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日外会誌. 123(4): 352-355, 2022

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会員のための企画

アメリカで外科医として働く

シカゴ大学 心臓外科

北原 大翔

内容要旨
これは日本国外で外科医として働きたいと思う医師に向けた文章である.「日本で外科医として働く理由は何か」.この質問に明確な理由とともに答えを出すことができる外科医が日本にどれだけいるだろうか.医学部を卒業後14年経つが,著者は未だこの質問に明確な理由や動機,理念をもとに答えられる自信がない.日本に生まれ日本で育ち日本で教育をうけて外科医になったのであれば,日本で外科医として働くのは当然のことであろうと.著者のような考え方はこれまでは一般的であったように思う.しかしながら,この当たり前が通用しなくなる時代が来ている.働く場所を自分で選ぶ時代である.外科医としての実力を最大限に発揮できる場を自ら選ぶという考え方は非常に合理的であり,他分野において海外流出が著しく増加していく中で,医療界においても同様の傾向がみられることは必然である.著者は現在米国の病院で勤務しているが,毎日さまざまな国出身の外科医と顔を合わせる度に,ほぼ日本人しかいない日本の病院の特殊性に気づかされる.外科医という職業を自らが選択したように,働く場所を選択する時代が必ず訪れる.世界と日本を比べた上で日本を選んだ理由,「日本で外科医として働く理由」を明確に答えなくてはならない時代である.本文では米国で外科医として働く方法について解説する.

キーワード
留学, 外科医, 心臓外科, チームWADA

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I.はじめに
日本国外で働く外科医の数は,その情報量の増加とアクセスの簡便性向上などにより,今後加速度的に増加していくことが予想される.本章では,日本の外科医が米国に留学する方法について解説する.留学とは一般的には自国以外の国に在留して修学することと定義されるが,本著では国外で学びそこで永続的に外科医として働くことも含めて留学とした.外科医として働くということは学び続けることにほかならないからである(あるいは留学以外に他に妥当な言葉が存在しないからである).留学は大きく分けて病院で患者の診療にあたる臨床留学と,研究をメインとする研究留学に大別されるが,今回は前者の臨床留学についてのみ解説する.
米国における医師の名称はその成長過程によって三つに分けられ,それぞれレジデント,フェロー,アテンディングと呼ばれる.前2者はトレーニングを受ける立場の外科医であり,後者が日本で言う指導医の立場にあたる.日本の外科医が米国に留学する方法は,レジデントから留学する方法,フェローから留学する方法の二つに分けられる.それぞれについて次章で解説する.

II.レジデントから留学する方法
この章では米国の外科レジデンシーについて説明する.米国医学部卒業後,あるいは米国外の医学部を卒業後,外科レジデンシープログラムに応募し,マッチシステムにより採用された医師がそのプログラムでレジデントとして外科医の修練を開始する.外科レジデンシーは通常5年であり,その期間は消化器外科だけではなく,小児外科,胸部外科,移植外科など,様々な外科診療科をローテートして総合的な外科研修を行っていく.現在は心臓胸部外科一貫プログラム(Integrated cardiothoracic surgery residency, I-6)や血管外科一貫プログラム(Integrated vascular surgery residency, I-5)など総合に加えて専門性を有する外科医を育成するレジデンシープログラムも存在する.
外科レジデンシーを修了すると米国外科専門医の受験資格が得られる.その後はアテンディングとして独立するか,胸部外科や小児外科など更なるサブスペシャルティのフェローシップに進むかを選択する.アテンディング外科医は,その成熟度や卒後年数などにかかわらず自らの責任で患者の治療を行うことになる.レジデント・フェローなどのトレイニーとアテンディングの間に立場,給与,責任などに明確な線引きがあるのが日本とは異なる点である.また,日本が希望する診療科を自由に選択することができるのとは異なり,米国においては前述のようにマッチシステムにより外科レジデンシープログラムへの採用が決まるため,希望科を選択することができない場合もある.人気の診療科やプログラムであればAmerican Medical Graduate(AMG:米国医学部卒業生)でもマッチするのは困難と言われており,日本人を含むInternational Medical Graduate(IMG:米国外の医学部卒業生)が外科レジデンシープログラムにマッチすることは非常に難しい.外科レジデンシーの中にはさらにカテゴリカルとプレリミナルという枠組みが存在する.カテゴリカルは正規雇用されているレジデントを指し,5年間の雇用が保証されている枠である.一方プレリミナルは仮契約による雇用で,通常1~2年の期間が与えられ,その期間内にカテゴリカルのポジションを獲得,あるいは他科への変更を余儀なくされる不安定なポジションである.The National Residency Matching Program(NRMP)が毎年集計しているマッチングのデータによると,2021年の外科レジデンシープログラムのカテゴリカル枠は約1,500用意されており,その中に占めるIMGの数はたったの73であった(図1a).このようにIMGが外科レジデンシーにカテゴリカルとしてマッチするのは非常に困難であるため,多くの日本人医師がプレリミナルからマッチし,その後カテゴリカルの枠を獲得していく傾向にある.プレリミナルの枠は約1,100用意されており,IMGの占める数は191とカテゴリカルよりも入りやすいことがデータからもわかる.ただ,2017年から2021年までのレジデンシープログラムの枠数の変化をみると,カテゴリカルの枠が1,200から1,500へ増加する一方,プレリミナルの枠が1,300から1,100に減っていることには注目したい.カテゴリカル・プレリミナルどちらの枠で入るにしても外科レジデンシーにマッチするのは困難であるため,その準備は入念に行われるべきである.米国でレジデンシーを経験した医師50名にアンケートを実施したところ,マッチに必要な要素は優先順位の高いものから並べると,アメリカ人からの推薦状,米国における臨床経験(海軍病院での研修含む),USMLE STEP2CKの高得点,卒後年数5年以内,リサーチ・論文,充分な英語力,であった.データの詳細については別著「留学医師LIVE」に記載したので留学を希望する外科医はそちらを参考にしてもらいたい1)図1b).

