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日外会誌. 122(5): 502-505, 2021

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手術のtips and pitfalls

大腸全摘・回腸嚢肛門吻合手術における回腸嚢を肛門まで下ろすための腹腔内操作の工夫

奈良県立医科大学 消化器・総合外科学教室

小山 文一 , 庄 雅之



キーワード
大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術, 回腸嚢, 回腸間膜

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I.はじめに
大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IAA)は,肛門管に粘膜抜去を加えて大腸を全摘し,回腸嚢と肛門を吻合する手術である.潰瘍性大腸炎や大腸腺腫症に対する標準術式である.自然肛門を温存し根治性に優れた術式であるが,時に回腸嚢が肛門まで下りにくい症例がある.肛門まで届かなければ,回腸嚢肛門管吻合術に術式変更するか永久回腸ストマを余儀なくされる.患者は若年者が多く,永久ストマは避けたいものである.本稿では当教室で行っている回腸嚢を肛門まで下ろすための工夫について解説する.
作成する回腸嚢は15cm長のJ型で,回結腸動静脈を温存し上腸間膜動静脈との二重血流支配を基本としている(図1).肛門吻合の可否は,回腸嚢先端が恥骨下縁の3cm尾側まで牽引できることとしている1) 2).回腸嚢がどこまで下りるかは,回腸間膜の伸展性と血管の長さに規定される.回腸嚢に利用する遠位回腸間膜を回結腸動脈と上腸間膜動脈を半径とし辺縁動脈を円弧とする扇に例え,円弧の中央が回腸嚢先端部と考えると理解しやすい(図2).終末回腸は上行結腸間膜によって右下腹部に吊り上げられているため,回腸嚢を尾側に真っ直ぐ下ろすには,間膜の授動が必要である.間膜の十二指腸付着部を切開し,間膜背側を剥離することがポイントである2).次に回腸間膜を開窓することで伸展性を増大させる.上腸間膜動静脈と回結腸動静脈の間の無血管野を横切開する2).尾側牽引で開窓部は縦長の菱形となり,上腸間膜動静脈と回結腸動静脈間の辺縁血管の許容範囲まで伸展できる(図3).
上記操作で降下が得られない場合は,血管処理を行う2) 3).必要な降下距離が短い場合は上腸間膜動静脈を末梢側で切離する(図4).上腸間膜動静脈は規定因子でなくなり,近位の回腸動静脈と回結腸動静脈とその間の辺縁血管の伸展範囲が規定因子となる.大半の症例は以上の操作で十分な降下が得られる.必要な降下距離が長い場合は(図5),上腸間膜動静脈をやや中枢側で切離し,さらに回結腸動静脈を切離する.両血管による吊り上げが無くなり回腸間膜が広範囲に切開されるため,回腸嚢は飛躍的に降下する.この操作を行う場合は,回腸嚢の血流を十分に確認し,降下の際に捩れが生じないよう細心の注意を払う必要がある.
IAAは標準手術であるがpitfallが多い.術者はpitfallをよく理解し対処方法を習熟した上で臨んでもらいたい.

図01図02図03図04図05

 
利益相反:なし

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文献
1) Chu DI , Tognelli J , Kartheuser AH , et al.: Strategy for the difficult-to-reach ileal pouch-anal anastomosis: technical steps of an in vivo application of a mesenteric-lengthening technique. Tech Coloproctol, 19: 705–709, 2015.
2) 内野 基 , 池内 浩基 :潰瘍性大腸炎の手術時にJ型回腸嚢が肛門まで届かないときにはどうするのか?IBD Research, 11: 247-251, 2017.
3) Martel P , Majery N , Savigny B , et al.: Mesenteric lengthening in ileoanal pouch anastomosis for ulcerative colitis:Is high division of the superior mesenteric pedicle a safe procedure? Dis Colon Rectum, 41: 862–866 (discussion 866–867), 1998.

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