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日外会誌. 123(1): 109-111, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「待ったなしの働き方改革への対応・対策」
4.手術業務を軸とした時間外労働時間モデルによる働き方改革への対応

1) 千葉大学大学院医学研究院 小児外科学
2) 千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター

照井 慶太1) , 中田 光政1) , 小松 秀吾1) , 佐藤 大介2) , 吉村 健佑2) , 菱木 知郎1)

(2021年4月10日受付)



キーワード
手術時間, 労働時間, 緊急手術, 時間外診療, 小児外科

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I.はじめに
長時間労働の代名詞である外科医療において,働き方改革への対応は困難かつ喫緊の課題である.医学中央雑誌で「働き方改革」を検索すると3,940件がヒットし,その内2,352件は2020年の報告であった.本件に関する医療界全体での関心の高まりがみられる.一方,検索結果の中でタイトル・所属・雑誌名・抄録に「外科」が含まれる報告は568件(14%)であった.外科に特化した報告は主流ではなく,依然検討の余地があると考えられた.
既存の外科医労働時間研究は労働時間調査とアンケート調査に大別される.前者は綿密な調査により実態を正確に反映するが,小規模・短期間のサンプリングにならざるを得ない.後者は学会・地域レベルで施行され,大規模な情報収集が可能であるが,個人の主観に左右されてしまう.外科診療の現状を適切に評価するためには,客観的かつ大規模なデータの収集が必要である.幸い外科診療においては「手術時間」という客観的なデータが存在し,大規模に収集することが技術的には可能である.働き方改革においてはタスクシフティングなどによる労働時間短縮が不可欠である一方,手術は外科医にとって削減することのできない業務である.手術時間を軸に労務問題を検討することで合理的な解決がもたらされる可能性がある.
今回,大規模研究の前段階として単施設の小児外科におけるPreliminary studyを企画した.手術業務を軸に時間外労働時間モデルを作成し,労働実態を把握することで働き方改革への対応について模索したので報告する.

II.時間外労働時間モデル
【方法】2015~2019年の当科手術症例を対象として,手術室システムからデータを抽出した.手術室への入室時刻が月~金曜日の日勤時間帯(8:15~17:30)内の手術を日勤手術,それ以外を時間外手術とした.時間外手術の手術室滞在時間と,日勤手術の日勤時間帯外の延長分を合わせて時間外手術室滞在時間とした.手術申込の段階で「緊急」と明示されている手術を緊急手術とした.
【統計結果】平均手術件数388件/年の内,緊急手術は97件/年(手術総数の25%),時間外の緊急手術は43件/年(緊急手術の45%)であった.全手術の手術室滞在時間1,446時間/年の内,時間外手術は370時間/年(31%)を占めた.時間外手術の手術室滞在時間の内訳は,緊急手術134時間/年(28%),日勤手術の延長236時間/年(72%)であった.
【モデル作成(図1)】時間外の緊急手術の周術期業務に4時間を要すると仮定した.また外科診療業務の全てが緊急手術になるとは限らないため,緊急手術と同数の非手術緊急対応があると仮定し,その対応に4時間を要すると仮定した.これらの仮定を元に外科診療の時間外労働時間を計算すると計930時間/年となった.当科では教員と医員・研修医が組んで緊急対応する場合が多い.そのため緊急対応に2名の医師を要すると仮定した場合,小児外科の総時間外労働時間は計1,860時間/年となった.当院の小児外科医数は11名(教員五人,医員五人,後期研修医一人)であるため,一人当たりの時間外労働時間は169時間/年/人となった.時間外に設定されているカンファレンス(6時間/週/人=313時間/年/人)および兼業(8時間/週/人=417時間/年/人)と合わせて計899時間/年/人となった.

図01

III.結果の解釈
モデルによる検討の結果,当科の時間外労働時間は働き方改革A水準である960時間/年/人を下回った.この結果に対する好意的な解釈としては,外科医を外科診療業務に特化・集中させることで働き方改革への対応が可能であるとも考えられた.タスクシフティングの更なる追求や予定手術の時間内終了,カンファレンス開催時間の検討などが今後の対応策として重要である.
一方,本モデルは多くのLimitationを内包している.まず本モデルは各医師の都合や雑務の存在を無視し,完璧に効率良く人員を配置できた場合の試算である.また,働き方改革の重要な要件である連続勤務時間制限28時間や勤務インターバル9時間に関しては全く考慮されていない.よって今回の試算で得られた結果はあくまで最低限の値であり楽観的過ぎる.現状をより正確に把握するためには更なるモデルの精緻化が必要である.

IV.今後の課題
今回の検討はあくまで単科でのPreliminary studyであり,今後はモデルの最適化を行いつつ,より大きなデータベースを利用することで外科サブスペシャルティごとの特徴などが把握できると思われる.一方,本モデルは何らかの形でValidationを行う必要ある.しかし自己研鑽の線引きの難しさや緻密な労働時間調査の手間を考えると,実現性は低い.今後,自己研鑽を含まない労働時間をどのように計測して管理していくのかは大きな課題であると思われた.
今回モデルを作成する際,単純に労働時間を考えているだけではモデルに落とし込めない問題に直面した.つまり大学病院における各科当直の宿直扱いや,その宿直中に緊急手術が行われた場合の労務上の扱い,教育・研究に関する業務時間の考慮,更には教員は裁量労働制として割り切ってしまってよいのか?など疑問は尽きない.また,研修医にとっては修練という大きな問題が存在する.毎日がOn-the-job trainingである研修医にとって自己研鑽なのか労働なのか判断のつかない時間帯が存在する.特に外科研修医にとって手術の見学は極めて重要な修練の一つであり,労働とは考えにくいが次世代の医療を担保するために必要な職業訓練と考えることもできる.以上のような問題点は一診療科や一施設では解決不能であり,各地域において集約化の議論と並行して行っていくことが求められている.

V.おわりに
手術時間を軸にした時間外労働時間モデルは,働き方改革への方策を考える上で有用なツールになり得ると思われた.一方,働き方改革への対応を契機に様々な労務問題が表面化してきており,単純に労働時間の問題だけではなくなってきている.働き方改革を有用な外圧と捉え,外科診療全体にとって有意義な改革になるよう,更なる検討が必要である.

 
利益相反:なし

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