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日外会誌. 123(6): 516-517, 2022

項目選択

若手外科医の声

矯めるなら若木のうち

和歌山県立医科大学 外科学第2講座

水本 有紀

[平成20(2008)年卒]

内容要旨
消化器外科の世界ではまだ「若手」と捉えられる経験年数ではありますが,時にはさらに若手の先生に指導する立場となる年代でもあります.消化器外科を選択し学んだことを拙文ながらお伝えできればと思います.

キーワード
外科医, 消化器外科診療, 外科教育

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I.はじめに
なぜ消化器外科を選んだのか,単に手術が好きだから,というだけでなく,入局を決めた教室では教育方針が確立され,消化器外科診療に対する多角的な考え方の指導を受けられると感じたことが理由です.自身がこれまで学んだ教室の方針や消化器外科診療について自分なりに書かせていただきたいと思います.

II.消化器外科という選択
私が所属する和歌山県立医科大学・外科学第2講座では毎朝のカンファレンスや回診で常にエビデンスのある治療方法であるか,自身の教室のデータではどうか,今度はどういった研究をするのか,今どんな論文を書いているのかなど問われます.まず学生実習の時にこの方針に出あいます.初期研修医で回った際には,毎週土曜に教授との英語論文の抄読会が開催されました.そこでは最新の論文を用いて論文の読み方(批判的な目で評価する,など)だけでなく,自身でアイデアを出して教室のデータから新たなエビデンスを出す方法がないか,と考えるまでが大切なのだということを教わりました.また上級医だけでなく若手の先生も,通常の臨床業務を行った後夜遅くまで自身の教室からエビデンスを構築し世界へ発信する,この方針のもと研鑽している姿を目の当たりにしました.消化器外科では外科手術のみならず,周術期の化学療法や緩和医療などの癌診療全般,また基礎研究の視点も必要なのだ,との方針に感銘を受け入局することにしました.

III.入局後の教育
教室は早期に腹腔鏡を導入しており,専門チームを決める6年目の頃,特に下部消化管手術では腹腔鏡手術が発展している時期でした.これからは腹腔鏡が台頭してくる,との上級医の言葉,さらに消化器疾患の中でも大腸癌の手術や周術期管理や治療方法の多様性,また肛門疾患にも興味があり,下部消化管チームに所属することを選択しました.腹腔鏡手術では自身が術者,上級医が助手として根気よく指導をしていただき,手術を楽しむとともに,次の後輩を育てる見本になっています.また腹腔鏡手術では画像データを見返すことができ,復習することで手術の上達につながるのだと教えられました.
そしてどのチームでも,手術手技や周術期管理に加え,最新のエビデンスに基づいた,さらには教室で構築したデータに基づく周術期管理が必要であることを常に問われ考えさせられています.

IV.隣の合併症とそれから
「隣の合併症」(他の主治医が合併症を経験している時)から,自分も学び,自身の症例で起こった時に対応していくのだと教えられたことがあります.手術中だけでなく,合併症が起こった時は,チーム皆で協力し症例に対応していく中で,自身の経験を積むことにもなります.一方で実際に主治医として合併症を経験したとき,特に縫合不全などで重篤になった患者の診療の際,他の先生の経験を参考にしながら対応しますが,自身の手術手技,術前・術後管理はあれでよかったのか,と振り返りや反省が常に頭の中をめぐります.画一的な合併症対応は難しいことも多々経験します.幸いほとんどの患者は回復し独歩で退院されましたが,一旦自身がメスをいれた患者への責任の重さは,進行癌の手術であろうと良性疾患の手術であろうと,いずれの手術でも変わらないと常々思います.そして経験した症例だけでなく,今後合併症のない手術や管理を行うにはどうしたら良いか,また,新たな治療方針が模索できないか,施設の症例データを見返して前向き研究へのクリニカルクエスチョンを見出し研究していく必要があると思わされる日々です.

V.手術だけでない消化器外科診療と研究
教室で季節ごとに行われる「臨床研究カンファレンス」では各診療チームが現在進行している臨床研究の進捗や結果が提示されます.結果が出てきた研究が提示されれば,「では,次は何の研究をするのか」と指導が入ります.どの症例も常に何かの研究の介入がなされるようにと考えられています.
また,「顕微鏡の目を持ちなさい」との方針は,術野や切除標本,組織をみて分子レベルまでその病態に習熟しなさいとの言葉です.つまり基礎研究の目を持つことでより深く症例の診療にあたることができるとの考えで,教室では基礎研究を中心とした学位の取得も推奨されています.臨床研究の中にも基礎研究の要素を加え研究計画を立てることも多く,貴重な一症例が参加した一研究から多角的な結果を導き出せる工夫を行う必要があると学びました.

VI.他施設との交流
機会をいただき,防衛医科大学校・外科学講座に2021年3月に2週間,研修に伺いました.自身の教室との共通点または差異を,日常診療のみならずアカデミックな視点からも学ぶことができ大変勉強になりました.教室内で得る学びも多いのですが,違った視点を持った先生方と交流を持つことでさらに深い見識を得られるのだと実感しています.井の中の蛙が大海を知った心持ちとなりました.

VII.おわりに
和歌山県立医科大学・外科学第2講座で山上裕機先生のもと研修医の頃から,病棟管理や手術といった診療だけでなく,臨床研究,エビデンスの構築の必要性を学ぶといった修練を行ってきたことは,いかなる場面でも生かされるものと改めて感じています.刷り込みのごとく,最初に学んだ考え方はその後の外科医人生に大きく影響しています.研修医へ指導する立場となった時,今まで学んだ方針を自分なりに解釈して後輩に伝え,自分よりも良い外科医になって欲しいと望んでいますし,自身もそのように育ててもらいました.また今回,本誌の編集委員であり,研修でもご指導いただいた防衛医科大学校・外科学講座の上野秀樹先生からこのような機会をいただき,改めて自身の外科医としての在り方を認識することができたことに深謝申し上げます.

 
利益相反:なし

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