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日外会誌. 123(5): 373, 2022

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Editorial

心臓血管外科施設の集約化

北里大学 医学部心臓血管外科

宮地 鑑



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慢性的な心臓血管外科医の不足と医師の働き方改革のため,心臓血管外科施設の集約化が喫緊の課題であるとされているが,なかなか進まないのが現状である.私の所属している北里大学病院のある神奈川県で,心臓血管外科(開心術)を行っている病院は全部で43施設ある.全国で550から600施設あると推定されるので,概ね人口比(神奈川県920万人)に一致する数である.このうち,100例以上の開心術を行っていると思われるのは13施設(30%)でしかなく,集約化は進んでいないことがわかる.病院の立場で考えれば,心臓血管外科開設には多額の設備投資を行っているので,経営上,そう簡単に閉鎖することができない.循環器内科の立場からみても,経カテーテル大動脈弁置換(TAVI)などの先進的な治療や植込み型除細動装置(ICD)やカテーテルアブレーションなどの不整脈治療では,常勤心臓血管外科医が施設認定に必要とされるため,症例数にかかわらず心臓血管外科医の存在は必須となっている.心臓血管外科関連の学会がどれだけ集約化を叫んでも,進まないわけである.心臓血管外科術後管理には,24時間中,医師を含めた多くのマンパワーを必要とする.症例数の少ない施設(週に1~2例の開心術)でも,手術と術後管理のため,通常は3名,最低でも2名の心臓血管外科医が常勤として働いている.
最近,心臓血管外科医の働き方改革を推進するために,診療看護師や臨床工学士の登用が提唱されている.これにより,術後管理や手術の助手などの従来,若手医師が担っていた仕事を軽減することで,心臓血管外科医の労務環境の改善が可能となると思われる.しかしながら,これだけでは症例数の少ない施設では若手専門医の効率的な育成と手術成績の向上は期待できない.
では,どうすればいいのか.心臓血管外科医の常勤を必ずしも必要要件としない制度の構築が効果的ではないかと考える.心臓血管外科医は複数の医療機関と提携(契約)して(本拠の施設はあってもよい),各々の施設で手術を行うことができるシステムである.少ない医師により多くの手術を行い,修練医も同様に短期間で多くの手術を執刀・経験できる.20年以上前にClinical Fellowとして働いていたアメリカでは,週に3日はメインの施設(開心術年間1,200例)で手術に入り,1日は別の小規模施設(年間200例)に行き,月に2回ほどまた別の小規模施設(年間150例)に行って,1年間に約250例の手術を経験した.7人のAttending Surgeon(執刀医・指導医)で年間約2,000例以上の手術を行っていたと記憶している.術後はAttending Surgeonたちが交代のon call体制で対応し,集中治療医とICUナースが急変対応をしていた.
本邦で行うとすれば,術後管理と急変時の対応はどうするかなどの解決しなければならない問題がある.私の施設では,小児心臓外科術後はPICUチーム(小児集中医療医)が中心となって,急変時対応や外科的処置以外の術後管理を行っており,心臓血管外科医の負担は大きく軽減されている.一方,成人心臓外科術後は心臓血管外科医が中心となって術後管理を行っているのが現状である.
今後,心臓血管外科施設の集約化を進めるためには,集中治療医および診療行為のできる看護師や臨床工学士の育成に加え,心臓血管外科医の常勤を必ずしも必要要件としない制度の構築も大きなヒントとなるのではないかと考える.

 
利益相反:なし

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