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日外会誌. 123(5): 378-380, 2022

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理想の男女共同参画を目指して

外科における「男女共同参画社会」の実現に向けての課題

1) 福岡大学 呼吸器・乳腺内分泌・小児外科
2) 福岡大学病院 臓器移植医療センター

白石 武史1)2) , 岩﨑 昭憲1)

内容要旨
「男女共同参画社会」と「働き方改革」は現在行われている雇用社会改革の主柱である.医師社会においても,バランスをとりながら両者を実現してゆかなければならない.幸いなことに,双方は主旨が一致する部分が多い.

キーワード
男女共同参画社会, 外科, 働き方改革, 変形労働時間

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I.はじめに
外科は長時間手術・緊急対応・体力的高負担等が特徴とイメージされ,かつて女性の入局者が大変少なかった.しかし,昨今は女性医師数そのものが増加したためか,女性医師の入局数も増えてきた.これからは「男女共同参画」への取り組みが,外科にとっても益々重要になる.しかしワークライフバランスが悪い外科において「男女共同参画社会」を実現するには,家庭や出産・育児に負担が掛かりがちな女性医師に対し特別な配慮が必要になる.
最近,「働き方改革」の動きの中で「男女共同参画社会」の問題を意識した取り組みが実施されており,国レベルで女性医師の雇用環境が大きく変わりそうな気配がある.一方で外科では2016年から大変厳しい「(新)外科専門医制度」が動き出しており,「男女共同参画社会」「働き方改革」の社会変動のなかでこの厳しいカリキュラムが女性医師にどのように影響を及ぼすかも気になる所である.
「男女共同参画社会」は,女性医師が出産・育児に取り組みやすくかつキャリアにも不利を招かないようなものでなければならない.本稿では,外科における「男女共同参画社会」の実現にどのように問題が関係するかを考察したい.

II.女性医師の雇用に対するわれわれの経験
われわれの教室は呼吸器外科(胸部外科)を主軸とし,小児外科と乳腺外科を備えた部門である.教室開設以来16年間の新規入局者は19名で,女性は9名(47.4%)であった.9名の女性医師は基礎修練後に5名が呼吸器外科,4名が乳腺外科を専攻した.対する男性医師は,10名中9名が呼吸器外科を,1名が乳腺外科を専攻したので,両領域に於ける女医比率は夫々35.7%,80.0%であった.女性医師が乳腺外科に集中したが,これは対象が女性臓器である事だけでなく,手術時間の短さや外来・病棟業務が主である勤務形態など,「家庭・出産・育児生活がイメージしやすい」事などがその理由であった.
女性医師9名のうち6名(呼吸器外科3名,乳腺外科3名)が入局後に結婚し,6名全員が結婚後2年以内に第1子を出産した.出産の前後には6~7カ月の出産・育児休暇を取得し,復帰後は育児のために一定期間変形労働時間制で勤務した.福岡大学病院の場合,医師の勤務形態に変形労働時間制はないので,女性医師が空けた欠員は男性医師が補填し,女性医師に時間外勤務や夜間呼び出しの負担がかからないようにした.
以上女性医師の処遇に関するわれわれの経験から振り返ると,男女共同参画には1)女性医師保護のための「タスクシェア」,2)女性が働きやすい「部門(乳腺外科)」の存在,が重要であったと思う.女性医師に対する医局の配慮がどう受け止められたかは不明であるが,実際に結婚・出産を経験した5名の女性医師のうち出産後に専攻を変更あるいは離職した女性医師はいなかった.

III.「男女共同参画社会」を取り巻く問題
1)働き方改革関連法との関連
「働き方改革関連法」が2023年には医師の業務にも適応される.この中で厚労省は「医師労働時間短縮計画策定ガイドライン」1)を発表した.これには,医師の業務負担を軽減するための具体策として「タスクシフト」や「タスクシェア」が示されている.また,業務を効率化するための主治医制の見直し(チーム医療による医師負担軽減),応召義務の柔軟な解釈(労働基準法を超えた応召義務の見直し),医師の勤務管理の厳格化(トップマネージメントによる過剰勤務の是正),などが提案されている.
それに加え,出産・子育て支援のための短時間勤務,院内保育の整備,変形労働時間制など,まさに「男女共同参画社会」に必要な事項も具体的に提案されている.「男女共同参画社会」実現に向けての社会の好ましい方向性とも言え,これまで組織だって行われてこなかった医師社会における「男女共同参画社会」の実現努力が国の主導で行われつつあると言える.外科医療現場としては,「働き方改革関連法」実現の中で「男女共同参画社会」がどのように後押しされ実現してゆくかを注意深く見守り,積極的にこれに参画する必要がある.
2)外科専門医制度
「働き方改革」の中で,短時・時差・変形労働時間制が導入された場合,外科キャリアの入り口に立ったばかりの若手女性医師に「キャリア」という点で不利にならないようにしなければならない.
外科では専門医制度が2018年から大幅に変更された2).この制度によると外科においては日本専門医機構が定めた医療機関で3年以上の研修を積む必要がある.年齢的には20代後半から30代前半が該当し,結婚・出産の適齢年齢層に一致する.この中で,外科専攻医は3年間で350例以上の手術件数(うち術者として120例)を経験せねばならない.これは,旧外科専門医の経験条件と比較しても格段に厳しい条件である.しかも,「修練中に妊娠・出産で180日以上の休止期間が生じた場合には研修は一旦未修了とする」という条件があり,途中でプログラムを休止した場合は終了後に休止期間と同じ日数以上の追加修練が必要となる.女性医師が「新外科専門医」の修練のキャリアに欠損を作らずに妊娠出産休暇を取ろうとするならば,半年以上の出産育児休暇はとりづらいことになる.
外科の新専門医制度はまだ動き出したばかりのシステムであり,今後運用に微調整が加えられる可能性があるが,「男女共同参画社会」実現へ向けた動きの中で女性医師にとって柔軟な運用となるよう願うばかりである.

IV.おわりに
「男女共同参画社会」の実現は日本社会のこれからのために必要であるし,成し遂げねばならないことである.しかし「男女共同参画社会」はこれまでにも度々唱えられ,その必要性が強調されてきた問題であったが,ただでさえ過重な医師の労働環境の中では実現することが大変困難な問題であった.特に,出産・育児の問題は女性医師のキャリア維持に対する重大な問題であり,医師社会における「男女共同参画」の大きな障壁であった.今回は,「働き方改革関連法」という力強いパートナーがある.男性の育児休暇の普及拡張も図られ,男性医師がこれを選択するような状況になるかもしれない.
「男女共同参画社会」実現に向けては千載一遇の好期のようにみえる.何とか実現してゆかなければならない.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省「第11回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料」. 2022年4月7日.  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15438.html
2) 日本外科学会ホームページ「専門医制度」. 2022年4月7日. https://jp.jssoc.or.jp/modules/specialist/index.php?content_id=1

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