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日外会誌. 122(6): 667-669, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(4)「情熱・努力を継続できる外科教育」
2.当院での初期研修からスタートする若者を魅了する外科教育

1) きつこう会多根総合病院 卒後臨床研修センター
2) きつこう会多根総合病院 外科

森 琢児1) , 小澤 慎太郎2) , 林田 一真2) , 加藤 弘記2) , 川端 浩太2) , 松井 祐起2) , 小池 廣人2) , 細田 洋平2) , 廣岡 紀文2) , 小川 稔2) , 小川 淳宏2) , 西 敏夫2) , 上村 佳央2) , 刀山 五郎2) , 丹羽 英記2)

(2021年4月9日受付)



キーワード
初期研修, 外科研修, 教育, 手術経験

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I.はじめに
医師にとって,自分の手で患者を治したいという気持ちは誰もが抱く志である.医学部を卒業するときには外科医を目指していても初期研修中に他科を研修すると外科希望から他科へ変更するものが少なからず現れてくる1).本年度から外科研修も再度必修となったがやはり初期研修から病院の最後の砦である外科の魅力をきちんと伝えなければならない.初期臨床研修医制度が始まってから外科必修を堅持している当院の試みを報告させていただく.

II.初期研修医から始まる外科教育
当院は外科だけで年間全身麻酔約1,600例の手術を行い,年間8,000台を超える救急搬送に対応する病院である.当院では初期研修システム開始当初から制度の変遷にかかわらず内科6カ月,救急3カ月とともに外科6カ月を必修としてきた.これは初期臨床研修の基本理念がどの科に進もうが最初の2年で骨太の研修医を育てることが肝要であると考えているからである.そのためにも外科研修は全身管理,急変時の対応,縫合処置などを習得するには不可欠であり将来いかなる科に進むにしても外科研修は必須と考えている.
残念ながら厚生労働省の報告でも初期研修終了開始時外科希望であっても研修終了後に外科から離れて行く人が100名以上存在する1).当院でも研修を始めた研修医も学生時代に手術に興味を持つのだが初期研修が始まると,しんどそう,長時間労働で厳しそうと感じ,いわゆる‘外科の壁’で外科研修,外科を専門として選択することに対して不安を感じている人たちが多い.この学生時代に外科の魅力を感じている人たちに初期研修の間その興味が失われないよう外科への壁を取り除き,さらに興味が湧くように様々な工夫をしてきた.まず手術の魅力を伝えるためにできるだけ手術に参加してもらう.シミレーションセンターなどでのドライラボ,ビデオなどでの教育の上で,手術での質を担保しながら第一助手,第二助手そしてモチベーションの高い初期研修医には助手だけではなく指導医のもと執刀も経験してもらう.手術で外科医が感じるワクワク,ドキドキするする感覚また不安を若い先生に実際に手術を通して経験してもらうと外科に魅了される.小さい手術でも実際に手術に触れることで外科の魅力を伝えるのに大きく帰依したと考えている.当院での豊富な手術症例の中,6カ月の研修中に平均して150~160例あまりの手術に参加してもらった.次に若い先生が将来いかなる科に進んでも役立つ学会発表の機会を外科研修中に経験してもらう.現在は新型コロナの影響でオンラインでの発表が増え,Postコロナに向けて学会形式が変化していく可能性が高いが,新しい知見を学んでもらうため積極的に国内学会,国際学会へ積極的に参加してもらい,外科学の最新の知見を学んでもらっている.その際の発表に対して,旅費以外に発表に対しての発表賞として奨励金を与えるなどの初期研修医が発表をしやすい環境を病院挙げてつくっている.さらにわれわれ外科スタッフも通常の仕事での接点以外にもレクリエーションを通じて初期研修医とコミュニケーションをとり手術の魅力だけではなく,外科医の姿をも伝えている.今後は新型コロナの影響で新しい形でのコミュニケーションが必要かもしれない.初期研修修了後に外科に入ろうとしたときに今までは当院での研修終了後当院で専門医研修を行い専門医資格をとることができたが新専門医制度で大きく変わった.研修医の希望に沿うために大学病院を中心とした専門医プログラムに加えて当院を中心とした研修医プログラムを準備した.
このような試みの結果当院の研修システムからたくさんの外科医を輩出してきた.平成16年から令和2年までに総勢88人の研修医を輩出してきたがそのうち外科を選択したものは20人,つまり2割以上が外科を選択,また手術ができる科,所謂外科系を選択したものは48人,5割以上の研修医が手術に触れることによって外科系の進路を選択している.これは厚生労働省の報告に比較して明らかに多い1)
またこの1年は新型コロナの影響で大学,3次救急で受け入れを断られた救急搬送,緊急手術の増加,病院内で発熱外来,新型コロナ患者の対応などで外科医の仕事量が増加し,研修医の進路選択への影響が懸念されたが令和2年も6名中4名が外科を選択し,専門研修に進んだ.外科医が病院の最後の砦であり,大きな役割を担っていることを理解し進路決定には大きな変化は生じていない.手術の魅力に触れ外科を選択するだけでなく大変困難な状況下で病院内で大きな役割を果たす外科医の姿に心が動かされて外科の門を叩いていると考える.
このように初期外科研修を通じて外科医を輩出し世の中にも大きく貢献していると考える.

