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日外会誌. 122(5): 535-537, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
2.公的制度を用いた乳癌ラジオ波熱焼灼療法(RFA)導入の取り組み

国立病院機構東京医療センター副院長,乳腺外科 

木下 貴之

(2021年4月8日受付)



キーワード
早期乳癌, ラジオ波熱焼灼療法, 非切除療法, 先進医療B, 患者申出療養

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I.はじめに
マンモグラフィ検診の普及や画像診断法や針生検の進歩により早期乳癌の発見機会が増加してきている.乳癌外科治療では乳房温存療法やセンチネルリンパ節生検に代表される手術の低侵襲化ばかりでなく,高い整容性とQOLへの配慮も要求され,究極の乳房温存療法としてのnon-surgical ablation therapyが注目されている.早期乳癌ラジオ波熱焼灼療法(radiofrequency ablation therapy;以下,RFA)の開発は,2006年より臨床的な使用確認試験および高度医療評価制度下にPhaseⅠおよびⅡの多施設共同臨床試験を開始し,2013年度より先進医療BにてPhaseⅢ試験を開始し,結果で早期乳癌RFAの薬事承認と保険収載を目指している.

II.本邦におけるRFA
RFAは国内では肝臓がんの治療として実績がある.RFA療法の原理は交流電流により電極周囲の組織にイオンの変動が起き,その結果として生じる摩擦熱によりがん細胞を凝固,壊死させるものである.この手技を乳がんに応用したもので,当初,肝臓と同じ7本の展開針型ニードルが用いられていたが,乳腺組織が肝臓と比べて硬く穿刺しにくいこと,皮膚への熱伝搬のコントロールが難しいことなどから,われわれは,シングルニードルで熱コントロールも容易なCool-tip RF System(Medtronic, Energy-Based Devices, Interventional Oncology, Boulder, CO, USA)を採用した.

III.RFA安全性評価試験
われわれは,2006年6月より倫理審査委員会の承認のもとに,RFA施行後に切除標本にて病理組織学的に評価を行う安全性試験を開始した.Primary endpointは有害事象発生割合,Secondary endpointを抗腫瘍効果とした.本研究は,臨床的な使用確認試験として開始し,高度医療(第3項先進医療)へと引き継がれて実施された.術前画像診断では,マンモグラフィに加えて,超音波検査(US)およびMRIを必須とした.49例にRFAが施行された.結果は乳腺組織でのCool-tipシステム(17G)でのRFA焼灼範囲の中央値は3.0cmで,病理学的腫瘍径2cm以下でEIC(-)の乳癌症例がRFAの良い適応となることが確認された.本手技の合併症は,皮膚熱傷が2例,大胸筋熱傷が3例でいずれも保存的に軽快,治癒している.本試験により乳癌RFAの安全性と適応症例が確認された.

IV.先進医療Bで実施している早期乳癌RFA多施設共同 PhaseⅢ(RAFAELO)試験の概要
医療技術の概要図を図1に示した.目的は,早期乳癌症例に対して非切除を前提としたRFAを行い,5年温存乳房内無再発生存割合をPrimary endpointとしてその有効性を検証し,早期乳癌に対する標準治療としての位置づけを目指した.対象は,Tis-T1(腫瘍径1.5cm以下)N0M0 Stage 0-Ⅰの単発乳癌病変を有し,臨床試験参加に同意する患者で,術後の化学療法,放射線療法,ホルモン療法が実施可能な症例.また,重篤な脳梗塞,心筋梗塞,血栓塞栓症の既往歴がなく,全身麻酔に耐えうることとした.治療は,全身麻酔下で,体表面から乳房内病変に対して超音波ガイド下にラジオ波電極針を穿刺し,病変にラジオ波による熱焼灼を行う.術後には標準的放射線治療と薬物療法を実施することとした.予定登録数は372例で,研究期間は登録期間:60カ月.追跡期間:登録終了後60カ月.総研究期間:120カ月となっている.本試験は5年温存乳房内無再発生存割合をPrimary endpointしている単アーム試験である.2013年7月に先進医療Bとして承認され,同8月より症例登録が始まった.症例登録は順調に進み2017年11月に目標登録症例数372例に達し,登録を終了した.これまでのところ重篤な有害事象報告はない.

図01

V.患者申出療養で開始した早期乳癌多施設共同(PO-RAFAELO)試験
先行するRAFAELO試験の登録が終了した後も多くのRFA希望患者が各施設を受診され,また,RFA実施に関する問い合わせも途絶えることはなかった.これら多くの患者達の希望を叶えるため,拡大先進医療という立ち位置で患者申出療養を利用した早期乳癌RFA試験を計画した.患者申出療養は,困難な病気と闘う患者の思いに応えるため,先進的な医療について,患者の申出を起点とし,安全性・有効性等を確認しつつ,身近な医療機関で迅速に受けられるようにするものです.PO-RAFAELO試験の目的は,患者の申出に応えつつ,未だ薬事承認・保険収載の可否判断を行うには有効性・安全性の根拠が十分でない,評価の定まっていない治療法の,より多施設での実行性・安全性の確認を行うこととし,主要評価項目は 治療時有害事象割合,副次評価項目は不完全焼灼割合およびプロトコール治療完了割合とした.平成31年2月に厚生労働省の患者申出療養評議会にてPO-RAFAELO試験は審議され,平成31年3月7日に患者申出療養での実施が承認された.

VI.おわりに
乳がんの低侵襲局所療法であるRFAなどのnon-surgical ablation療法は正しい適応や手技のもとに実施されれば,従来の外科的切除より高い整容性と同等の局所制御能があると考える.本邦では薬事法上医療機器として承認されているRFAが標準化への一番の近道と考え,公的制度下にその開発を開始した.RAFAELO試験とPO-RAFAELO試験の結果をもって乳癌RFAの薬事承認と保険収載を目指している.
機器承認後には学会主導で高難度新規医療技術導入および普及の体制を整えることが重要であろう.

謝  辞
本研究の一部は令和2年度日本医療研究開発機構研究費 革新的がん医療実用化研究事業 新たな標準治療を創るための研究(領域5-1)「標準的乳がんラジオ波熱焼灼療法開発に係る多施設共同試験」の助成を受けた.

 
利益相反:なし

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