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日外会誌. 122(5): 555-557, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「≪緊急特別企画≫パンデミック状況下における外科診療と教育」
1.新型コロナウイルス感染下の外科診療

東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科

池田 徳彦

(2021年4月9日受付)



キーワード
新型コロナウイルス, 手術トリアージ, 院内感染

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I.はじめに
新型コロナウイルス感染症は2020年1月原因不明の肺炎と海外メディアで報道され,瞬く間に全世界に拡大していった.新規の感染症ゆえ,病態の全容は未知であり,診断手順や治療法も確立されるに至っていない.わが国では感染蔓延のため,2020年4月7日に7都府県に対し緊急事態宣言が発出され,4月16日には全国が対象となり5月25日まで継続された.新型コロナウイルス感染の第1波の段階で,外科医は下記の様な複数の点を留意することとなった.
1)臨床面:原疾患の評価,手術かトリアージかの判断,ウイルス感染による重篤な術後合併症への注意
2)院内体制整備:集中治療室の確保,マンパワーの充足度評価,医療機器や感染防御具の確保
3)感染予防:医療従事者や院内感染の防止
これは「ウィズ・コロナ」期になっても継続する事項であり,日本外科学会のこれまでの対応と今後の課題を中心に述べる.

II.感染下の外科臨床
コロナウイルス対策委員会として手術トリアージ判断のための指標を提供することが最優先と考え,「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」を作成した.本来なら手術適応であっても,疾患の性質や緊急度のほか,地域の感染状況,施設の医療資源,マンパワーなど,様々な要素を勘案し,即座に手術を行うかトリアージかの判断が必要となる.提言の内容は外科系領域で広く賛同が得られ,日本医学会連合ならびに多くの外科系学会との連名で発出された1)
より実臨床に役立つよう,領域別の手術トリアージ方針,院内感染のリスク低減のための留意点や医療従事者保護などを解説したCOVID‑19:clinical issues from the Japan Surgical Society2)を執筆しSurgery Todayに収載された.
手術制限の状況は複数の学会で調査されている.日本消化器外科学会のアンケート調査結果によれば,2020年の3月4月に消化器外科の手術制限があった施設は40%(首都圏53%,首都圏以外34%)であった.4月の手術実施率は同年1月と比較すると57%の施設で減少し,70-90%の実施にとどまった施設が38%であった.また,手術を延期しずらい癌種として膵癌,大腸癌が指摘されている3)
日本胸部外科学会でも新型コロナウイルス感染が胸部外科手術に与える影響に関するアンケート調査を施行している.2020年4月以降は50-60%の施設で胸部外科手術が減少しており,減少率は例年と比較して30%程度との結果であった4)
手術が減少した原因としてはトリアージとともに検診の受診や通常の外来受診が控えられたこと,種々の検査が延期されたことなども考えられる.新型コロナウイルス感染が2020年の主要疾患の手術実施や周術期にどの程度影響を及ぼしたか,時期や地域ごとの状況を日本外科学会とNCDが共同して通常年と比較,分析を開始している.

III.感染予防
手術予定の患者が無症候性の病原体保有者であった場合は,患者自身の術後合併症の発生や院内感染が危惧される.特に手術対象となる中高年齢層は心疾患,糖尿病,高血圧などを有している場合も多いため,周術期に新型コロナウイルスに感染した場合は重症化する危険もあり,注意を要する.
術前のPCR検査の必要性や保険適応を求める声明は複数の団体から発出された.本学会と日本消化器外科学会および日本医学連合で「全身麻酔管理下外科手術における新型コロナウイルス核酸検出の保険収載に関する要望書」を厚生労働大臣に提出した5).2020年5月15日には新型コロナウイルスに対するPCR検査は,無症状の患者に対しても医師が必要と判断し実施した場合は保険適応となり,現在に至っている.
わが国は検査処理能力の点で改善の余地があり,必ずしも手術症例全例に行われるまでには至らないが,現場では必要な場合は躊躇無く検査が施行されていると聞く.
加えて,日本医学会連合(門田守人会長)より「緊急提言 進行する医療崩壊をくい止めるために」が発出されたが,課題としてPCR・抗体検出検査体制の拡充とともに,個人防護具の充足,医療従事者への支援体制の確立も強調され,感染第1波の時期にかかわらず的確な指摘が記載されている6)

IV.外科医の生活の変化
感染予防の一環として学会をはじめ,対面式の会議からリモート式になり,大人数での病棟回診も中止された.外科診療以外の感染対策業務も担当しなければならず,院内の環境も変化している.不要不急の外出も制限され,若い年代は精神的にも圧迫感を感じることもあろう.米国の若手医師へのアンケート結果では,感染によるマイナスの影響を臨床面で感じている者74%,健康面47%,精神面70%であった7).わが国でもバーンアウトした医療従事者は両親や同僚への感染の心配や個人用防護具の煩雑さを重荷に感じていた様である8).感染も長期化し,特に若い外科医をはじめ医療従事者の健康面と精神面のケアは重視すべき事項である.

V.おわりに
感染制御のためにはワクチンの普及や治療薬の開発が待たれるが「ウィズ・コロナ」の状況はまだまだ継続する.感染患者の重篤度は千差万別であるため「適所」で迅速に治療が受けられるよう医療機関の分担,連携による効率的な診療が望まれる.外科臨床の現場においては近い将来,術前PCRの一般化やワクチン接種の普及により外科診療アルゴリズムも柔軟にアップデートしていく必要もあろう.医療者が定期的に新たな知識を吸収できるシステム,感染予防,精神面のケアなど施設機能も強化すべきである.この原稿が収載される頃には外科医労働環境改善委員会の馬場秀夫委員長が中心となって行われた「COVID-19による外科医への影響に関するアンケート」9)表1)の結果も公開されているであろう.感染下の外科医の実情が可視化されるはずである.

表01

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本外科学会: https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
2) Mori M , Ikeda N , Taketomi A , et al.:COVID‑19: clinical issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 50: 794–808, 2020.
3) 日本消化器外科学会: https://www.jsgs.or.jp/modules/oshirase/index.php?content_id=280
4) 日本胸部外科学会: https://www.jpats.org/lib/files/info/2020/1029_01_03.pdf
5) 日本外科学会: https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200518.pdf
6) 日本医学会連合: https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2020/07/20200713184929.pdf
7) Coleman JR , Abdelsattar JM , Glocker RJ : COVID-19 pandemic and the lived experience of surgical residents, fellows, and early-career surgeons in the American College of Surgeons. J Am Coll Surg, 232: 119-137, 2021.
8) Matsuo T , Kobayashi D , Taki F , et al.: Prevalence of health care worker burnout during the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic in Japan. JAMA Network Open, 3(8):e2017271, 2020. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.17271
9) 日本外科学会: https://www.jssoc.or.jp/other/info/info20210212.html

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