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日外会誌. 123(1): 130-132, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
5.ドイツと日本の比較から考える女性外科医がリーダーとなる社会のための心得

弘前大学 消化器外科

赤坂 治枝 , 袴田 健一

(2021年4月10日受付)



キーワード
女性外科医, リーダー

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I.はじめに
発表者はドイツでの生活を通じジェンダーギャップの少ない社会を経験した.一方で,女性外科医の勤務環境の厳しい側面も体感した.これらの経験から,今後女性外科医がリーダーとなる社会のための心得について発表させていただいた.

II.ドイツの社会環境の一経験
ドイツは,その他の欧米諸国と同様に,多くの国から移民を受け入れ,多様性に富む社会である.多種多様の価値観が混在し,個人が尊重され,性別,人種,職種による差が少なく,違いが受容されていた.また,すべての人が当然に家族に重きを置く社会であったことは自身の価値観に大きく影響を与えた.仕事とプライベートの線引きが明確で,消費者や利用者が徹底的な便利さを要求しないことで,労働者に過度の負担がかからず,生活の質を保つことが可能となっていた.育児環境にも優れ,育児は社会全体で行うものであるとの認識の元,子供の行動は自由度が高く,育児と仕事の両立が行いやすい環境と感じられた.

III.女性リーダーへの壁の存在
自身が在籍したフライブルク大学一般消化器外科学講座は,教室の約半数が女性で,特に若手で女性が多かった(24/54,53.3%).業務遂行における男女差を感じることはなかった.育児中の女性に対し,個々に必要とされる支援に応じて調整が行われ,女性外科医の勤務継続を可能としていた.しかし様々な育児支援サービスを受けつつも,綱渡り的に勤務を継続している現状も聞かれた.
女性外科医や女性リーダー増加に関する見解については日本で感じるものと同様であった.つまり,現状は,女性医師の割合は半数,医学生は7割が女性で,将来,女性外科医がリーダーに就くことも確実に必要となる.しかし,特に出産等に関わる長期休暇取得の可能性のある女性がリーダーとなった社会で外科診療が維持できるのかとの声が聞かれ,今後の課題と認識されていた.社会環境が良好であっても,多くの女性が外科領域でリーダーとなる社会には障壁が存在することが伺い知れ,日本でも社会構造の変化のみで解決する問題ではないことを理解した.

IV.データでみるドイツと日本
2020年の世界ジェンダーギャップフォーラムによるジェンダーギャップ指数は,ドイツは0.787で世界10位,日本は0.652で世界121位であった1).OECDが発表したWork life balance indexは,日本は10ポイント中4.6,ドイツは8.4とドイツで良好だった.週に50時間以上の労働割合が,日本が17.9%,ドイツは4.3%と少なく,プライベートにかける時間もドイツは1日あたり15.6時間,日本は14.1時間と1時間以上多かった.Life satisfaction indexも,日本が4.1,ドイツは7.8である2).これらより,ドイツ社会の少ない男女差,良好なライフワークバランス,生活への高い満足度が示されていた.
女性医師比率は2018年のデータで,ドイツで47%,日本は21%であったが3),女性外科医比率は,ドイツで21%,日本で7%と,ドイツでも外科領域の女性医師比率は比較的少なかった.
ドイツの移植病院に勤務する女性外科医への意識調査では,その7割以上が週に50時間以上の労働で,一般社会に比し厳しい労働環境であった.回答者の半数は労働負荷が大きいと回答した一方,半数以上が現在の職務を継続し,移植外科等の専門的なポジションを目指していると回答していた4).また,一般女性外科医への調査でも,労働状況が厳しくとも,女性外科医の半数以上が将来的にリーダーを目指していると報告された.この中で,キャリア形成実現のために必要な事は,女性外科医の専門性の高い自己達成感と述べられ,確固たる役割を持つことが重要と述べられていた5).労働環境が厳しくとも,女性外科医は責任ある職務を継続することで,リーダーを目指す動機を維持することができると考えられた.

V.女性外科医がリーダーとなる社会へ向けて
社会構造の良好な変化は女性医師の外科参入や勤務継続を支える重要な要素である.一方,女性外科医が勤務継続からさらに前進しリーダーの役割を担うには,継続的な自己研鑽と専門性の獲得が必要で,この過程は男性医師と同様である.男性医師との違いは出産,育児等で長時間労働ができない期間,責任を伴う仕事から離れざるをえない状況が起こりうることである.その期間が長いほど,リーダーに必要な仕事の遂行にはギアチェンジに似たエネルギーを要し,リーダーへの道が遠くなる可能性がある.継続的に,責任ある仕事,やや負荷のある仕事を担当する機会を得ることで,女性がギアチェンジという高い壁を乗り越えることなく,螺旋階段を登るようにリーダーへの道を歩むことができると考える.このような仕事の機会を与えられるよう,日々の研鑽が欠かせない.

VI.おわりに
女性外科医は社会環境の変化に期待するのみならず,①すでにリーダーである女性外科医をロールモデルとする,②一人一人が女性外科医としての役割を認識し,責任ある仕事を与えられる人材となる,③継続的に責任ある仕事を遂行し将来への動機を持続させる,④専門性を獲得し自らもロールモデルとして新たなリーダーの育成に貢献する,という循環の歯車となることが必要と考えられる(図1).様々な女性外科医支援制度が構築される中,一人一人の地道な努力が引き続き重要と考えられる.
また,今回このような貴重な発表の機会を与えて頂き心より感謝申し上げます.

図01

 
利益相反:なし

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文献
1) Global Gender Gap Report 2020世界経済フォーラム.2021年5月2日. https://jp.weforum.org/reports/gender-gap-2020-report-100-years-pay-equality/digest
2) OECD Better Life Index.[cited 2 May 2021]Available from: http://www.oecdbetterlifeindex.org/#/11111111111
3) )Health Care Resources.[cited 2 May 2021]Available from: https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=HEALTH_REAC#
4) Radunz S, Hoyer DP, Kaiser GM, et al.: Career intentions of female surgeons in German liver transplant centers considering family and lifestyle priorities. Langenbecks Arch Surg, 402: 143–148, 2017.
5) Radunz S, Pustu H, Marx K, et al.: Women in surgery:a web-based survey on career strategies and career satisfaction. Innov Surg Sci, 5: 11-19, 2020.

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