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日外会誌. 123(1): 9-10, 2022

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若手外科医の声

“かっこいい”外科医に憧れて~15年間の歩みを振り返る~

熊本大学病院 心臓血管外科

高木 淳

[平成19(2007)年卒]

内容要旨
“かっこいい”外科医に憧れて外科医となったが,家族の支えで過酷な労働環境でも従事してきた.今後外科医を増やすためにも,労働環境の整備が重要と考える.

キーワード
外科医, 労働環境

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I.はじめに
外科医となって15年,年齢は40歳目前となりました.気持ちはまだまだ若手ですがいろいろと経験を重ねてきました.そこから感じたことや考えたことが,これから外科医を目指す方々に何か一つでもお役に立てればと思い,述べさせていただきます.

II.“かっこいい”外科医に憧れて
私は小学生の時に交通事故にあい,それが転機となり医師を目指すようになりました.大学入学前から興味があった小児科に進むつもりで母校の佐賀大学医学部附属病院で初期研修を開始しました.
外科の選択では,学生時代に大変お世話になった伊藤翼教授の胸部心臓血管外科を選択させていただきました.緊急症例から逃げない姿勢は非常に心強く,また術後元気になっていく患者様に触れあっていくうちに非常に“かっこいい”,魅力的な領域だと実感しました.
研修生活を重ねていくうち,やはりこの“かっこよさ”への憧れと魅力が決め手となり胸部外科を選びました.
3年目は佐賀大学で心臓血管外科と呼吸器外科で研修させていただきました.初期研修医時代とは違い,診療に関わる責任とともにチームの一員として患者に向き合える喜びをより実感できた一年間でした.
特に入局時の森田茂樹教授や医局長の古川浩二郎先生(現琉球大学第二外科教授)には大変お世話になり,心臓血管外科を専攻することにしました.
以後,関連施設で修練を積ませていただき,“かっこいい”専門医を目指していた折,“熊本地震”が起こりました.
地元が被災し,知人や同級生が被災地でも懸命に診療している姿を見聞きし,生まれ故郷で地域医療に貢献できないだろうか,といった思いが強くなりました.
被災の翌年に熊本大学へ見学に来させていただいた際,福井寿啓教授のもと,少ない医局員でも多くの手術が行われているのを目の当たりにして,この教室の一員として地元の心臓血管外科で貢献しよう,と決意し熊本大学心臓血管外科へ入局させていただきました.
転局し外科医としての成長を目指す上で,一つありがたい仕組みが当科にはあります.それは手術手技共有ノートです.これは,日々の手術の中で注意点や要点などを共有するために,医局員全員で書き記しているものです.各々が努力して技術習得していくことは最低条件ですが,決して個人プレイに走らず,チームが皆で高めあい努力していく,そんな医局の体制となっています.医局員分け隔てなく仲間として支えあい向上していく雰囲気や体制は非常にありがたく,私自身が成長していくうえで心強いものでした.
現在は,学位取得に向けて社会人大学院にも進学させていただきました.学位に関してはあまり興味を持たない若手の医師もいるかもしれませんが,医師は生命をあつかう科学者であり,学位は医学の進歩に貢献した証であると私は思います.医学研究を行うことで,日本や世界の診療レベルを全体として引き上げることにつながり,ひいては患者様のためになることです.日常診療ではなかなかみることができない分野に視野を広げる意味でも学位取得は重要だと思います.

III.外科医を取り巻く環境
外科医として非常に充実した日々を送らせていただいていますが,今後改善していかなければならない問題もあります.なかでも労働環境は一番の問題だと思います.私の場合,特に3年目~6年目までは,当直や泊まりこむことは日常茶飯事でした.もちろん,患者様の状態など致し方ない状況ではありますが,子をもち家族を形成していくなかで,本来担うべき父親としての役割が十分果たせていないこともしばしばありました.特に子供の幼少期は,家にいる時間の少なさゆえ,妻からは“母子家庭”のつもりで子育てをしている,と笑って話されたときは申し訳ない思いが非常に強かったのを覚えています.周囲の理解は,外科領域を続けていくにあたって非常に大事だと痛感しています.
厚生労働省の2018年医師統計の概況によると,医師数は内科,整形外科,小児科の順に多く,特に小児科はこの20年で医師数が約3,000人増えています.一方で外科は年々減少傾向にあり,特に29歳以下の割合が非常に少ない結果となっていました.外科医離れが叫ばれる昨今において,より魅力ある分野として発展するためには,先に述べた労働環境をいかに改善していくか,体制や仕組みを変えていくことが大事だと思います.
熊本大学病院では,集中治療部の協力が非常に手厚く,術後急性期管理は心臓血管外科と集中治療部でともに担う仕組みができています.術後経過が安定していれば,手術担当医は夜間帰宅でき,休息もとれます.実際,私は熊本に移ってから家族と過ごす時間が増えています.業務と休息のバランスがとれることは,家族の理解があって成り立つ外科医にとっては非常に頼りになるものだと思いますし,今後同様の仕組みが全国でも普遍的に行われるようになれば労働環境は改善し,外科医が手術に集中できる理想的な体制となるのではないでしょうか.

IV.おわりに
医師になりたての頃と比べて,現在では労働に対する医師や世間の考え方も変わってきています.外科医を取り巻く環境を改善され,私たち“若手”が生き生きと“かっこよく”仕事をしていく姿が学生や研修医の憧れになるのではないでしょうか.
後輩たちの憧れるであろう医師像に少しでも近づけるよう,これからも日々精進していきたいと思います.
謝  辞
邦文誌編集委員の熊本大学心臓血管外科学教授福井寿啓先生から御指名いただき担当させていただきました.貴重な機会をいただき感謝申し上げます.

 
利益相反:なし

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