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日外会誌. 122(5): 523-525, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「各領域から考える外科専門医制度」
5.乳腺領域から考える外科専門医制度

東北大学大学院 医学系研究科乳腺・内分泌外科学

石田 孝宣

(2021年4月8日受付)



キーワード
新専門医制度, サブスペシャルティ, 乳腺専門医, 乳腺外科専門医, 外科専門医制度

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I.はじめに
日本専門医機構が統括する新専門医制度が開始となり,基盤となる外科専門研修プログラムでの履修が終了した専攻医が,新専門医制度のもとで外科専門医を取得する年度となった.また,2階建て部分に当たるサブスペシャルティの概要が固まり,本格的に始動の予定である.
サブスペシャルティの一つである乳腺領域に関しては,日本乳癌学会において,「乳腺専門医」が認定されてきた.日本乳癌学会における専門医制度の目的は,乳腺疾患の診療・研究にあたる医師の専門的な知識と技能を高めることにより医療の質の向上に貢献し,乳癌死亡の減少を目指すことにある.これを実践するためには,総合的な力を有する良質な乳腺専門医の輩出が必要不可欠であり,本制度の主たる使命である.
ここでは,乳腺領域の専門医制度の現状と展望を報告するとともに,基盤となる外科専門制度に期待するポイントを述べる.

II.日本乳癌学会における会員の現状
2020年12月現在,日本乳癌学会の総会員数は9,467名であり,内訳は,医師81.6%,看護師6.5%,放射線技師2.0%と続き,患者会の方なども会員となっていただいている.
このうち,医師の会員数は7,724名で,専門とする診療科は,外科81.7%,内科2.2%,放射線診断科1.2%,放射線治療科1.2%,病理診断科0.9%,産婦人科0.6%,と続く.外科が全体の8割以上を占めているが,対象とする疾患の特性により,診療に携わる専門領域は幅広いのが特徴と言える.
会員の性別では,女性の比率が40.5%と増加傾向にあり,男性の比率が59.5%と60%を下回ってきている.新規会員に占める女性の比率が高く,いずれ,男女の比率が逆転するものと推定される.

III.日本乳癌学会における乳腺専門医の現状
2020年12月現在,日本乳癌学会が認定している「乳腺専門医」数は1,680名であり,診療科の内訳を図1に示す.外科が95.4%,外科医以外の臨床医学系4.5%,基礎医学系0.1%となっており,外科の占める比率が極めて高い.
また,年代別の専門医の分布を男女比も含めて図2に示す.最も乳腺専門医数が多いのは45〜49歳であり,この年代の男女の比率は2:1で男性が多い.この年代より若年の群では,女性の比率が高く,約70%を占めている.一方,この年代より高い群では,男性の比率が極めて高く,約85%を占めており,年齢により男女比が対照的となっているのが特徴である.
また,専門医の地域による分布に目を向けると,関東に35.1%,関西に20.5%と,この二つの地域で専門医の半数以上を占めている.一方,東北では5.4%,北海道では4.2%と少なく,地域格差が顕著となっている.

図01図02

IV.乳腺専門医の適正な数のシミュレーション
乳腺専門医の適正な数に関しては,日本乳癌学会の井本滋理事長が詳細なシミュレーションをされている.年間の乳癌罹患者数,延べ診療患者数,延べ薬物療法患者数をもとに,①外来診療ベース,②担当患者ベース,③手術症例+薬物症例ベースのそれぞれで適正な専門医数を算出したところ,いずれの観点からも約2,000〜2,100名の専門医が必要と一致していた.これに,出産・育児・管理職などの専門医数を約10%として考え合わせて,総計で約2,300名と算出されている.現在,年間に80~90名前後の新規専門医が誕生しているので,いずれこの数字に近づくものと考えられる.

V.新専門医制度における位置づけ
厚生労働省の諮問機関である「サブスペシャルティ領域のあり方に関する検討会」の報告書では,乳腺領域は,連動研修を行い得る領域とする旨の内容とともに,「外科系のサブスペシャルティ領域の名称は,〇〇外科(領域)に統一することが望ましい」と記載されている.これを受けて,新専門医制度においては「乳腺専門医」ではなく,「乳腺外科専門医」となることが想定される.
今後,現在の外科系の乳腺専門医は機構の認定する「乳腺外科専門医」に移行することが想定されるが,外科系以外の乳腺専門医は引き続き,日本乳癌学会の認定する乳腺専門医として活躍して頂く予定である.
乳腺診療は,腫瘍内科を中心とする内科,放射線診断科,放射線治療科,産婦人科,病理科など幅広い診療科の連携によって成立する診療特性がある.将来的には,幅広い診療科の2階建て部分として「乳腺専門医」が位置づけられることが望ましい.

VI.日本外科学会の外科専門医制度に期待すること
基本となる技術や知識の習得のための教育はもちろんであるが,加えて働き方改革や地域偏在の問題など社会環境を加味した対応においても,六つのサブスペシャルティ領域と歩調を合わせながら,それぞれの領域の特徴を活かす方策が求められる.日本外科学会は1階建て部分の基盤学会として,これらの諸問題への包括的な基本方針決定において主導的な立場にある.新外科専門医制度を発展させるためには,外科専門医制度の2階部分に位置するサブスペシャルティ領域とこれまで以上に緊密に連携を図り,社会に認められる新外科専門医を輩出することが求められる.

VII.おわりに
国民にわかりやすい専門医制度の確立に向け,大きな制度の転換期にある.将来を嘱望される若い医師にとって,実りのある充実した制度にしていくための基盤づくりに一致団結した取り組みが求められている.

 
利益相反:なし

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