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日外会誌. 123(4): 359-362, 2022

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手術のtips and pitfalls

大網被覆術・大網充填術

1) 湘南慶育病院 外科・消化器外科
2) 慶應義塾大学 外科

和田 則仁1) , 北川 雄光2)



キーワード
グラハム手術, 消化性潰瘍, 上部消化管穿孔, 汎発性腹膜炎, 腹腔鏡手術

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I.はじめに
胃十二指腸潰瘍穿孔に対して早期の手術が推奨されるのは,発生後時間経過が長いとき,腹膜炎が上腹部に限局しないとき,腹水が多量であるとき,胃内容物が多量にあるときである1).また年齢が70歳以上であるとき,重篤な併存疾患があるとき,血行動態が安定しないときも,早期の手術が考慮される.胃十二指腸潰瘍穿孔は,H. pylori除菌の普及と抗潰瘍薬の進歩により発生は激減し,また保存的治療の進歩と相まって手術数も減少している(図1).腹腔鏡手術は術後疼痛の軽減や整容性などで明らかな有用性が期待できるが,胃十二指腸潰瘍穿孔の手術に関して術後合併症率や,食事開始や社会復帰までの期間などの低侵襲性を評価したランダム化比較試験は少なく,開腹手術に対して腹腔鏡手術を支持する質の高いエビデンスはない2).しかし腹腔鏡手術の比率は高くなってきており(図1),臨床現場では腹腔鏡手術のメリットが実感されていると考えられる.
体位は仰臥位とし開脚位も有用である.必要に応じて頭側挙上位とし,術者は患者左側あるいは右側に立つ.ビデオモニターは患者頭側に置く.術中内視鏡を行う場合は,挿管後加刀前に,内視鏡を食道内に留置する.肝が術野展開を悪くする場合は直針ナイロン糸を用いるなどして肝円索を腹壁に吊り上げ肝を挙上する.それでも視野不良の場合は心窩部に5mmトロカーを追加し(図2),ネイサンソンリトラクターやスネーク・リトラクターなどで肝を挙上する.腹腔内を観察(図3),細菌学的検査のための検体採取を行う.特に真菌を認めるときは重症化しやすいので注意を要する.穿孔部を確認し,大網を挙上し,穿孔部縫合閉鎖・大網被覆術(図4)または大網充填術(図5)を行う3).洗浄液が澄明になるまで腹腔内の白苔や汚染した腹水を吸引する.汚染の程度により,穿孔部,肝下面,ダグラス窩,横隔膜下,モリソン窩,傍結腸溝などに閉鎖式ドレーンを留置する.臍部以外のトロカー孔はドレーン挿入部として利用可能である.閉創時,5mmより太いトロカー刺入部は筋膜を縫合する.
言うまでもなくH. pylori感染,NSAIDs内服,喫煙などの生活習慣,ガストリノーマなど,潰瘍の発生の原因を調べ適切な対応を取ることが必要である.

図01図02図03図04図05

 
利益相反:なし

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文献
1) 和田 則仁:胃・十二指腸の良性疾患に対する外科治療.日本消化器外科学会監修,消化器外科専門医の心得 上巻,杏林舎,東京,pp288-290,2020.
2) Sanabria A, Villegas MI, Morales Uribe CH: Laparoscopic repair for perforated peptic ulcer disease. Cochrane Database Syst Rev, (2):CD004778, 2013.
3) 和田 則仁,才川 義朗,北川 雄光:胃・十二指腸潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下手術.北野正剛編,消化器内視鏡外科手術ベーシックテクニック,メジカルビュー社,東京,pp78-88,2008.

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