日外会誌. 122(5): 546-548, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
6.特定機能病院間相互ピアレビュー実施状況の報告「高難度新規医療技術を用いた医療の提供の適否等を決定する部門の運用状況」
1) 宮崎大学医学部附属病院 医療安全管理部 綾部 貴典1) , 後 信2) , 工藤 篤3) , 北村 温美4) , 西塔 拓郎4) , 中村 京太4) , 中島 和江4) (2021年4月8日受付) |
キーワード
高難度新規医療技術, 特定機能病院, 相互ピアレビュー
I.はじめに
平成28年6月特定機能病院の医療安全管理対策強化を目的に,厚生労働省令第110号にもとづく医療法施行規則が改正された.特定機能病院の承認要件が見直され,医療法施行規則第9条の23第1項第11号の規定により,「特定機能病院間相互のピアレビュー」を,平成29年度から毎年実施することが,特定機能病院の管理者の責務として定められた.その中に「高難度新規医療技術を用いた医療の提供の適否等を決定する部門の運用状況」がある.
筆者らは特定機能病院間相互ピアレビュー実施に伴う調査項目の評価方法と基準の作成等に係るワーキンググループに参加し,「高難度新規医療技術」に関する評価項目や手法を定めてきた.特定機能病院である国立大学病院は,全国規模で相互ピアレビューを毎年実施し,国立大学病院長会議常設委員会に調査の結果を報告してきた.
本報告は2020年3月に提出された「令和元年度特定機能病院相互のピアレビュー報告書」1)の中から,「高難度新規医療技術」に関する事項について,集計結果とその評価を紹介する.
II.特定機能病院間相互のピアレビュー実施方法
特定機能病院間相互のピアレビュー実施方法は,「自己チェック」と「訪問調査によるチェック」に区分して実施した.訪問調査期間は2019年9月~11月に実施した.各大学病院は「自己チェックシート」を作成し,全国規模での1機関対1機関の組み合わせで訪問調査を実施し,チェックを行った.メンバー構成は,医療安全管理責任者,医療安全管理者(GRM)で行われた.
調査項目は,担当部門や評価委員会の実績,外科および外科系診療科の手術を中心とした申請書および審議議事録(直近の3件),評価委員会,高難度新規医療技術導入後の検討体制について行った.ワーキンググループの構成委員は,全国大学病院のデータを集計し,結果をまとめ,評価を行った.
III.宮崎大学病院における高難度新規医療技術の管理部と高難度新規医療技術評価委員会の運用体制
図1は,宮崎大学病院の高難度新規医療技術に関する管理部とその評価委員会の体制や運用フローを示している.診療科等の科長は,高難度新規医療技術を管理部に申請する.管理部は書類を審査し,評価委員会のメンバーを選定し,技術の評価を依頼する.評価委員会は,申請者から技術内容,これまでの術者の臨床経験,技術の実施方法,説明と同意書,エビデンス,有用性,合併症やリスクなどのヒアリングを行い,評価を行い,結果を管理部へ報告する.管理部は審議・承認後,申請のあった診療科へ,最終審議結果を報告する.診療科の長は,定期的に実施報告を行うが,有害事象,インシデントなどが発生した場合には,医療安全管理部も含めて管理部に報告しなければならない.
IV.結果
担当部門の責任者の職種は,全病院で医師であり,その所属は外科系診療科が多くあった.担当部門の構成員は,手術部門からは45 病院(88%)が医師を配置し,うち10病院は医師のほかに看護師や臨床工学技士,歯科医師といった多職種を配置していた.評価委員会の実績は,平成29年度~平成30 年度は,委員会を開催した回数が1~5回の病院の割合が減り(64%→47%),6~10回の病院の割合が増加していた(20%→31%).
高難度新規医療技術を用いた医療の提供の適否等を決定する部門の運用状況は,平成30年度に高難度新規医療技術の審査を申請した診療科のうち,直近の3 診療科を集計すると,消化器外科,産科婦人科,泌尿器科の順に多かった.とくに外科系では,消化器外科,呼吸器外科,心臓血管外科,小児外科の順であった.申請を受けたが,14%の病院で,審議により未承認とした案件があった.
未承認とした理由は,1)関係診療科間でコンセンサスが得られていない,2)リスクの根拠となるデータが不明確で,手技の安全性評価が困難であり,3)がん遺伝子検査のため,4)倫理委員会での審査が必要と判断,5)麻酔方法に問題があると判断,6)研究が主体であると判断,であった.
平成30年度に申請された高難度医療技術は,「技術カテゴリー」では,ロボット支援手術が59病院で,消化器外科領域では,食道悪性腫瘍切除術,胃切除術,膵切除術,直腸切除術であり,呼吸器外科領域では,縦隔腫瘍手術,肺悪性腫瘍・肺葉切除術であった.
カテーテル治療は30病院で,その内訳は,心臓血管外科領域では,ステントグラフト内挿術(胸部大動脈や傍腎動脈腹部大動脈瘤),経カテーテル大動脈弁挿入術TAVI,経皮的僧帽弁クリップ術MitraClipであった.
技術カテゴリーの鏡視下手術は21病院で,消化器外科領域では,腹腔鏡下総胆管拡張症手術,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術であり,呼吸器外科領域では,胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術,局所麻酔下胸腔鏡であり,心臓血管外科領域では,胸腔鏡下弁形成術,甲状腺領域では,鏡視下甲状腺切除術であった.
高難度新規医療技術導入後の検討体制に関して,平成30年度の高難度新規医療技術導入後の担当部門への報告件数は,報告のほとんどは定期的報告であり,1〜5例の報告は16病院31%,6~10例の報告は10病院19%であった.
平成30年度の担当部門への死亡等報告は,14病院(27%)からなされ,うち,9病院は1症例のみであった.
担当部門への報告内容は,患者名・患者識別背景(41病院),技術名(47病院),実施年月日(46病院),当該技術提供後の状況(43病院),合併症発生の有無(36病院),説明範囲を超える有害事象の発生の有無(32病院),死亡の有無(36病院),今後の治療予定(18病院),その他(実施計画変更の有無,部署カンファレンスの概要,退院要約,手術記録,説明・同意文書の写し等)であった.高難度新規医療技術を適応した患者の死亡事例発生時の臨床プロセスをピアレビューする委員会は,全ての死亡事例は,診療科から担当部門に報告されており,医療安全にかかわる委員会への報告は37病院で,担当の部門や評価委員会にも報告されていた.
V.まとめ
1.制度開始後2年以上が経過した段階では,高難度新規医療技術の審査,実施後の報告,検証体制が適切に構築され,運用実績が積まれていることが確認された.
2.申請された技術は,ロボット支援下手術,カテーテル治療,鏡視下手術が多くあった.
3.評価委員会は多職種から構成されていた.
4.今後の課題として,従来より施行されているが治療・成績が不良な技術を拾い上げる仕組みや評価方法の検討が必要と考えられた.
VI.おわりに
当院における高難度新規医療技術管理部およびその組織体制と,ワーキンググループ「高難度新規医療技術」が担当した結果や評価を紹介し,現状と課題について報告した.
利益相反:なし
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