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日外会誌. 123(1): 6-8, 2022

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理想の男女共同参画を目指して

男性医師の育児休暇を考える

弘前大学 医学部消化器外科

赤坂 治枝 , 袴田 健一

内容要旨
男女共同参画の本来の目的である労働生産性向上のために,男女問わず社会進出と家庭進出が必要である.男性の家庭進出とそれにより得られる女性の社会進出,社会全体の労働生産性向上というプラスの視点から男性の育児休暇を捉え考えたい.

キーワード
男女共同参画, 育児休暇, 男性

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I.はじめに
中学生になる自身の娘が外科医に興味を持っている.娘が外科医になるならば,現状よりライフワークバランスを保ち仕事をすることを願う.仮に彼女が育児をするならば,家事業務を家族で協力し仕事と両立してもらいたい.以上から家庭内の男女共同参画と思われる男性の育児休暇について考えようと思う.なお,今回の内容は育児を前提とした話となることをお許し頂きたい.

II.男女共同参画のために
男女共同参画は急激な人口減少に耐え,国を存続させるために,労働生産性向上を求める政策で,男女平等を追求する精神論ではないとされている1).医療界における労働生産性向上のために,増加する女性医師の社会進出が求められる.女性医師の社会進出が進みにくい要因に出産,育児による休職や離職があり,その影響を最小限にするため育児支援が必要である.しかし,社会全体で十分な育児支援は得られ難く家族の協力が必須である.
女性医師の夫の約74%が男性医師であり2),女性医師の社会進出をより進めるために夫である確率が高い男性医師の家庭進出が必要である.しかし,伝統的な性別役割分業が根付いており,男性が家庭進出を行うには,周囲の認識や理解,時間の不足,スキルの問題などの障壁がある.この現状にあり,男性の育児休暇は,男性の家庭生活や家族への意識を向上させ,家庭進出の契機となるとされている3)4)

III.男性の育児休暇取得の実際
令和元年度の育児休業取得者率は,女性が83%,男性が7.48%と前年度より上昇している(平成30年度 女性82.2%,男性6.16%)5).それでも男性の育児休暇取得率は依然低く,家庭進出が浸透しているとは言い難い.
男性の育児休暇取得が進みにくい原因は,職場の雰囲気,職場に生じる影響への配慮,職場の人手不足,自身に対する評価への影響が挙げられ,男性の育児休暇取得はネガティブなものとして捉えられがちである6)7)
男性医師の場合,個人的な感覚となるが,育児休暇を検討する時期は,経験が蓄積され自身の判断で業務遂行が可能となった,医師として忙しくも充実した時期で,周囲から見ても,業務を任せることができる重要な戦力となる時期と考えられる.そのため,たとえ短期間でも,男性医師が育児休暇で職場を離れることは個人的にも組織的にも大きな抵抗を生じ,ネガティブな意見や感情がでることは想像に難くない.

IV.男性の育児休暇取得の利点
ネガティブに捉えられがちな男性の育児休暇だが,それには様々な利点があることが報告されている.NPO法人ファザーリング・ジャパンが行った育児休暇を取得した男性労働者への調査で,育児休暇により,家事や家族に対する意識が7割以上で向上したとされる.また業務効率化や仕事への動機の向上が6割以上でみられ,組織にとって労働生産性向上が期待でき,プラスの側面があると考えられる.一方で,懸念される周囲からの評価の低下の割合は1割以下で,育児休暇取得に対するマイナスの影響は予想より少ない8)
男性の育児休暇取得による,個人と組織に対する利点,その結果得られる女性の社会進出,加えて組織や社会全体の労働生産性向上を考えると,医療界でも男性の育児休暇取得に対するネガティブなイメージは改める必要があるかもしれない.
また多忙な外科において,育児休暇取得が可能な環境があれば,ワークライフバランスをより重視する医学生や若手医師に対しても,外科はこれまでよりも選択先として残る可能性がある.

