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日外会誌. 123(5): 486-488, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「男女を問わず外科医が輝き続けるために」
1.ハイボリュームセンターにおける持続可能な働き方改革

1) 公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター 乳腺外科
2) 公益財団法人がん研究会有明病院 乳腺センター

阿部 朋未1) , 片岡 明美1) , 荻谷 朗子1) , 植弘 奈津恵1) , 春山 優理恵1) , 岡野 健介1) , 中平 詩1) , 中村 暁1) , 中島 絵里1) , 高畑 史子1) , 井上 有香1) , 吉田 和世1) , 前田 哲代1) , 高橋 洋子1) , 稲荷 均1) , 坂井 威彦1) , 宮城 由美1) , 上野 貴之1) , 大野 真司2)

(2022年4月14日受付)



キーワード
働き方改革, 乳腺外科, タスクシフト, チーム主治医制, 研究チーム

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I.はじめに
わが国ではがん罹患数は増加の一途であるが,日本外科学会の新規入会者数の減少と,女性外科医の割合が増えており,医師が妊娠・出産・育児をしながらも仕事を継続できる環境を整えることは重要な課題である.当院の乳腺センターは年間の原発性乳癌手術件数が約1,400件と乳癌専門のハイボリュームセンターである.当科の常勤医は18名中女性が12名であり,皆が働きやすい環境として特定の人に負担が偏らない制度作りが必要と考え,全ての乳腺外科医が持続可能な働き方改革に取り組んでいる.筆者は卒後4年目で当院に入職し,途中育児休業を経て9年目で乳腺専門医を取得した.その経験も踏まえ当科の働き方改革の取り組みを報告する.

II.働き方改革の実際
乳腺センターは乳腺外科と乳腺内科に分かれ,周術期治療と転移再発治療の診療を分担している(図1).診療の他にも対外的な各種学会役員,ガイドライン作成,セミナー講師,教科書執筆,雑誌監修などの依頼も多い.個人の自己研鑽の時間を確保するためにも,働き方改革は極めて重要である.以下は乳腺外科で行った改革である.
①チーム主治医制の導入(図2):以前は指導医とレジデントの1対1体制であり,急な欠勤時や出張時にカバーするのが大変だった.リーダー,中堅医師,レジデントの約5名程度のチーム主治医制へ変更することで,急な欠勤・早退・出張時でも相互協力ができるようになった.またチーム毎に外来・手術・検査担当日を決めたことで,研究日を導入することができた.これにより,各自が自己研鑽時間の確保や,有給休暇を取得しやすくなった.
②当直体制の見直し:当直可能人数が減少したため,乳腺外科単科当直から外科系合同当直に参入し,オンコール体制とした.これにより一人当たりの当直回数が減少した.育児中の医師も可能な範囲でオンコールや日当直を分担している.また,当直の翌日は院内規定に基づき早退するようにしている.
③多職種との業務分担:乳がん患者一人に対する周術期の業務内容を図3に示す.この中で医師が行う業務,医師でなくても行える業務,医師でなくても途中まで行える業務に分類し,ドクターズアシスタントを雇用しタスクシフトを行った.医師は医師しかできない業務に集中することにより,医師の業務に余裕が生まれた.また入退院支援センターで看護師,薬剤師が入院前に患者と面談して持参薬や併存疾患の状況を把握し,周術期の全身管理に役立てることができている.
④非常勤医師の採用:当科勤務歴がある医師を中心に非常勤医として手術助手,マンモグラフィの読影業務,検査・外来診療の一部を依頼した.
⑤研究チームの体制:乳がん治療に関するテーマごとに研究チームを作り,定期的にミーティングを行うようにした.当科には手術,診断,薬物,組織,Molecular biology,遺伝,サバイバーシップ,未来医療の八つのチームがある.各チームで定期的に議論の場を持つ事で,個人の研究のモチベーションを維持しやすくなった.
以上の取り組みの背景として,①は育休から復職後の医師が突発的な休みを取得しにくく,上長がヒアリングして方針を決めた,②~④は医師の数が減っても年間の手術件数の維持や当直をしなければならないために考えた,ということがある.結果として有給休暇取得や自己研鑽の時間を確保しやすくなり,学会発表や論文業績を積み,専門医・指導医取得などのキャリアアップにつながるという各個人へのメリットが大きかった.それでも予定手術終了が時間外になる,時間外の症例検討や定例会議が多いなどの問題が残っており,今後の解決すべき課題である.

図01図02図03

III.おわりに
上記改革は必要性に迫られて議論し合い,決められてきたものである.異動や妊娠・出産による休暇取得などで,外科医が少なくなっても同じ手術件数を維持しなければならず,苦肉の策で考えたところ,個人の働きやすさにもつながった.個人の多様な背景に配慮しながら,一人ひとりが限られた時間内でどう働き組織に貢献するのかをよく考え,お互いにwin-winと感じられる環境を整えていくことが重要と考える.どの立場でもそれぞれが抱えている問題や悩みはあり,チーム内で調整し,上司と相談しやすい雰囲気であることも必要である.これからも益々各自がやりがいを感じ,能力を発揮できるような輝ける職場となるように改革を続けていきたい.

 
利益相反:なし

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