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日外会誌. 123(1): 115-117, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「待ったなしの働き方改革への対応・対策」
6.診療看護師(NP)によるカルテ代行入力が与えるタスク・シフティングの効果

1) 藤田医科大学病院中央診療部FNP室 
2) 藤田医科大学 医学部心臓血管外科

谷田 真一1) , 永谷 ますみ1) , 高味 良行2) , 松橋 和己2) , 林 亮祐2) , 天野 健太郎2) , 櫻井 祐補2) , 秋田 淳年2) , 山名 孝治2) , 前川 厚生2) , 高木 靖2)

(2021年4月10日受付)



キーワード
代行入力, 診療看護師, タスク・シフティング, 働き方改革, 特定行為

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I.はじめに
医師の長時間労働や地方での医師不足が問題視される中,本邦での診療看護師(NP)制度の検討が行われ,2014年6月に保健師助産師看護師法改正による「特定行為に係る看護師の研修制度」が成立した.これにより,指定研修機関において研修を受けた看護師は,手順書に従い特定行為を実施することが可能となった.特定行為は厚生労働省令により,38行為21区分が定められている.急性期で関わるものとしては,人工呼吸器の管理,ペースメーカーの管理,ドレーン等の抜去,循環作動薬の調整,動脈血ガス分析などがある.
当院では,大学院修士課程にて特定行為全21区分の研修を修了し,一般社団法人日本NP教育大学院協議会が実施するNP資格認定試験に合格した者が2014年よりFujita NP(FNP)として勤務している1).現在25名のFNPが,看護部ではなく,中央診療部に所属し,心臓血管外科をはじめ,循環器内科,消化器外科,脳神経外科,麻酔科,救急科など各診療科に配属されている.心臓血管外科には2名のNPが配属され,術前から術後までを通して周術期管理を行い,チーム医療の一員として活動している2)
NPは外来,手術室,ICU,病棟と横断的に活動し,その役割は特定行為に始まり,医師の直接指示下での医療行為など,多岐に渡るが,カルテ代行入力も大切な役割の一つである.当院でのNPによるカルテ代行入力は,2014年に検体検査と画像検査からはじまり,安全性の確保を行いながら,院内の委員会での承認を得て,徐々に拡大してきた.現在は,注射・処方・処置など多くの項目において代行入力が可能となっている.代行入力後は医師による承認が行われ,安全性の観点から,詳細については様々な制限を設けている.

II.目的
心臓血管外科におけるNPによるカルテ代行入力の現状を明らかにし,タスク・シフティングの効果について考察することを目的とした.

III.方法
NP非介入期間を2016年1~12月,NP介入期間を2019年1~12月とし,心臓血管外科入院患者に対する医師によるオーダーおよびNPによる代行入力を病院カルテシステムより抽出した.両期間でのオーダー入力数をIBM®SPSS®Statistics26を用いた単純集計・t検定により統計学的に分析した.倫理的配慮として,本学医学研究倫理審査の承認(HM19-449)を得て実施した.

IV.結果
NP非介入期間の医師のカルテオーダーは55,926件,NP介入期間の医師のカルテオーダーは47,181件,NPの代行入力は8,955件であり,NPによる代行入力はオーダー全体の16%を占めた.
NPによる代行入力件数(全オーダーに占める代行入力割合)を項目別にみると,注射が最も多く2,845件(15.1%),次に処方が1,849件(26.4%),検体検査が1,220件(17.4%),画像検査が1,110件(18.6%),文書作成が744件(13.4%),輸血が621件(25%)であった.
医師によるオーダー入力件数(月平均)はNP非介入期間の4,660±686件からNP介入期間の3,932±499件へと,有意(p=0.009)に減少した.
入力時間をNP非介入期間(医師のみによる入力)と比較すると,NP介入期間(医師およびNPによる入力)では,9~11時(p<0.001)の入力が有意に減少し,12~14時(p=0.035),15~17時(p=0.022),18~20時の入力が有意(p=0.023)に増加した(図1).

図01

V.考察
厚生労働省の検討会においても,医師の労働時間短縮のために,医療機関のマネジメント改革の一つとして特定行為研修制度やタスク・シフティングが挙げられており3),NP導入による効果を検討していく必要がある.瀬戸らによると,医師の電子カルテ入力に要する時間は1日あたり53分を占める4)とされ,負担の大きさが伺える.今回のデータでは,NPによる代行入力が総オーダー数の16%を占めNP介入期間には,NP非介入期間と比較して月平均の医師のオーダー件数が有意に減少したことから,医師の負担経験に繫がっていると考える.
また,NP非介入期間には午前中に集中していたオーダー入力が,NP介入期間では日中帯への分散がみられた.NP非介入期間には手術前など午前中にまとめてオーダーが行われ,その後に発生した不足薬剤や検査オーダーなどに関しては,医師が病棟に不在のため,緊急性がない限り翌日に繰り越される状況にあった.これらは,患者対応が遅くなるだけでなく,オーダーを受ける看護師にも過負荷となっていた.それに対して,NP介入期間には日中帯にNPが病棟勤務する,あるいはNPが手術助手を務めることにより医師が病棟業務を行えることで,適宜対応が行われた結果オーダー入力の分散が生じたと考えられる.タイムリーな医療提供は患者満足度の向上,在院日数の減少のみならず,看護師にとっても,残業の減少,患者を待たせるストレスの軽減,各勤務帯で対応が完結することで,引継ぎでのコミュニケーションエラーによる医療事故の発生防止など様々なメリットがある.
代行入力というと,医療事務の役割を考えるが,彼らの場合,文書やプロトコールに沿ったものが大部分を占め,医学的知識が必要な治療に直結するオーダー代行入力は難しい傾向にある5).一方,NPによる代行入力は,入力という単純作業ではなく,チーム医療の一員として,病態や治療方針,検査データを十分把握したうえで行われるため,安全性・有効性が高い.さらに,NPによる代行入力は,時宜を得た追加検査や継続投薬の必要性判断など,きめ細かく柔軟性に富んだ周術期患者管理を行う一助となる.

VI.結論
NPによる代行入力は医師・看護師の負担軽減とタイムリーな医療提供の一助となり,タスク・シフティングの効果を発揮することが示唆された.

VII.おわりに
本発表は代行入力に焦点を当てたが,NPの役割の中心が代行入力というわけではない.手術助手やICUでの循環・呼吸・ドレーン・創傷管理などに加え,入院調整や看護師教育など幅広い役割を担っており,総合的にタスク・シフティング,働き方改革への効果を持っているものと考える.引き続きNP導入による効果について検討を行っていく.

 
利益相反:なし

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文献
1) 渡邊 孝,高木 靖,須田 隆,他:藤田保健衛生大学における「特定行為を行える看護師(診療看護師)」の教育・研修.日外会誌,118(1): 82-84, 2017.
2) 永谷 ますみ,谷田 真一:心臓血管外科での特定行為研修修了者の活動.心臓,52(7): 687-692, 2020. 
3) 医師の働き方改革に関する検討会 報告書,2019.2021年4月1日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000496522.pdf
4) 瀬戸 僚馬,津村 宏:医師が電子カルテ操作に費やす業務時間に関する調査.医療情報学,32(2): 59-63, 2012.
5) 瀬戸 僚馬,蓮岡 英明,三谷 嘉章,他:医師事務作業補助者の業務と電子カルテ等への代行入力の現状.医療情報学,29(6): 265-272, 2010.

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