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日外会誌. 123(6): 608-610, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「外科系新専門医制度の現状,課題そして展望」
2.市中病院における外科系新専門医制度の現状と課題 ―専攻医の立場から―

1) 聖路加国際病院 外科
2) 聖路加国際病院 専門研修委員会

出口 晴教1) , 鈴木 研裕2) , 海道 利実2) , 板東 徹2) , 松藤 凡2)

(2022年4月15日受付)



キーワード
市中病院, 新専門研修, 外科専攻医, 現状調査, サブスペ

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I.はじめに
小児外科医を志す私は専門性に関わらず幅広く外科の基本を身に着けるために総合病院での研修を選択した.しかし,他の専攻医と私の志望理由や達成目標が同じとは限らない.そこで,当院の外科専門研修プログラムの現状を把握し,優秀な外科医になるという目標到達のための課題を探る目的でアンケート調査を行ったので報告する.

II.目的
専攻医が外科修練プログラムに何を求めているかを探り,市中病院における外科系新専門医制度の現状と課題を考察する.

III.聖路加国際病院の外科専門研修
聖路加国際病院では2016年度より新外科専門医制度に準拠した外科専門研修プログラムを開始した.本プログラムの基本方針は,general surgeonを育成すること,連携施設と各科ローテーションを組み合わせて将来のサブスペシャルティへの移行に配慮すること,専攻医たちの多様な進路・ライフスタイルにも配慮することにある.
当院の専攻医は,1年目に基幹施設で外科系5科をローテーションして標準的な手術を経験し,外科医の基礎を身につける.2年目は,専門性の高い外科治療を行っている連携施設や地域医療施設で研修することで,幅広い臨床経験を積む.3年目は,各自サブスペシャルティに沿ったローテーションを行う.
連携施設には,帝京大学医学部附属病院救急科,JCHO東京山手メディカルセンター大腸肛門科,やました甲状腺外科,国立成育医療研究センター移植外科など専門性の高い施設と鹿児島県立大島病院や沖縄中頭病院といった地域医療を学べる施設がある.

IV.対象と方法
2016年度から2021年度に当院の新専門研修プログラムを開始した全専攻医31人に対して無記名webアンケート調査を行った.

V.アンケート質問内容
①外科修練プログラム選択における関心事項
(1.考慮していない,2.多少考慮している,3.考慮している,4.強く考慮している)
症例数・幅広い症例・指導体制・手術トレーニング設備の充実・高度で専門的な医療・抄読会・勉強会の頻度・論文作成・学会発表・理想とする先輩医師の存在・職場環境・当直回数・大学医局と関連がない・家庭の都合・給与
②外科修練プログラムの満足度
(1.まったく満足していない,2.あまり満足していない,3.満足している,4.大変満足している)
●Skill:多くの症例を経験できた・幅広い症例を経験できた・指導体制がしっかりしていた・手術手技が向上した・独り立ちができた
●QOL:働きやすい環境であった・プログラムの自由度が高い・連携施設が多い・東京で働ける良さを感じた・給与が十分であった
●Career:理想とする先輩医師に出会うことができた
③外科修練プログラムの良かった点と改善点(自由記載)

VI.結果
回答率は16人/31人(52%)であった.
① 外科修練プログラム選択における関心事項
1位.いい職場環境(15/16人・94%)
2位.幅広い症例・しっかりした指導体制(13/16人・81%)
3位.理想とする先輩医師の存在(12/16人・75%)
4位.大学医局との関連がない(11/16人・69%)
5位.良い給与(10/16人・63%)
② 外科修練プログラムの満足度
4段階評価中,3以上を答えた専攻医の割合を示す.
●Skill:多くの症例を経験できた(9/16人56%),幅広い症例を経験できた(11/16人69%),指導体制がしっかりしていた(12/16人75%),手術手技が向上した(11/16人69%),独り立ちができた(6/16人38%)
●QOL:働きやすい環境であった(15/16人93%),プログラムの自由度が高い(12/15人75%),連携施設が多い(11/16人69%),東京で働ける良さを感じた(11/16人69%),給与が十分であった(9/16人56%)
●Career:理想とする先輩医師に出会うことができた(13/16人81%)
③ 外科修練プログラムの良かった点と改善点(自由記載)
●手技向上のためのステップバイステップのフィードバックがほしかった.
●学年関係なく目標がクリアできたら執刀機会を与えてもいいのではないか.
●連携施設研修のための住宅・引っ越し費用補助がほしい.
同業配偶者の勤務先を配慮してほしい.

VII.調査結果のまとめ
今回のアンケートの結果から,満足度の高い項目としてしっかりした指導体制・自由度が高いプログラム・豊富な連携施設・ロールモデルとなるような先輩医師の存在・働きやすい職場環境が挙げられた.改善を要する項目として,術者としての症例数が少ない・幅広い症例を経験できなかった・独り立ちが実感できなかった・サブスペシャルティとの連携・異動時の手当と援助が挙げられた.

VIII.考察
豊富な連携施設は,プログラムの高い満足度を生んでいたが,幅広い症例や多くの症例数を経験することに寄与していなかった.異動時の部屋探し・引っ越し・ライフラインの手続きに専攻医は多くの時間がとられている.また,労働時間の見える化によって経験症例が制限されているという現状がある.これらの状況を改善し,修練時間を増やす工夫が必要である.
次に,独り立ちを実感できない理由として,診療の細分化によりFirst touchから術後のフォローまで一連の経過が追えないこと,診断の経験が少ないこと,専門性に特化した難易度の高い手術手技が挙げられる.このような状況の中で独り立ちを実感するためには,連続した教育が行われるよう連携施設研修時期・期間を配慮すること,ローテーション中の専攻医も外来においてfirst touchから術後のフォローまで一貫した診療を修練できるようにすること,術式ごとに手術手技を段階的に分化し,客観的な技能評価を行うことが必要と考える.
図1のグラフは,当院のサブスペシャルティごとの進路を示している.乳腺外科は比較的当院に継続して在籍することが多い一方で,呼吸器外科・小児外科では大学に入局することが多い傾向にある.消化器外科,心臓血管外科に関しては,さまざまな進路がある.
専攻医たちはどの進路でサブスペシャルティの専門医をとるか悩んでいる.高次専門医取得までの道筋が不透明な中で,ロールモデルの存在がキャリア形成の不安を解消するための一助になっていることが今回のアンケート結果から分かった.

図01

IX.おわりに
当院の専攻医は,主体的な研修プログラム選択に期待している.一方で,自身の選択への不安もあり,指導医からの客観的評価と指導を求めている.また,サブスペシャルティとの連携は常に問題点として挙げられるが,ロールモデルの存在はキャリア形成の一助になっている.

 
利益相反:なし

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