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日外会誌. 123(2): 172-175, 2022

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特集

Corona禍で大きく変わった学術活動,After Coronaでどう舵を切るか

6.ポストコロナ感染症の時代に国際学会の開催・参加方法はどう変わるか?

東邦大学大学院 消化器外科学講座・臨床腫瘍学講座

島田 英昭

内容要旨
新型コロナ感染症の影響で,2020年・2021年に開催予定であった国際医学会は大部分がオンライン開催となった.時差を気にしなければ,日常診療をあまり犠牲にしなくても最新の知見を視聴することが可能となったことである.実際に,日常業務の負担が大きいと感じている多くの外科医は,オンライン開催に大きなメリットを感じている可能性がある.主催する立場としては,一同に会するリアルな学会での偶然性や親近感など生番組の味わいを断念せざるを得ない状況となった.ポストコロナの時代に,この傾向はどのようになるのか?日本の外科系学会の置かれている現状と将来への戦略について考察してみたい.

キーワード
ポストコロナ, アジア, オンライン会議, 著作権

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I.はじめに
MICEとは,Meeting(会議・研修),Incentive(招待旅行,travel, tour),Conference(国際会議・学術会議)またはConvention,Exhibition(展示会)の頭文字を合わせた造語である.新型コロナ感染症は,おそらくは第二次世界大戦後の国際社会が経験したことのない世界情勢を惹起した.MICE関連事業は,コロナ前の本邦における数少ない成長分野であっただけに現在の状況は,日本にとって実に残念な環境と思われる.外科系学会においても,あらゆる国際学会が一気にオンライン開催へと変貌した.当初は,例年通りに演題登録した講演者のほぼ全員がオンライン講演への移行について賛同してある程度の活況を呈していたが,異常事態2年目となる2021年に入ると比較的規模の小さな学会では開催自体を中止する学術集会もあれば,演題登録が急減している学会もある.やはりこのままオンライン開催を継続することは難しいのか?ワクチン接種の劇的効用が期待できる一方では,驚くような速度で出現する変異型ウイルスの出現に翻弄されている.来年のことも予測が難しいが,ポストコロナ時代の国際学会の方向性について日本外科学会の現状と将来展望を考察してみたい.

II.国際学会の存在意義は?
そもそも外科領域における国際学会の存在意義とは何であろうか.歴史的には,消化器外科系はアジア中心に独特の発展を遂げてきた.一方,乳腺,小児外科,胸部・心臓外科系は,欧米中心に発展してきた分野が多いように思える.アジアと欧米それぞれの得意分野における情報を交換することで,世界の外科学が均てん化・標準化してゆくために国際学会の果たす役割は重要である.鮮度や正確性において国際学会で入手できる情報の価値は高い.論文や学会抄録だけでは,理解が難しい微妙な研究背景,手技の詳細などは,生のプレゼンとディスカッションで初めて正確に理解できるものであり,双方向での議論によって講演者にとっても新しいアイデアが湧き出る可能性がある.この偶然性と親近感は,リアルな国際学会で得られる非常に貴重な存在意義であろう.
学術以外の効用としては,国際的な学術活動におけるサロンとしての意義は無視できないだろう.消化器外科領域について考えれば,食道癌,胃癌,肝臓癌などの領域では,日本の消化器外科の圧倒的な症例数と良好な治療成績が,国際学会で発表されてきたことで徐々に世界へ普及したといっても過言ではない.国際学会を通じて構築された人的ネットワークとそのネットワークを基盤として発刊されている英文ジャーナルが学術の相乗効果を編み出している.しかしながら,国際社会でのインナーサークルでしっかりとしたプレゼンスを維持しないと日本の誇るべき学術成果が,いい加減な形式で運用されてしまうような事態ともなりかねない.日本人外科医のプレゼンスを維持・発展させることは,腫瘍外科学の基盤である「ステージング」や「取り扱い規約」に関して日本基準を世界標準とするために必要不可欠である.やはり,日本人外科医にとって,リアルな学会でディスカッションすることの価値は代替手段で完全に置換することは難しい.

