるいは主管型の臨床研修指定病院の半数以上に1名以上のサブスペシャルティ専門医が常勤.3)すべての都道府県にサブスペシャルティ専門医が2名以上.専門医機構の判定としてはこの1項目しか満たしていないとなっているが実情としてはすべて満たしていないと考えられる.また専門研修施設数・指導医数(必須要件)としては以下の1)あるいは2)のいずれかを満たすことが求められた.1)すべての都道府県に研修施設が1施設以上あり,かつ指導医がいること.2)上記1)を満たせない場合,同じ地域ブロック(例 九州,中国)で研修体制が確立でき,かつ,3年以内に上記1)を満たす具体的見通しがつくこと.という非常に厳しいものであり,現状では日本小児外科学会の指導医分布と研修施設に関してはこの要件も満たしていない.
日本小児外科学会の専門研修施設および専門医・指導医の分布から考えた場合,現実的に上記の要件を充足する枠組みは不可能に近い.しかしながら一方で専門医機構は“安定的な研修制度により専門医を翡出することが可能かどうか”を認定基準としている.そもそも都道府県単位での施設および専門医・指導医の分布の基準設定には無理があり,患者分布の観点から地区ブロック毎の人口あたりの施設および専門医・指導医数を学会側が設定し,診療および安定的な研修制度に対する取り組みを示す必要がある.そのためには日本小児外科学会がこれまで構築した認定施設および教育関連施設に関して,今後は従来の親施設・子施設の関連を改変することを念頭においた再編が必要となる可能性がある.サブスペシャルティ専門医としての地位やプレゼンスを維持するためにも,日本小児外科学会が長年にわたって構築してきた専門医制度を損なうことなく柔軟に対応していくことも重要である.

V.おわりに
小児外科は0~15歳までの頚部・胸部・腹部・骨盤の手術を担当する領域であり,臓器が多岐にわたる点,各疾患が希少である点が特殊である.新生児外科疾患は2018年の新生児統計で死亡率4.4%まで低下,小児がん(固形悪性腫瘍)生存率は約80%まで向上しており,世界最高水準の小児外科医療を提供している一方で,それは同時に小児外科疾患・小児がんサバイバーの増加を意味している.今後は治療後生存のQOLまで含めたケア,すなわちトランジション医療も重要になってくるため,小児外科診療は生存のみを追求した時代から比較すると,高度化・多様化してきている.今後は集約化と均てん化のバランスをどのようにとっていくかが重要である.急速な少子化が進む過程で,小児外科医療とそれを担う専門医のQuality Controlを考えた場合に,今後は小児外科施設の機能分化が必要となってくると考えられる.つまり高度医療を担う施設と一般小児外科医療を担う施設を明確化するなどの方策を学会や自治体が本気で考える時期に来ている.
全国の津々浦々に発生する小児外科患者に対する均一な小児外科医療と,それを提供できる次世代の質の高い小児外科医専門医の育成,さらには日本専門医機構の求める要件を鑑みて,その専門医を地域ブロック制などにより適切に配置していくことが,今後日本小児外科学会に求められる重要な課題の一つである.

 
利益相反:なし

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