[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (661KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 123(5): 495-497, 2022

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「男女を問わず外科医が輝き続けるために」
4.地方大学病院における女性外科医も輝ける働き方改革―当教室の目指すWell beingでSustainableな働き方―

広島大学 消化器・移植外科学

黒田 慎太郎 , 小林 剛 , 大段 秀樹

(2022年4月14日受付)



キーワード
外科医, 働き方改革, 大学病院, 地方, 男女共同参画

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
厚生労働省の令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況1)によると,令和2年12月31日における全国の届出「医師数」は339,623人であり,平成30年の前回と比べると12,413人,3.8%増加している.一方で,診療科別にみた医師数では,主たる診療科が「外科」の医師数は27,946人と,平成30年と比べ113人の増加を認めるものの,平成10年の28,871人と比べると減少していることが分かる.これは,同時期に医師数が1.2~1.8倍の増加傾向にある他診療科と比較し,異常な結果である.これは,新規に外科を専攻する若手医師の減少が原因であり,結果として,診療科内の高齢化をきたしている.現在の傾向が継続すると,わが国の人口推移と同様,近い将来,外科医の総数は減少に転じ,外科診療体制の維持が困難となる.

II.地方大学病院における女性外科医も輝ける働き方改革の必要性
先の報告書では,地域における医師の偏在も指摘されている.一般に医師数は西高東低とされるが,広島県は人口10万人当たりの250.7人であり,全国平均とほぼ同等である.わが国の平均的なサンプルである広島県において,持続可能な外科診療体制を構築することで,多くの地域の参考となるであろう.
広島大学の調査では,年々,女性医師の増加傾向を認め,令和2年では医師全体の24.2%を占める.女性医師数も,平成26年と比較して,151人,27.2%の増加を認める.一方で,外科における女性医師数は極めて少なく1割に満たない.これは,外科医のなり手不足の一因でもあり,その責任はわれわれ外科医の側にもあると考える.
今後は,外科の分野でも女性医師の活躍を期待したいところであるが,女性外科医のサポートを行うというよりは,女性・男性問わず,外科医が人間らしい働き方が出来るような,根本的な働き方改革が必要である.われわれの教室では,これを,Well-being Projectと銘打ち,持続可能な外科診療体制の構築に着手した.

III.若手外科医へのアンケート調査
平成19年4月,当教室と関連病院の外科レジデント18名に対してアンケート調査を行った.結果を抜粋すると,平日の帰宅は22時,休日も3時間は勤務.宿直は実働を伴うものの,翌日の勤務は通常通りであった.1カ月の時間外労働申請は約80時間であった.他診療科と比べ外科医の労働時間は長く,身体的負担は大きいものの,指導やサポート体制も充実しており,何とか頑張れているという結果であった.一方で,労働環境としてはハードワークが前提であり,研修医には人気がなかった.以上の結果を受けて,当科では働き方改革に向けて大きく舵を切った.

IV.消化器外科におけるチーム制導入について
われわれの専門とする消化器外科は,予定,緊急を問わず手術件数が多く,従来からハードワークを求められてきた.特に大学病院においては,教育,研究,臨床と求められる業務は多い.限られた人数でより大きな成果を挙げるためには,業務の整理や効率化が求められる.
われわれが,もっとも力を注いだのはチーム制の導入である.2019年の秋より,日常診療におけるチーム制(消化管,肝胆膵・移植の2チームに編成),夜間休日における当番制(病棟管理,急患手術は待期の4名で行う)を導入した.当時は当教室も主治医制を敷いており,業務効率は決して良くなかった.主治医は「自分の患者」を「自分で治療する」という責任感が強く,また,われわれもそのように教育されて育った.しかし,裏を返せば,「他の医師の患者は診ない」,または,「他の医師に患者を任せない」ということでもあった.この考えを根本から覆すことに,当初は教室内でも戸惑いがあったものの,徐々にメンバーにも受け入れられていった.外科医のあり方も大きく変化し,チーム制により,1.オフができた,2.チームの責任となった,3.メンバーから様々な意見が出るようになり,結果的に医療の質が上がった.など,多くのメリットがあった.
当初は,治療方法の統一や,治療方針の情報共有などについて懸念があったが,チーム内での治療方針統一のために,治療マニュアルを整備し,電子カルテ内での記載方法や項目についてのフォーマットを作成した.更に,情報共有においてはクラウドサービスのMicrosoft Teamsを利用し,大学の規定を確認しながら,そのセキュリティの高さからも,安全に患者情報のやり取りを行うことが出来るようになった.患者情報がチームのメンバーにリアルタイムに共有され,治療方針に対する意見を出し合いながら,チーム全体で機動性の高い診療が行えるようになった.
休日でも非当番日は完全オフとなり,プライベートとの両立も可能となった.また,共働き世帯の外科医や,子育て中の外科医など,多様性のある働き方を許容する精神が芽生え,チーム全体で協力し合って診療を回していく仕組みが出来上がった.

V.多様性の尊重,ロールモデルの創出
女性に限らず,若手医師が診療科を選択する際の重要なファクターの一つが,計画的な働き方が出来るかどうかである.わが国では共働き世帯が,専業主婦世帯の2倍を超えており,特に出産,育児などといったライフイベントや日常生活において,勤務時間や休業日のはっきりしない職場は敬遠される.また,医師自身の出産や子育て,病気や体力低下に伴う多様な働き方の受け皿を用意できることも望まれる.外科においてはこのような多様性に対する尊重やロールモデルの創出が後回しにされてきたと考える.
われわれは,教室内の共働き世帯の医師や,子育て中の若手医師,出産前・後の女性医師など,異なる立場の外科メンバーを集めて勉強会を開始した.実際に医師として勤務していく上での問題点や,社会サービスの利用,職場環境などについて,毎回様々なテーマについて意見を持ち寄り,解決策などの話し合いを持った.結果として,職場環境の改善や,柔軟な人事の対応などが可能となった.何より,先のチーム制移行の効果も相まって,プライベートを大切にし,多様な働き方を認め合う雰囲気が醸成されたことが最も大きな収穫であった.
一昔前では,家族の行事のために職場を抜けることも難しかったが,有休の取得なども容易になり,男性外科医の育児期での休暇取得などもあり,教室の職場環境は大きく変化した.

VI.おわりに
以上,当科における働き方改革~Well-being Project~を紹介した.チーム制を進めるために最も必要なのは,メンバー内の相互理解と相互扶助であり,チームで助け合って働くことは,まさに,外科医の最も得意とするところである.今後,若手外科医の増加,業務内容の整理,手術施設の集約化などにより,持続可能な外科診療体制の構築が望まれる.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 厚生労働省.令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2022年5月20日. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/index.html

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。