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日外会誌. 122(6): 589-590, 2021

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理想の男女共同参画を目指して

医療記者の見聞録

日本テレビ客員解説委員 

髙田 和男

内容要旨
昨今の女性活躍が叫ばれる中,放送記者として50年間に亘り全国の医療現場を見聞した体験では女性外科医が医療現場で思う存分に活躍する光景は残念にも殆ど見る機会が無かったと言っても過言ではない.一部の医学部入試でも女性差別が問題となるなど外科医の世界では大胆不敵と思われるような根本的な大変革を行わぬ限りは不幸にも理想の男女共同参画は夢物語に終わってしまう危惧を痛感して一石を投じる意味で私的な感想を述べる事にした.

キーワード
ジェンダーと医療現場, 男女平等の働き方改革, 理事会アドバイザーの視点

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I.はじめに
2021年3月末に「わが国のジェンダー・ギャップ指数」は156カ国中120位との衝撃的なニュースが国内を駆け巡った.世界経済フォーラム(WEF)が毎年,試算している「グローバル・ジェンダー・ギャップ」すなわち男女格差の世界比較の結果である.此の調査は経済・教育・医療・政治の4分野で行われ,医療は156カ国中65位,教育は92位,政治に至っては147位の嘆かわしい数字となっている.医療の世界も政治の世界も類似点が幾つも存在すると思われる.どちらの世界も相変わらず男尊女卑が罷り通っていると言っても過言ではない.果たして其の有効な解決策を近い将来に私たちは見出すことが出来るであろうか.

II.議論を呼ぶ男女平等の働き方改革
私は2009年に発足したNPO日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会の監事を会が解散した2020年6月まで務めました.此の会はジョンソン&ジョンソンを退職された松本晃さんが退職金を投じて若手外科医の発掘と人材育成を目的に教育・広報・行政対応の3本柱を中心にして全国の外科教授らに呼び掛けて立ち上げた組織でした.1995年以降,医療現場では外科医を志す若者が減少し続けている.此の状態が続けば地域の病院からは徐々に外科医が姿を消して行き,最悪のシナリオは日本から卓越した手術手技を身につけた外科医が居なくなってしまう.そのような事が現実になれば多くの国民が最大の被害者になってしまう.では何故,若手医師は外科医を選択しないのか?厳しい勤務時間,それに見合わない低賃金や手術に伴う医療訴訟などのハイリスクがあるからだ.ましてや女性外科医は子育てや家事などのハンディキャップを負う事になる.私は今日までの半世紀近くを全国の医療現場を行脚してきた.そんな中で最近は外科の現場で女性医師の姿を目に留める機会は増えてきてはいる.だが,いざ其の教室が主宰する学術集会に足を運ぶと,まだまだ教室員の圧倒的多数は男性だ.教室の責任者は,積極的に医学生に対して入局を呼びかけるものの蓋を開けると女医の卵の大半が内科系に流れているのが現実である.昨今,超勤による過労死が問題視され,医師の労働時間管理の適正化や,育児や介護との両立と周囲の支援,医療現場における人材育成体制の拡大や働き方改革の推進で女性外科医が少しでも働き易い環境にはなりつつある.そんな最中,2020東京オリパラの開催を巡っての女性蔑視というか女性に対する人権侵害的な発言を元総理大臣が声高に言うに至っては,今回の主題である理想の男女共同参画の具現化も遠き夢なのか,と思わずにはいられない.

III.コロナ禍を憂う
2020年の初頭に全世界を目に見えぬ恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染症の蔓延が医療をはじめ政治も経済も教育や文化芸術など日常の全てを大きく阻害してしまった.われわれの英知を結集しても未だ有効な治療薬の実用化には程遠いものがある.今は各国がワクチンに頼るのみのお寒い現状である.医療者はじめ多領域の働き方改革を主導してきた厚生労働省もコロナには殆ど無力でこの状態では働き方改革は当面,望めそうにない.

IV.日本外科学会理事会アドバイザーの体験から
私は大阪春の陣の澤会頭に始まり群馬の桑野会頭,東京の國土会頭そして再び,大阪春の陣で土岐会頭と4人の会頭と共にアドバイザーとして理事会や社員総会などに参加して来た.そこでは外科医が置かれている労働環境や直面する諸問題を20名の理事と共に肌身で体験するという貴重な4年間を経験した.其れまでは話には聞いていたものの実際に教室を預かり365日,患者の生命管理と対峙する外科医の日々の苦悩に直面したことは,正しく目から鱗が落ちる得難い人生経験であった.惜しむらくは此の4年間に体験した日本外科学会定時社員総会でも学会準備を務める幹事の中には女性医師を見い出すことが出来なかったのは心残りであった.

V.おわりに
1972年7月に外科医・中山恒明さんから「キミ,医療報道を志すなら人間の身体の隅々までキミの眼で見なきゃ駄目だ.私の手術を見せてやるから手術場に来なさい」と声を掛けられたことが私の今に繋がる忘れられない出来事だった.私は1970年に日本テレビに入社したが当時のテレビ局では女性社員は数少ない存在だった.それが1980年頃から女性が増え始め,今では報道や情報番組,スポーツやバラエティなどの制作現場で女性社員やスタッフが大活躍をしている.コロナ禍が沈静した暁には,是非とも日本外科学会が率先して女性理事や評議員,幹事の職に女性外科医を登用される事を切望して止みません.
此の事は将来の外科医を目指す女子医学生たちの天空に輝く星の如きものかと思われる. これを手始めに一日も早く〈理想の男女共同参画を目指して〉頂きたいと願います.

 
利益相反:なし

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