V.育児休業制度を利用しやすい条件
男性の育児休暇取得率が高い大手企業では育児休暇取得の義務化と休暇取得中の収入の補償が行われ,これらが男性の育児休暇取得を後押しする要因とされている8)9).このような制度の義務化は,ストレスチェックや有給休暇取得が義務化によって推進されたことからも,日本で受け入れられやすいと言える10).男性の育児休暇取得推進のために,その利点が個人レベルではなく社会全体のものであると皆が認識し,マイナスよりプラスな面に目を向けた組織全体の変革が必要といえる.こういった変革には,組織のリーダーからの発信が必要と考えられる.男性の育児休暇をはじめとした男女共同参画を念頭においた働き方を円滑に進めるためのルールを設定し,全体の利益という目的に向かってそれを運用することが,負の要素を最小限に抑える方法ではないかと考える.また,このような男女共同参画の推進にはお互いを思いやる気持ちや感謝の気持ちが非常に重要である.一方で,その気持ちが周囲に理解されるためには行動を伴っている必要があると考える.組織の中での役割を決められたルールに則って果たすことは,思いやりや感謝の気持ちが受け取られる一つの要因と考えられる.新しい制度に限らずルールに沿った行動をとること,それを指導することが重要と思われる.

VI.男性医師育児休暇取得の課題と展望
現時点で,全ての職場で男性医師の育児休暇取得が可能とは思えず,実際に男性医師が育休を取得した場合,人員補充は大きな問題である.医師数が比較的多い病院では業務分散で対応可能かもしれないが,医師数が少ない場合は業務に支障を来すため,取得したくても,あるいはさせたくても,現実的に困難だろう.一方で,夏季休暇などの比較的まとまった休暇は一定の権利として取得できていることを考えると,それに準じた数週間の育児休暇は,その先にある目的が正しく認識されれば,理解されうるものと考えられる.
また,これまで産休,育児休暇,あるいは業務負担軽減を受けてきた女性医師はこの局面で働き方を変化させる機会があるかもしれない.非常勤で働いていた医師は常勤への変更,業務軽減していた医師は軽減の解除等,男女共同参画の本来の目的である女性医師の社会進出での労働生産性向上である.こうした男女を問わない社会進出と家庭内進出の連鎖が医療界全体の労働生産性向上につながり,次世代の外科医,自分の子供の世代によりよい労働環境を残すことに繋がるのではないかと考える.

VII.おわりに
医師の労働環境改善や男女共同参画のために,これまでとは異なった視点で,男性医師の育児休暇を捉えることが必要かもしれない.

 
利益相反:なし

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文献
1) 種部 恭子:男女共同参画は労働生産性の向上―医療安全と人口減少の視点から―.日外会誌,121: 153-154, 2020.
2) 中村 真由美:女性医師の労働時間の実態とその決定要因-非常勤勤務と家族構成の影響について.2021年7月23日. https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/ jss/pdf/jss6401_045068.pdf
3) 小島 さやか,小林 祐子,久保田 美雪:夜勤・交代制勤務を行う男性看護師の子育て-乳幼児期の子をもつ父親へのインタビューから-.新潟青陵学会誌,13, 12-22, 2019.
4) 中村 琢弥:男性医師の“育休”体験録.医学の歩み,271: 297-301, 2020.
5) 「令和元年度雇用均等基本調査」の結果概要.2021年7月24日. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r01/07.pdf
6) 第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査.2021年7月23日. https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/result3_covid.pdf
7) 男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集.2021年7月23日. https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000686517.pdf
8) NPO法人ファザーリング・ジャパン 隠れ育休調査2019.2021年7月23日. https://fathering.jp/news/news/20190604-01.html
9) 東洋経済online CSR企業総覧(雇用・人材活用編).2021年7月23日. https://toyokeizai.net/articles/-/436930?page=2#:~:text=
10) 西田 裕子,寺嶋 繁典:日本人男性にとっての育児休業.関西大学臨床心理専門職大学院紀要,10: 20-37, 2020.

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