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日外会誌. 123(5): 462-464, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「COVID-19は外科医療にどのような影響を及ぼしたか―現状と展望―」
5.新型コロナウイルスパンデミック下における肝胆膵外科領域疾患トリアージの有効性および安全性に関する検討

順天堂大学 肝胆膵外科

髙橋 敦 , 吉岡 龍二 , 市田 洋文 , 三瀬 祥弘 , 齋浦 明夫

(2022年4月14日受付)



キーワード
コロナウイルス, 肝胆膵外科, トリアージ

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I.はじめに
2019年12月に中国武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が多発していることが発表され,2020年1月にWorld Health Organization(WHO)が新型コロナウイルス(以下,COVID-19)を認定した.以降世界中に感染が広がり,日本国内でも感染者数が増加,2020年4月7日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が発令された.こうしたパンデミック下における医療の体制としては,増え続けるCOVID-19患者への医療資源(病床・人員・感染予防具)の確保や院内感染予防の観点からも,延期可能な待機手術については延期が望ましいと考えられている1).本邦における待機手術のトリアージ基準としては米国外科学会が挙げたElective Surgery Acuity Scale(ESAS)を基に,日本外科学会が提唱した基準がある2).しかし,ESAS,日本外科学会の提唱ともに,ほとんどのがん手術に関しては,「感染予防策を講じ,慎重に実施」となっており,がんの外科治療を主に行っているわれわれが出来るトリアージは限られている.2020年4月6日以降,順天堂大学医学部附属順天堂医院でも手術枠の制限が行われている.当科では日本外科学会のトリアージ基準に基づいて手術待機症例を分類し,手術実施が推奨されるカテゴリー3について独自の基準を用いてさらに細分化し手術トリアージを行った.この未曽有の事態は現代の誰も経験したことのない状況であり,こうしたCOVID-19パンデミック下においてわれわれがbest practiceとして提供する医療を検証することは非常に重要かつ意義のあることと考えた.

II.背景
COVID-19が世界的に広まってきた時期に,世界的に手術トリアージ基準が出され,また日本外科学会からもトリアージの基準が出された(図1).実際のトリアージ状況というと延期可能な待機手術は延期が望ましく,良性疾患に関してはすべからく延期が望ましいといった状況であった1).肝胆膵外科領域の悪性疾患に関しては,基本的にすべてカテゴリー3と考えられ,疾患によって代替療法がある際は手術延期が考慮され,NET,GIST,IPMNなどといった低悪性腫瘍に関してはカテゴリー2と考えられた3).こういった基準が示されたのを受け,当科としてもカテゴリーを設定した(図2).日本外科学会の基準に則り,カテゴリー3に関しては3aから3dに分けて,検証した.

図01図02

III.目的,対象,評価項目
今回,COVID-19パンデミック下における当科の肝胆膵外科領域癌疾患管理の妥当性および治療成績を損ねることなく,パンデミック下の待機手術制限の目的を達成できたかを検証した.対象は当院で手術枠制限が通達された2020年4月6日から2020年5月25日までに手術を企図した症例で計43例であった.評価項目としてはカテゴリー3の最終的な切除率,代替治療の病勢コントロール率,代替治療の安全性,手術までの待期期間と設定した.

IV.結果
症例は,カテゴリー1においては胆嚢結石症23例であり,これらはすべて延期とし,カテゴリー2においては腎がん膵転移1例であり,こちらも延期とした.カテゴリー3aは肝細胞癌8例であり,いずれも代替療法としてTACEを選択した.カテゴリー3bは大腸癌肝転移4例,肝門部領域胆管癌1例,胆嚢癌1例であり,代替療法として化学療法を選択した.カテゴリー3cは膵癌4例で延期をせず手術とした.カテゴリー3dに関しては肝膵同時切除となる肝門部領域胆管癌1例で代替療法として化学療法を選択した.待期期間としては肝細胞癌では中央値で84日,大腸癌肝転移では115日,胆道癌で148日であり,代替療法を選択した症例はいずれも病勢進行は認めなかった.また合併症に関しては,化学療法に伴うグレード3以上の有害事象は認めず,TACE後の虚血性腸炎1例の他に合併症は認めなかった.R0/1切除率は84%の結果であり,1例膵癌で腹膜播種を認め試験開腹,TACE後合併症によるADL低下で手術不可1例,代替療法で病勢コントロールがつき,手術拒否が1例を認めた.また手術制限率は53%で当院で要請された手術枠制限率50%を達成した.
COVID-19パンデミック下においても,手術トリアージを行い,代替療法を行うことで病勢をコントロールし,84%に企図した手術を最終的に行うことができた.

V.おわりに
COVID-19 パンデミック下における肝胆膵外科領域疾患のトリアージについて報告した.肝胆膵外科領域疾患の中でも癌の種類や進行度に応じてトリアージを行うことで,治療成績を損ねることなく医療を提供することができた.COVID-19 のコントロールについてはまだまだ先がみえない状況であるが,事態が早期に収束に向かうことを期待したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) COVIDSurg Collaborative: Global guidance for surgical care during the COVID-19 pandemic. Br J Surg, 107(9): 1097-1103, 2020.
2) 日本外科学会ホームページ.2022年4月22日. http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
3) Bartlett DL, Howe JR, Chang G, et al.: Management of Cancer Surgery Cases During the COVID-19 Pandemic:Considerations. Ann Surg Oncol, 27(6): 1717-1720, 2020.

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