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日外会誌. 123(1): 121-123, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(9)「リーダーを担う女性外科医の育成」
2.公立病院の副院長になって変わったこと

仁淀病院副院長 

志賀 舞

(2021年4月10日受付)



キーワード
女性医師, リーダーシップ

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I.はじめに
筆者は2020年4月にいの町立仁淀病院の副院長に就任した.筆者は3度の出産を経て,育児と勤務を両立しながら外科医として勤務しており,当院の常勤医の中では若い部類に入る.筆者にオファーが来た理由としては,長きにわたって病院に貢献した前病院長が外科医であり直接指導を受けていたこと,筆者が以前から病院運営に興味を持ち職員間の調整役を買っていたことなどが考えられる.管理者側の責務を担うようになって変わった点と管理職としての取り組みについて述べ,女性医師がリーダーを担う意義について考察する.

II.副院長になって変わったこと
筆者が副院長になって変わったことは,大きく3点に分けられる.
まず一つは,膨大な情報が入ってくるようになったことだ.病院の会計管理や院内規定が策定される過程から,職員の人事評価や委託業者との契約の詳細に至るまで,日々回覧板で机上に積まれていく.すべてが有用な情報ではないが,自分が欲しい情報へのアクセスが格段に良くなった.
二つ目は,定額の管理職手当がつくようになり,超過勤務手当がつかなくなったことである.この点については,管理者側は裁量で勤務でき,大幅な超過勤務は不要とされているためと理解し,職務の優先順位をつけて,勤務時間を制御するよう心がけている.
そして三つ目は,運営の難しさに気づいたことだ.病院運営には,ぱっと目に付くだけでも複数の問題がある.医師が不足していること,そもそも病院として維持すべき診療範囲やレベルが制定されていないこと,看護師のサービス残業が常態化していること,有給休暇がとりにくいこと,赤字が現場の医療スタッフの責任にされていること,子育てや家族のケアをする人への配慮が乏しいことなどだ.筆者はこれまで,「しかるべき責任者にやる気さえあれば,このような問題は直ちに改善できるものだ」と考えていた.しかし実際には,現状を支持する者がいたり,あまり周知されていないルールがあったりして,些細なことでも一筋縄ではいかなかった.権限のある立場に立ったとしても,組織を動かすには,信念を持って粘り強く人に働きかけなければならないことを知った.
図1に「すべての職員にyesと答えてほしい4つの質問」を示した.筆者の信念は,「医療・介護の従事者一人一人が,誇りと自信を持って仕事に臨み,発見と挑戦を続けていくことが,患者にとって最善である」ということだ.筆者自身はこの考えをとても素晴らしいものだと考えているが,誰もが賛成するわけではない.さらに,現実のルールを変えていくとなれば,各論で反対意見が出てくるのは当然のことだ.理想を実現するには,一つ一つ現実の問題点を洗い出して,関係者の賛同と協力を引き出し,地道に取り組んでいく必要がある.

図01

III.管理職としての取り組み
筆者が管理職として1年間で取り組んできたことは,運営,収支,部下のことの3点である.運営については,病院長,看護部長,事務長と月に2回会議を開いて,将来的な病床数や新型コロナウイルスのワクチン接種の方法などについて話し合ってきた.当院は町立病院だが,診療の規模や方向性について行政からの具体的な指示はほとんどなく,今後は更に主体的に考える必要がある.
収支については,基本的に赤字である.赤字であるということは職員の気持ちを後ろ向きにする.事業連絡会で赤字を指摘され続けた強い職員は,できるだけ節約しようとした結果,目詰まりして1秒ごとに止まるシュレッダーを使い続けていた.これでは本末転倒だ.診療実績が予算で示された値に達していないからといって職員の働きが不十分とは言えない.予算は運営の意図を織り込んで現実に即して立てるべきで,その執行および解釈については,現場の職員の負担にならないように配慮すべきだ.
そして部下についてであるが,組織図からいうと筆者の直属の部下は,院長をのぞく常勤医師6名と技術系の職員8名だった.部下に対しては,5月に期首面談を行い,本人と相談して年間の目標を立てるとともに,2月から3月にかけて,期末面談を行い業績および態度・能力を評価するという業務があった.医師については,6名のうち5名が筆者より経験のある他科の医師であり,実質的な指導には至らなかったが,評価業務の目的を職員の能力を最大限に高めて活かすことと捉えて,次年度はより積極的に介入したい.

IV.女性がリーダーになる意義
手術においても,管理運営においても,育児においても,性別による本質的な適性の違いはないと思われる.しかし,日本は社会的性差が非常に大きい国である.現時点で男性と女性では行っている仕事の内容が大きく違う.だからこそ,女性と男性では仕事に対する考え方に違いがあり,女性がリーダーになることによって,課題解決のアプローチに多様性が生まれるのだ.
内閣府男女共同参画局が示した男女共同参画白書令和2年版によると,日本は諸外国と比較して男性の有償労働時間が極端に長く,無償労働が極端に女性に偏っている.男性は,家事,育児,介護という無償労働にもっと取り組むべきであるが,そのためには有償労働時間を減らす必要がある.日本の外科医の労働時間は過労死レベルなので,改善の余地があることは明らかである.
働くことと子どもを育てることは等しく重要である.育児と勤務を両立するというのは,子どもを無事に学校に送り出すことと,手術の出血を最小限にすることを同等の思考回路で考えるということである.
今筆者より若い世代が,育児にも仕事にも真摯に向き合っている.過酷な労働環境の中で,夫の理解も協力も十分に得られず孤独に奮闘している女性医師を知っている.高い能力を持ちながら十分に発揮する機会を得られずに,自分を無力だと勘違いしている女性医師を知っている.彼女たちの夫は妻と子を大切にしたいと思っているはずだが,仕事とのバランスのとり方がわからないのだろう.このようなアンバランスを少しでも解消できるよう尽力したい.

V.おわりに
理想の実現にはまだまだ遠いが,日々の仕事は発見と挑戦に満ちている.

 
利益相反:なし

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