III.若手にもその気持ちが揺らがないようにモチベーションが維持できる働ける環境の維持
また外科の門を叩いた若手にもその気持ちが揺らがないようにモチベーションが維持できる働ける環境の維持が肝要であると考える.以前から報告しているように2)当院では1)同世代の医師が助け合うBuddy制度.これは同世代の医師が当直明けなどでお互いに主治医と同じように補完しあう.今後は主治医制を廃止してチーム医療に移るべきかもしれない.2)Incentive制度.これは緊急手術の時間外手当に加え手術料の7.5%支給している.病院側も緊急手術は手術料がアップし,しんどかっただけの報酬,他科との色分けができモチベーションの維持につながっている.3)当直明けの帰宅の明文化.医局の規程に当直明けの午後は帰宅可と明記した.また土日祝日当直分は平日に1日休んでも可能と明記した.4)手術でのパート制度.手術をパートに分け後期研修医の研修医が手術において能力に応じてのパートを担当してもらった.少しでも能力に応じて手術に参加できるようにした.このように旧態然とした発想ではなくOnとOffをしっかり使い分け,効率よく仕事ができないと指導医に自分の将来の姿を重ねた若手は入ってこない.またわれわれスタッフも十分な手術症例を集める努力を行い,当院で3年間の研修で専攻医に平均術者500例を含む1,000例の手術症例を経験してもらった.当院で外科専門医を取得した後,大学病院,癌専門施設,市中病院などへ羽ばたいて行っている.
いまだに外科医は365日病院にいるべきだという意見もあるが,外科医減少の中,働き方改革で2024年から労働時間の上限が設けられるため,大きく発想を変えなければならない.生き生きと先輩外科医が働く姿を見せ,将来の自分の姿を被せた若い先生達が外科を伝承していってくれれば明るい未来が期待できる.

IV.おわりに
外科,手術の魅力を初期研修から若い医師に伝え外科医の裾野を広げれば,明るい外科医の未来が待っていると期待される.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:平成31年臨床研修修了者アンケートと調査結果概要. https://www.mhlw.go.jp/content/000744938.pdf(アクセス日:2021年8月20日)
2) 森 琢児 , 丹羽 英記 , 金森 浩平 ,他:定期学術集会特別企画記録 第116回日本外科学会定期学術集会 特別企画(1)「外科医の待遇―明るい未来のために―」7.明るい未来のための外科医の待遇改善―次代を担う外科医のために.日外会誌,117(5): 449-451, 2016.

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