III.オンライン会議のデメリットは?メリットは?
技術と情報伝達速度の改善により,最新の医学情報は英語論文がオンラインで発表されることで1週間以内に全世界で情報共有される時代となり,従来は論文発表に不向きと思われた精緻な手術ビデオ画像も簡単に高解像度のオンライン発表が可能となった.もはやオンライン学会でも,リアルな学会と同等の情報量を入手できるのではないか?と感じている若手の外科医が多いかもしれない.
オンライン会議のデメリットとしては,①講演内容の細部のニュアンスがわかりづらい,②細かい質問ができない,③講演時間後のフロアでの自由なディスカッションができない,④講演者と司会者,参加者との個人的な交流が難しい,などがある.また,オンラインでの質疑はほぼ1対1となるが,リアルな会議では,その場に居合わせた数名でのディスカッションとなることで,偶然性によって生み出される自由かつ新鮮な発想に接するチャンスが多い.
一方では,オンライン会議のメリットは大きい.オンライン学会の時代となれば,時差の課題を完全に解決することは難しいが,国内学会も国際学会も同じ経費で開催可能となる.新鮮な情報を入手する,という点においては,ハイブリッド開催であれオンデマンド型配信であれ,満足できる仕組みとなりつつある.確かに大多数の参加者にとってオンライン開催は,一方向の「視聴者」としての参加となるが,通常のリアルな学会でもおそらくは大多数の参加者は視聴者として楽しんでいることが多く,大きな不便を感じていないかもしれない.特に,日常診療に忙殺される若手外科医にとっては,空き時間に視聴できるオンデマンド型配信は,有効な情報収集ツールとして人気が高い.

IV.ポストコロナ時代の国際学会は?
国際学会における個々の研究者のプレゼンスは専門領域における学術研究の世界的影響力に直結する.また,影響力のある研究者や国家は,最先端の医療技術に接する機会も多く,国際社会における医療技術の標準化をリードすることができる.国際社会における外科学は,今後10~20年以内にアジア地区が世界をリードする可能性が高い.国際社会は歴史的に,①経済力,②軍事力,③科学力の3要素が複雑に相互作用することで,徐々に発展してきた.19世紀から21世紀の学問における世界覇権は,欧州,米国,中国,インド,と変遷してゆく可能性が高い.従って,21世紀における日本の外科学におけるプレゼンスは,中国・インドを含めた東アジア地区を重視した枠組みを考慮することが必要である.
国際学会のオンライン開催が進むことで,学会と研究会・教育講演などとの位置づけを明確化する必要がある.学会はある程度臨床的な価値が明らかになりつつある最新の知見を発表する場であり,診療ガイドラインの根拠となるような内容が期待される.一方,研究会は評価が定まらないが斬新な発想の研究を発表する場ではないだろうか.また,教育講演・教育集会とは,診療能力の普遍化を目指した専門医育成が目的である.学会とは中長期的な学問や診療の方向性を示すものであり,シンポジウムがその目的に合致した講演形式であろう.研究会は目前の課題を詳細に検討するいわばディスカッションあるいは評価は定まらないが大きな可能性を秘めているような斬新な発想を発表するようなワークショップ形式がその目的に合致している.そして,教育講演は教科書や診療ガイドラインで確立された普遍的事実をわかりやすく紹介する場であろう.それぞれの目的に従って,オンライン開催の形式や言語を上手に使い分ける必要があり,主要学会こそが真っ先に英語化するべきであり,研究会や教育講演では英語化は不要であろう.

