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日外会誌. 122(5): 541-542, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
4.当院での高難度新規医療技術導入に対する取り組み

1) 昭和大学藤が丘病院 消化器・一般外科
2) 昭和大学 藤が丘病院

田中 邦哉1) , 大山 和2) , 高橋 寛2)

(2021年4月8日受付)



キーワード
高難度新規医療, 未承認新規医療品, 適応外使用

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I.はじめに
 2016年の医療法施行規則改正により,高難度新規医療技術導入に際し,その適否の検討プロセスが特定機能病院の承認要件として義務付けられ,その他の病院でも努力義務となった.当院は特定機能病院には該当しないが2018年より『高難度新規医療技術・未承認新規医療品等審査委員会(高難度未承認医療委員会)』を設立し,高難度新規医療技術の導入,未承認新規医薬品・医療機器あるいは医薬品適応外使用に関する審査を行っている.本稿では,当院の委員会での審査の実際ならびに問題点を検証し,高難度医療技術の導入や維持体制づくりの標準化を検討することを目的とした.

II.委員会の構成,機能
当院は許可病床数584床で,神奈川二次医療圏のうちの横浜北部医療圏の地域支援病院であり,神奈川県がん診療連携拠点病院である.
高難度未承認医療委員会は,先進医療専門委員会や臨床試験審査委員会などとともに倫理部門に含まれる委員会であり,副病院長2名,外科・内科系診療科長1名以上,看護部長,薬剤部長,および事務部長や医事入院・外来課長などの事務部委員から構成される.臨床研究・治験を伴わない新規に導入する医療技術および未承認医薬品・医療機器の使用の適否,適応外使用の審査を担当する.審査対象は,「高難度新規医療技術」に関しては当院で新規に導入する外科系学会社会保険委員会連合(外保連)試案の技術難易度D以上,外保連に掲載のない技術,あるいは保険診療に位置づけられていない技術が該当する.「未承認医薬品・医療機器」は国外で承認あるは実績報告がある国内未承認医薬品・医療機器が該当し,医薬品の適応外使用や禁忌薬使用の適否も合わせて審査する.
審査は書類審査および申請者のプレゼンテーションを含めた委員会審議により行われる.患者説明・同意書を含めて申請書類を提出し,申請書式内には新規導入技術の詳細に加えて関連学会の設定する施設基準や術者基準の充足の有無,指導体制も含めた体制整備状況などを記載し,さらにガイドラインでの推奨レベルおよび既報告でのエビデンスレベルを記載した上で,その根拠となるガイドライン,論文等を同時に添えて提出する.申請書式や根拠論文は事前に委員全員に資料配布する.委員会の際には原則として申請者の属する診療科長が同席のもとで申請者よりプレゼンテーションを行ってもらった後に,委員全員での審議に入る.審査判定基準はガイドラインB(科学的根拠があり行う事を推奨)相当以上,エビデンスレベル3(非ランダム化同時controlを伴うcohort研究)相当以上を原則承認とするが,推奨度,エビデンスレベルのみでなく患者影響度も考慮し委員4/5以上の合意により議決する.採決は,承認,条件付承認,却下,判定保留,臨床試験のみでの実施承認,のいずれかにより決定し,臨床試験のみでの実施承認では,こののち臨床試験審査委員会での審議を義務付ける.
審査通過後は,承認時に義務付けた実施報告必要症例数まで実施報告書を委員会事務局へ提出し報告書は院内の医療安全委員会と情報共有する.医薬品の適応外使用の際には全例報告を義務付けている.また承認後1年毎に施行症例数や合併症の詳細報告を行い,この報告結果を受けて再審査の必要性の有無を事務局で判断する.

III.委員会実績
特定機能病院ではないといった特徴あるいは新規導入医療の中でも外保連試案技術難易度D以上と申請範囲を比較的幅広く設定したこともあり,現在までに26件の高難度新規医療技術に関する申請があり,14件を承認,8件を条件付き承認とし,2件は臨床試験としての実施勧告,2件は申請取り下げといった実績であった.また,適応外使用や禁忌薬使用も含めた未承認医薬品・医療機器申請では適応外使用に関する申請が多数を占め,申請27件中25件を承認し2件は臨床試験としての実施勧告といった実績であった.

IV.問題点
これまでのおよそ2年間の委員会実施の過程で以下の三項目が問題事項と思われた.
一点目は,審査対象とすべき高難度新規医療技術の範囲が曖昧な点である.対象とすべき技術は2016年の厚生労働省の医療法施行規則改正でも,「当該病院で実施したことのない医療技術であってその実施により患者の死亡その他の重大な影響が想定されるもの」と述べられているだけであり,一般的には外保連試案技術難易度Eおよび一部のD以上と解釈されている.しかし難易度Dの一部の範囲が不明瞭であり,またD相当でも容易ではない手技も多数ある.また自施設で新規に導入する技術では慎重な導入が必須となるため審査対象の幅を広く設定しがちとなる.だからといって全ての新規導入技術を対象とした場合,委員会負担は極めて甚大なものとなる.さらに審査判定基準に関してもガイドラインやエビデンスレベルといった客観的判定基準のみで評価可能な事案は少数である.
二点目の問題点は保険診療との整合性である.適応外使用に関しては自費負担が原則となるが,保険審査で査定されない程度の臨床で一般化している適応外使用は実は少なくない程度に認められ,これらの適応外使用を委員会で承認した場合,保険診療との整合性が重要となってくる.現在当院では高難度未承認医療委員会の下部組織として国民健康保険診療報酬審査委員,社会保険診療報酬審査委員,保険局医療課医療指導監査室監査官らから構成される保険請求ワーキンググループ(部会)を設置し個々の申請に対して保険請求に関する審議を行い,必要により厚生局に指示を仰いでいる.
三点目の問題として,委員会で承認した申請事案で問題が生じた際の委員会としての責任が曖昧な点が挙げられる.当院では高難度未承認医療委員会とは別に医療安全管理委員会が設置されていることから,現時点では,必要時には医療安全委員会と合同で事案に対する委員会を立ち上げて,事例検討会の施行あるいは院内調査委員会の設置,医療事故調査・支援センターへの報告の必要性等を吟味していく方向で検討中である.

V.おわりに
特定機能病院には該当しない当院での高難度医療技術の導入・維持体制づくりの取り組み・現状・問題点を報告した.現時点まで委員会の機能上大きなトラブルには遭遇していないが,今後は,明確な審査対象基準・判定基準の設定,保険制度との整合性,委員会責任範囲の明確化といった問題点を解決していくことが必須であると思われた.

 
利益相反:なし

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