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日外会誌. 122(5): 552-554, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
8.当高難度医療技術管理室の経験とレギュラトリーサイエンスの提案

1) 京都大学医学部附属病院 高難度医療・未承認医薬品等管理室
2) 京都大学医学部附属病院 高難度新規医療技術評価委員会
3) 京都大学医学部附属病院 医療安全管理部
4) 京都大学 消化管外科

錦織 達人1)3)4) , 万代 昌紀1) , 小濱 和貴2)4) , 松村 由美2)3)

(2021年4月8日受付)



キーワード
高難度新規医療技術, 医療安全, レギュラトリーサイエンス

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I.はじめに
大学病院での外科手術における医療事故の教訓から,2016年に医療法施行規則が改正され,高難度新規医療技術を実施する際にはその適否を決定し管理する部門の設置が特定機能病院の承認要件となった.当院では医療安全管理部内に「高難度医療・未承認医薬品等管理室」が2017年に設置され,2020年8月までに5診療科からの12術式を審査し,49症例が実施報告されてきた.当管理室のこれまでの経験と活動について共有し,本制度がもたらした効果を検討する.また,本制度の課題について検討し,高難度新規技術管理にレギュラトリーサイエンスという概念を導入することを提唱する.

II.当高難度新規技術管理室の審査過程
新規高難度技術の審査と管理には,それらを専門にする医師の積極的な参画が不可欠である.現在,当管理室は,外科系診療科教授を室長とし,助教・講師クラスの医師3名が実務担当の管理室員として参加して,申請書やインフォームドコンセント(IC)文書のチェック,そして実施後のカルテレビューを独立して行っている.そして最終的な意思決定は,外科系,内科系,看護部,研究開発,研究倫理部門の責任者が参加したメール審議を,月に1度以上のペースで実施している.
管理方法のベースは,厚生労働省が定めた基準,厚生労働科学特別研究班が示した「高難度新規医療技術の導入に当たっての基本的な考え方」を踏襲してきた.これらの指標が策定されたことは,特定機能病院における高難度新規技術の管理業務の標準化に大きく寄与しているものと考えられる.
審査では以下の3点に注力している.第一に,実施前の体制確認に加え,実施中の安全性確保を目指している.例えば,新規技術を中断し,既存技術に戻すかどうかを麻酔科や術者が「検討する」タイミングを,手術時間や出血量等から事前に規定し,所謂「Sunk Costの呪縛:ここで止めたら勿体ない」という心理への対策としている.第二に,単に新しい技術であることだけでは患者にとっての利点がなく,「この技術は新しく不慣れで,こうしたリスクはあるが,これまでの技術と比較して,あなたにとってこういう利益があると私達は考えている.」という医療者の意図を,患者に理解してもらえるIC文書を作成し,高難度新規技術におけるShared-decision makingの実装を目指している.第三に,新規技術についての患者適応は単一の診療グループや診療科で決定するのではなく,関連診療科やコメディカルなど多角的視点からのレビューにて決定し,患者にもそのことが伝わるようにしている.
管理室での審査後,高難度新規医療技術評価委員会に審議を附託する.各委員が,適応症,有効性,安全性,技術的妥当性,社会的倫理的妥当性の5項目を3段階評価し,評価委員長の判断としての総合判定が管理室へと通知される.管理室で再度審査を行い,承認の是非を決定する.

III.独自の管理規定
過去の経験から,厚生労働科学特別研究班が示した「基本的な考え方」に加えて,以下の項目を規定し,承認時に申請者に通知している.
①実施後報告が管理室へ速やかに届かなかった経験から,実施後の報告期限を1週間以内と設定した.
②申請書に記載され,専門医資格等を確認された医師以外が実施した事例の経験から,申請時に承認された医師のみが実施でき,他医師が実施する場合には申請の必要性があることを明記した.
③有害事象が1例目で発生した経験から1例目の安全な実施を管理室が確認した後に2例目を実施することと,2例目以降も有害事象発生時は管理室が許可するまで実施停止することを規定した.

IV.本制度の周知とチェックシステム
各種会議,ポスター,電子カルテログイン時のポップアップ画面等で職員に本制度について周知している(図1).また,管理中の対象術式を全ての医療者が確認できるように,電子カルテログイン画面に対象術式を掲示している.各診療科には,本制度対象術式の実施の有無と実施報告書記載の確認を半年毎に依頼している.さらに診療報酬算定の際に,承認技術がないかを事務レベルでチェックしている.

図01

V.本制度の課題とレギュラトリーサイエンス導入の提唱
他施設では広く実施されていて,エビデンスが比較的多く存在する技術を自施設に導入する場合は,施設単位で体制や問題点を検討する本制度が,有効に働くと考えられる.しかし,国内新規の高難度技術の場合は,例えば2例目に有害事象発生しても,単施設で安全性を評価することは困難である.
レギュラトリーサイエンスは,科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に,根拠に基づく的確な予測,評価,判断を行い,科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学である.各施設の管理室が共通フォーマットでデータを収集し共有することができれば,多数のデータから技術の安全性を評価することができるようになる.また,自施設のデータを他施設と比較することで,自施設独自の問題なのか,技術自体の問題かを検討することができるようになる.そして,従来,学会発表レベルで実施されてきた,どちらかといえば「上手く行った」手技や患者適応などの経験の共有を,「上手く行かなかった」経験も含め,有効に活用することもできるようになる.更に専門学会と協力し,データベースや疾患レジストリを利用することができれば,従来技術と患者背景を揃えた比較も可能になる.

VI.おわりに
外科手術の医療事故の教訓から高難度新規技術の管理制度が導入され,実施の透明性と安全性は着実に向上したと考えられる.しかし,施設単位の管理には特に国内新規技術において限界がある.レギュレーションを組織的に構造化して,科学的根拠(サイエンス)に基づく管理を行うことで,新規高難度技術導入の安全性を更に高め,専門家集団としての社会に対する説明責任をより一層,果たすことができるようになると考えられる.
謝  辞
大変厳しい社会情勢の中,全国の外科医のために第121回日本外科学会定期学術集会を開催していただきました千葉大学先端応用外科学の皆様,学会関連の皆様に心よりの敬意と謝意を表します.

 
利益相反:なし

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