V.オンライン開催の工夫は?
日本人がオンラインで国際学会に参加する,あるいはオンラインの国際学会を主催する,という場面では,時差の課題を解決する必要がある.全世界を網羅すると厳しい日程となるが,仮に日本,中国,インドが参加する国際学会を企画するとすれば,時差の課題は最小化できる.インド標準時刻とは3時間半の時差であり,北京とはわずか1時間の時差である.たとえば,日本時間で,午前11時開会,夜20時閉会,というようなパターンであれば,3か国の外科医にとって,十分に対応可能な時間帯と思われる. 
本来であれば,国内の主要学会もオンライン発信も念頭に入れて全面的に英語化することが望ましい.最低でも過半数のセッションを英語化して,海外からのオンライン参加を促進するべきである.オンライン学会・講演会では,現在行われている国内学会での英語セッションのアーカイブを編集して放映する,という手法もあり得る.手術手技に関するシンポジウムなどは,かなりの視聴率となるだろう.国際学会のオンラインへの転換に伴って,数年以内にオンライン会議の技術が飛躍的に進歩することが想定される.オンラインでのダビンチ手術を実用化しようとする技術開発もオンライン会議の質向上に寄与するだろう.現時点でのオンラインでのディスカッションはどうしてもタイムラグがあって,少々もどかしい印象があるが,タイムラグを最小化できれば,高画質,大画面,高品質の音声などの実用化によって,対面会議により近いディスカッションが可能となるだろう.最終的には,バーチャルリアリティー,3D画像やアバター技術の活用で多数でのディスカッションもオンラインで臨場感も含めて違和感なく実現できるかもしれない.
従来の国際学会開催地の決定では,国際会議場などのインフラや交通手段,治安などの社会基盤を総合的に考慮されてきた.当然ながら,G7を中心とする先進国で開催することが有利であったが,今後オンライン開催主体となると通信関係の技術力とコスト,あるいは時差が国際学会の開催地決定に大きく影響する可能性がある.そのため,今後は経済力では劣る人口小国である国家や地域に移行する可能性もある.たとえば,シンガポール,香港,韓国,海南島などはもちろんのこと,ASEAN諸国で開催される英語化されたオンライン医学会で日本の研究者が最新の知見を発表することがごく普通の日常風景となる可能性もある.

VI.極東アジア地区での国際学会の競合と日本のプレゼンス
オンライン開催となっても時差を考慮する必要があり,欧州共通で多くの学会が開催されているように,今後10年以内には極東アジア地区独自でオンラインの国際学会が頻繁に開催されることになるだろう.日本外科学会は,アジアのみならず世界の外科学において新しい技術・学問を開拓してきた先駆的学術集団であるが,今後数年間におけるポストコロナ時代の学会スタイルの革新で一定のリーダーシップを発揮しないと単なる「アジアの地方都市で開催される特殊言語」の学会として国際社会からは無視される存在となるだろう.日本の外科系学術集会では,少なくともアジアにおける外科診療の標準ルール決定をリードする場として認知されるように,常に最先端の診断・治療技術を発表する場となるように全力を尽くす必要がある.そのためには,例えば腫瘍外科領域では,ステージングや癌取り扱い規約の国際標準化で指導的地位を占める必要があり,少数であっても個人名で世界に通用するリーダー的人材を育成する必要がある.重要な国際学会において日本のプレゼンスを発展させるためには,リーダー的人材の育成が重要であり,①英語で完璧に意思疎通ができること,②専門分野の国際学会のインナーサークルにおいて個人名で認知されていること,などの条件を有する人材が必要である.日本外科学会として,その存在意義を賭けて,国際的に通用する若手の人材を育成する必要がある.

VII.おわりに
国際学会・会合に関してポストコロナ時代の方向性について考察した.従来の国際学会は概して欧米の外科医とのコミュニケーションを意識したものであったが,今後は東アジア地区の外科医を意識したものに変貌するであろう.東アジア地区を意識する場合には「国際学会に出かける」という場面よりも「国際学会を主催する」という場面が増える可能性が高い.国際学会に限らずすべての学会は集約される方向性は確実であるので,オンライン開催限定の学会として存続させるのも一案である.通信技術の進歩は驚異的であり,双方向のオンライン学会とリアルな学会との差は急速に縮小するものと思われる.日本人が主催する国際学会の活性化はアジア地区の外科医に対して,日本のプレゼンスを印象付ける強いメッセージとなる.外科系学会のリーダーである日本外科学会は,今後10~20年の長期構想に基づいて,日本で主催する国際学会の標準化,オンライン開催のノウハウの蓄積など,組織としての戦略・戦術を立案し,そのための人材を育成しなければならない.GDPの国際社会での相対的地位と相関して,外科学におけるアジア諸国の実力が日本に比肩しつつある現在,日本外科学会を中心とする日本の外科医の国際学会におけるプレゼンスを高めることができるかどうかの分岐点であることを自覚したい.

 
利益相反:なし

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