日外会誌. 122(5): 532-534, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
1.外側区域切除を除く亜区域切除以上の腹腔鏡下肝切除術に対する高難度新規医療技術の導入経験
1) 静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科 岡村 行泰1)4) , 谷澤 豊2)3) , 杉浦 禎一1) , 蘆田 良1) , 大木 克久1) , 大塚 新平1) , 田村 峻介1) , 寺島 雅典2) , 上坂 克彦1) (2021年4月8日受付) |
キーワード
高難度新規医療技術, 腹腔鏡下肝切除, 特定機能病院, 外保連
I.はじめに
高度な医療を担う医療機関において,高難度の医療技術を導入した後に医療安全に関する重大な事案が相次いだことを受け,厚生労働省は,特定機能病院に対する集中検査を行い,高難度の医療技術を導入するにあたって事前審査等のルールがない,またはルールがあっても遵守されていない病院がある実態を把握した.これを受けて2016年6月,医療法施行細則が改正され,高難度新規医療技術を導入するにあたってのプロセスに統一的なルールが定められた.以後,高難度新規医療技術を実施する際には,当該医療の実施の適否について診療科の長以外の者が確認するプロセス等が特定機能病院に義務付けられ,その他の病院には努力義務とされた.
本稿では,特定機能病院において「外側区域切除を除く亜区域切除以上の腹腔鏡下肝切除」に対する高難度新規医療技術の導入経験と,今後の問題点について概説する.
II.高難度新規医療技術とは
高難度新規医療技術とは,「当該病院で実施したことのない医療技術であって,その実施により患者の死亡その他重大な影響が想定されるものをいう」と医療法施行規則に定められているが,その該当性は,各医療機関で異なってくる.例えば,筆者の前任地である静岡がんセンターでは,外保連試案1)医療技術難易度Eにあたる「膵頭十二指腸切除術(動脈・門脈同時再建を伴う)」は,2016年以前にも通常診療で行われていたため高難度新規医療技術に該当しない一方,現任地の日本大学医学部附属板橋病院においては高難度新規医療技術に該当する.
特定機能病院では,高難度新規医療の導入にあたり特定のプロセスを介さず実施されていれば,承認要件を満たすことができないため,特定機能病院の継続が不可能となる.2017年の時点で,静岡がんセンターでは技術難易度Eにあたる「外側区域切除を除く亜区域切除以上の腹腔鏡下肝切除」の実施経験がなく,特定のプロセスを経て開始することとなった.
III.実際に行った手続きについて
日本外科学会のホームページには,高難度新規医療技術該当リストhttps://www.jssoc.or.jp/journal/guideline/info20181130.pdf(jssoc.or.jp)の記載があるが,各術式で実施基準があるため,事前に確認が必要である.今回経験した腹腔鏡下肝切除の導入においても,日本消化器外科学会が定める施設基準があり,まず学会と連携している証明を受ける必要があった.
図1に静岡がんセンターでの高難度新規医療技術の定義(図1A),申請から実施までの流れ(図1B)を示す.申請に当たっては,「高難度新規医療技術の導入にあたっての基本的な考え方」2)に準じて書類を作成した.
基本的な考え方には,術者の技量や指導体制の在り方等の医療安全に関する考え方についての記載があったが,施設基準と比較すると,経験数,必要な資格など具体的な条件の記載がなく,努力目標的な記載が多いことが書類作成にあたり苦慮した点であった.
実施の対象症例は,科内カンファレンスで検討し,clinical practice委員会の意見も参考として,腫瘍条件は,当面の選択基準として5cm以下かつ背景肝が正常,正常に近い症例とし,腫瘍が他臓器へ浸潤,主肝静脈の下大静脈流入部,下大静脈に接している症例は適応外とした.
指導体制として,基本的な考え方には明確な基準の記載はないが,S3,S5,S6の亜区域切除は,これまでの経験に基づき十分に安全性が担保され実施可能と判断し招聘は行わず,それ以外の術式は少なくとも当初5例までは経験豊富な医師を招聘し,その直接指導下で手術を実施することとした.
IV.実施実績について
2017年10月に書類申請,11月に承認,12月に肝左葉切除を第1例目の「亜区域切除以上の肝切除」として実施した.
実施に当たっては,インフォームドコンセントの在り方に沿って,外来診察室にて看護師同席のもと,左葉切除は当院で1例目であること,代替治療の提示(開腹肝切除),これまでの術者の経験,手術実績について説明を行い,腹腔鏡下肝切除の同意が得られたので,実施前に実施日,実施術式を医療安全管理室(RMQC室)に報告し,医師を招聘し実施した.
その後,10例までは1例ずつ術前,術後にRMQC室への報告,インフォームドコンセント時の看護師同席,症例数呈示を行うことが義務付けられ,2019年6月に10例目を実施し,開始から18カ月を要した.本術式の申請・承認と同時期に婦人科から高難度新規医療技術として申請された術式が先に10例に到達した段階で,11例目以降の対応についてRMQC室で検討が行われた.2019年3月に11例目以降の対応・長期的フォローの条件が変更され(図1C),以後,肝切除においても同様な手続きを行った.
2020年7月までに37例を実施し,術後在院日数中央値6日(範囲:5~21日),Clavien-Dindo分類gradeⅡ以上3)の合併症が3例(gradeⅡ:2例,gradeⅢa:1例)と開腹肝切除と比較して良好な成績が得られた.
V.高難度新規医療技術の今後の課題,問題点
術者の技量や指導体制の在り方などについて明確な記載がないため,実施までのプロセスの内容に施設間で相当な差を生ずる可能性がある.亜区域切除以上の腹腔鏡下肝切除においても所定の手続きを行えば,腹腔鏡下肝切除10例の経験,招聘なしでの実施も可能であり,安全性の担保については,各医師,各施設の倫理観に依存する部分が大きいことが課題と考える.
また,症例をかさねるにあたり,実施基準の見直しも重要と考えられた.当科でも当面の症例選択基準として腫瘍径が5cm以下の症例を対象に開始したが,15例目以降は,5cm以上の症例も適応とした症例があり,2020年8月以降8例中3例においてClavien-Dindo分類gradeⅢa以上3)の合併症を認めた.この段階で適応や開腹移行基準,同意説明文書の内容など科内で再検討したが,合併症を経験せずとも一定の症例数に達した時点で,適応,開腹移行などの基準の見直し,振り返りを行うシステムの構築が重要と考えられた.
VI.おわりに
2021年4月に日本大学医学部附属板橋病院に異動となり,再度,高難度新規医療技術導入のプロセスを経験することとなった.板橋病院においては,外保連試案における技術難易度Dとなる「腹腔鏡下肝部分切除,肝外側区域切除」も当該医療機関で実施したことのない医療技術ということで高難度新規医療技術として扱われることとなる.同じ術式の申請プロセスを経験することは貴重であり,これまでの経験をもとに,より安全かつ速やかな実施を行いたい.
利益相反:なし
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