図01

III.フェローから留学する方法
フェローシッププログラムは,米国内でのレジデンシー修了後に更なるサブスペシャルティを学ぶ機会として存在するプログラムである.この章では通常のフェローシッププログラムに入る方法ではなく,日本から直接米国のフェローシップに入る方法について言及したい.学生時代から留学を計画している人の多くが外科レジデンシーからの留学を目指しているが,日本で数年間外科医として修練をしてきた医師は,国外で新たな技術や経験を積みたいと思う一方で,再度研修医として働くことへの嫌悪や,卒後年数や準備の不足によるレジデンシーマッチの困難さなどから,フェローシップでの留学を選択する場合が多くみられる.特に日本に比べて米国でその執刀経験や症例経験数の恩恵を得やすい心臓外科・移植外科などは,日本で経験できない手技を学ぶ目的で短期,もしくは長期的なフェローシップの留学を計画する.逆に消化器外科や小児外科,脳神経外科などは国外で修練する必要性が相対的に高くないこと,対応するフェローシッププログラム自体が少ないことなどから報告例は少ない.
米国のレジデンシーやフェローシップなどのプログラムを評価・監視する団体ACGME(Accreditation Council for Gradat4e Medical Education)が認可しているフェローシッププログラムは,レジデンシー修了を採用条件にしているところが多いが,レジデンシーを修了していなくても研修を行うことができるプログラムもいくつか存在する.ACGMEに認可されていないプログラムであれば,例えば心臓外科・呼吸器外科などの場合,CTS netなどの外科医の求人を掲載しているWebサイト上のプログラムに応募,あるいは募集の有無に関わらず直接病院に連絡して採用が決まる場合がある(図1c).現在米国の多くの大学病院に日本人心臓外科医もしくは呼吸器外科医が勤務しているため,フェローシップのポジションもその医師間のコミュニティで共有される場合が多い.そのため,ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates:米国外の医学部卒業生のための米国医師国家資格)さえ取得してしまえば,米国のフェローシップは昔に比べて容易に獲得できるようになったと言える.移植外科のフェローシップはACGMEではなくASTS(American Society of Transplant Surgery)に認可されており,マッチシステムとプログラムによる直接採用が混在した形となっている.フェローシップは多くが1~2年の期間となっており,修了後は日本に帰る,フェローを継続する,レジデンシープログラムに入る,アテンディングに就職する,という四つの道を選択することになる.
レジデンシーからの留学と大きく異なる点の一つに専門医受験資格の有無が挙げられる.フェローシップのみを修了した医師の多くが米国専門医を取得することができないが,専門医は米国で就職や転職をする際に非常に重要である.この専門医を取得するために,フェロー修了後にレジデンシープログラムに入り直す医師も少なくない.最近ではこういった医師のためにAlternative pathway(米国外で研修を修了した医師による米国専門医の取得)を採用している専門医機構も増えてきている.ただし,その条件として指定された施設での数年以上の勤務や一定以上の業績などが細かく規定されており,取得するのは容易ではない.Alternative pathwayを採用している専門医機構やその条件は診療科によって異なるため,独自に調査することをおすすめする.参考に米国外科専門医(図1d),胸部外科専門医(図1e)のWebサイトを添付する.

図01

IV.おわりに
外科医として米国で働く主な方法を二つ解説した.国外で外科医として働きたいと思った時に,自分がどの道を選んだらいいのか,あるいは選んだ先に自分の望んでいるものがあるかどうか,それらは当人以外誰にもわからないことである.そのため,本著で述べている情報は参考程度にとどめてもらい,自ら情報収集を行い,日本での修練を精一杯継続し,人脈を構築し,自分の満足できる道をみつけてもらいたいと思う.著者が代表を務める留学情報発信団体NPO法人チームWADAは,外科を中心とした各診療科の最新の留学情報を発信する巨大なプラットフォームを形成し,積極的に留学情報の共有を行っている.また,留学を成功させる最も重要な要素の一つであるコネクションを得る場をYouTubeやTwitterなどのSocial mediaを使い提供している.留学情報を簡便に得る方法として活用することをおすすめしたい.最後に,外科医の留学に有用な書籍を二つ紹介したい.一つ目は「外科診療にみる医学留学へのパスポート シリーズ日米医学交流No.10」である.出版は10年前と古いが,詳細な留学情報を得るのに非常に有用である2)図1f).二つ目は著者が編集した「留学医師LIVE」である1).最新の留学情報と医師のアンケートデータをもとに臨床留学を分析した書籍となっており,海外留学の状況やその最適解を探るのに有用である.
本論文が今後働く場所を自分で選ぶ選択をする後輩外科医の役に立つ情報となったことを強く望むとともに,自分を含めた外科医が,今後日本で働くことの意義について考えるきっかけになることを願う.

図01

 
利益相反:なし

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文献
1) 北原 大翔,中山 祐次郎:留学医師LIVE.メジカルビュー社,東京,2022.
2) 財団法人日米医学医療交流財団:外科診療にみる医学留学へのパスポート,シリーズ日米医学交流No.10.はる書房,東京,2010

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