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日外会誌. 122(5): 526-528, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
6.専門医制度・研修内容のあるべき方向性

東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科

池田 徳彦

(2021年4月8日受付)



キーワード
専門医研修, シミュレーショントレーニング, 到達度評価, フィードバック

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I.はじめに
日本の医療水準は世界的にもきわめて高いと評価されている.国民皆保険の医療システムを考えると医療レベルの均てん化は必須であり,専門的な知識や技術を広く社会に還元するために専門医の育成は重視される.外科専門医資格を取得後,あるいは外科専門医研修中から連動してサブスペシャルティ研修を行うが,外科系専門研修の中心は手術であり,水準以上の技量獲得には一定の症例経験が必要である.一方で症例経験の蓄積のみならず,研修の質や専攻医の環境に対しても留意する必要がある.

II.専門研修での手術経験(呼吸器外科)
いずれの領域でも主要疾患の疫学,診断,外科治療,周術期管理,内科的治療,基礎医学などの専門医として必須な知識と技術を修得するとともに,研究心,倫理性,社会性の涵養も規定されている.
表1に現行の呼吸器外科専門医新規申請に必要な手術経験数を示す.術者60例以上,助手120例以上が最低条件であるが,2019年の専門医研修修了者は術者経験106.8例,助手277.2例,合計384例の手術経験があり,基準を大きく上回るものであった.肺癌手術では術者47例,助手110例を経験している1)
とはいえ,米国の呼吸器外科専門医研修には心臓,食道の手術経験を含み,日本よりはるかに多くの術者経験が要求され(表2),シミュレーショントレーニングも20時間が義務化されている2).専門医の有する能力として二つのレベルが存在し,たとえば米国ほど経験症例が多ければ,独立度の高い存在となるであろうし,日本の現在の研修修了段階では専門診療チームの一員として機能するレベルで留まる感がある.

表01表02

III.研修の質の改善:到達度評価とシミュレーショントレーニング
経験すべき手術数の水準を一気に上げることは混乱を招くが,「数」とともに研修の「質」にも改善の余地がある.専攻医は日常臨床を通して知識や技術の到達基準を満たしていく過程で,実技評価,フィードバックの機会が乏しいと目標とすべきレベルを明確にイメージできない可能性がある.各施設で研修内容は遵守されているが,公認された指導マニュアルや指導面に関する第三者の客観的評価は無く,個々の研修指導医の裁量に委ねられている.項目別に達成度の評価基準や標準的な指導方法が確立されれば,専門研修自体の向上に直結しうる.少なくとも専攻医の技量は客観的なスキル評価により可視化されるのではなかろうか.さまざまな手術手技の専攻医による自己能力評価が指導医による評価を下回る傾向がある3)ことも解決したい.結紮,縫合,剥離など単一の基本手技の評価は従来から行われているが,術野の展開,助手との協調,手術手順,愛護的手技,よどみの無さなど「手術の流れ」は外科医としての総合力を反映するので,手術全体を通しての評価も採用すべきである.
また,研修施設のほとんどがシミュレーションセンターを有しているが,残念ながらスキルトレーニングをプログラム化しているのは少数に留まり,ドライラボトレーニングがほとんどである4).シミュレーションは専攻医,指導医とも労力が必要であるが,外科手術も低侵襲化が進み,獲得すべき技術も高度化しているため技術向上,医療安全などの点でも重要性は増している.
学会の事業として,単一施設では構築が困難な教育資材やe-ラーニングシステムの構築,カダバーによる研修をはじめ,指導医の教育スキル向上への支援など専門研修に新たな概念を導入することが責務と考える.

IV.研修環境の充実
専門研修期間中には複数の施設や領域をローテートするため,精神的に負担を感じる専攻医も存在する.生活環境の安定と適切なワークライフバランスが研修継続に重要であり,バーンアウト防止にもつながる.特に結婚,出産,育児などのライフイベント,あるいは基礎研究に集中する時期や留学の機会に恵まれることもあろうかと想像する.このような場合は制度上の便宜とともに,職場の理解も必要である.また,近い将来,働き方改革により労働時間が厳しく規制される見込みであり,効率的な研修方法も工夫されるであろう.
タスクシフトが導入されれば一定の仕事は委譲され,事務的作業の負担なども軽減される.女性外科医はキャリア形成にとって結婚,出産,育児は大変な時期と認識しており,この点では男性医師の意識の薄さとは大きな隔たりがある.仕事の継続に保育施設,業務分担,フレックス勤務は多数が要望している5).外科系の女性医師の割合は増加しており,施設,学会,社会が連携しながら支援を行うべき問題である.

V.おわりに
良質な医療が万遍なく提供される体制の構築には専門医育成は必須である.経験症例の増加,定期的な到達度評価とフィードバック,シミュレーショントレーニングの必須化など改善の余地がある.また,研修環境の向上は研修の便宜とともに重要性を共有すべき事項である.

 
利益相反:なし

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文献
1) Ikeda N , Asamura H , Chida M : Training Program of General Thoracic Surgery in Japan:Present Status and Future Tasks. J Thorac Cardiovasc Surg, 2020. DOI:10.1016/j.jtcvs.2020.11.137.
2) Schieman C , Seder CW , D’Amico TA , et al.: General thoracic surgical training in North America:Contrasting general surgery residencies in Canada and the United States. J Thorac Cardiovasc Surg, 156: 2379-2387, 2018.
3) Japan Surgical Society Residency Curriculum Review Working Group, Japan Surgical Society Education Committee, Poudel S , et al.: Are graduating residents sufficiently competent? Results of a national gap analysis survey of program directors and graduating residents in Japan. Surg Today, 2020. DOI:0.1007/s00595-020-01981-0.
4) Kurashima Y , Watanabe Y , Ebihara Y , et al.: Where do we start? The first survey of surgical residency education in Japan. Am J Surg, 211: 405-410, 2016.
5) Kawase K , Nomura K , Tominaga R , et al.: Analysis of gender-based differences among surgeons in Japan:results of a survey conducted by the Japan Surgical Society. Part. 2:personal life. Surg Today, 48: 308-319, 2018.

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