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日外会誌. 122(6): 692-694, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
2.人口分散型地方におけるWEBコミュニケーションを用いた教育および若手の勧誘の工夫

信州大学医学部 外科学教室呼吸器外科学分野

清水 公裕 , 小池 幸恵 , 松岡 峻一郎 , 竹田 哲 , 三浦 健太郎 , 江口 隆 , 濱中 一敏

(2021年4月9日受付)



キーワード
地域医療, WEBコミュニケーション, 若手教育, 人口集中型地方, 人口分散型地方

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I.はじめに
日本には,地方といっても人口集中型地方と人口分散型地方が存在する.長野県は典型的な人口分散型で,大都市部はもちろん,人口集中型の地方と比べても施設の集約化や若手の勧誘・教育が難しい.このような状況下,いかに若手の外科医離れを食い止め,若手の教育を行うかを試案した結果,COVID-19の流行により急速に発展したWEBコミュニケーションの活用に至った.

II.長野県の地政学的な特徴と人口分散型・人口集中型地方
長野県は中部地方に位置し,南北に長く,実に八つの県と県境を形成する.面積は,北海道を除くと日本で3番目に大きく,日本有数の山脈が南北に走ることで県内は東西に幾つもの地域に分断され,地政学的に攻められやすく守りにくい地形を形成している.古代より,この山脈間の沢沿いに街が作られ,中山道や甲州街道などの重要な街道も,この沢沿いの街をつなげるように走る.現在の鉄道や高速道路もこの旧街道とほぼ同じ沢沿いを走るため,南北の交通路は発達しているが,山脈を貫くような東西の交通網は少なく東西の移動には時間を要し,移動時間を加味した東西と南北の距離はほぼ同じだと考えることもできる.さらに,その広大な土地には30㎞程の距離を置き人口約10万人~30万人の都市が偏りなく分散し,県全体で200万人の人口を有する.また,南北に長く,山脈を有することで,県内の天気は地域ごとに異なり,県庁所在地の長野市が1週間雪でも医学部のある松本市は1週間晴天ということも少なくない.平均寿命は,女性が1位,男性が2位で長寿県といえるが,健康年齢では,女性が27位,男性が20位と平均寿命と乖離し,通院のための長距離の移動が困難な高齢者が多い地域でもある.ゆえに救急医療や内科医療の一翼を担う外科医の集約化は,地域の外科医療のみならず地域医療全体の崩壊を招く恐れがあり,信州大学外科学教室は,全県下の病院にまんべんなく人員を派遣しているのが実情である(図1).
一方で,前任地の群馬県は,同じ地方でも人口は関東平野部に集中し,人口10万人以上の都市ほぼ全てが半径30km圏内に集まる人口集中型の地方と言える(図2).この差は,医療資源の集約化のみならず,若手外科医の教育,キャリアアップ,勧誘の行い易さに大きく影響する.何故なら,人口分散型地方では,集中型に比べ人的交流が物理的に難しく,若手の教育や勧誘も関連病院に頼らざるを得ないからである.

図01図02

III.人口分散型地方におけるWEBコミュニケーションを用いた教育および若手の勧誘の工夫
そのような状況下,われわれは,人口分散型地方における切り札として,WEBコミュニケーションを最大限に活用し教育と若手勧誘を行っている.信州大学呼吸器外科は県内に約10の関連施設を持つが,それらは,もれなく県内全域に分散し,一堂に会すのは極めて難しい状態にあった.そこで,われわれは新たにローテーションの若手と大学スタッフ全員を対象とした任意参加のWEB勉強会を,2020年より定期的に行っている.具体的には,毎週月曜日の朝の抄読会,毎週木曜日の朝のミニレクチャー,隔週のリサーチカンファ,月1回の学生・研修医向け講習会である.参加は任意だが,若手医師の参加率は100%に近く,月1回の講習会にも20人以上が参加している(図3).WEBでは移動の手間が無く,途中参加・退出ができるため各自の施設業務に支障をきたすことが無い.また,ミーティングをクラウド上に記録・保管し,いつでも参照可能となっている.ミーティング記録を活用して随時自習できるシステムは,女性外科医や,男性でも育児のため朝夕に時間的制限のある外科医に,有益なシステムになり得ると考えている.

図03

IV.今後の課題
長野県の特性とわれわれの取り組みについて述べたが,現状の医療資源の分散には,いずれ限界が来るとも考えている.われわれとしては,若手外科医を勧誘・確保することで長野県の地域的ニーズに即した外科医療の維持に努めていくが,同時に転ばぬ先の杖として,長野県の地域性を十分に加味した戦略的な資源の集中・集約化を少しずつでも検討して行かなければならない.さらに,直接的な人的交流を保持するために,新たにHybrid形式や,2拠点(長野市・松本市)開催形式での研究会や講習会を計画し,人口集中型地方における若手の教育や勧誘に努めていきたい.

V.おわりに
今後も日本の外科医療を継続していくには,人口分散型と集中型地方,それぞれの特性を生かした戦略が必要である.われわれのWEBコミュニケーションを用いた教育と若手勧誘の工夫や取り組みが,日本の地域医療の維持に少しでも参考になればと考える.

 
利益相反:なし

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