日外会誌. 122(5): 442, 2021
特集
大動脈弁疾患に対する外科的治療の現況
1.特集によせて
九州大学 心臓血管外科 塩瀬 明 |
人口の高齢化と診断技術の進歩により,大動脈弁疾患の患者数は年々増加傾向にある.特に治療適応のある大動脈弁狭窄症患者は56万人と言われ,年間に外科的治療を受ける患者数の20倍以上に相当する.
このような状況の中,近年の大動脈弁疾患に対する外科的治療の進歩には目を見張るものがある.10年前には,多くの施設において治療するなら弁置換,そして生体弁か機械弁のどちらを使うか,程度の議論しかなされていなかったように思う.教室の手術台帳を見直してみると,まさに隔世の観がある.
治療の進歩を後押ししたものは,やはり経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の登場であろう.本邦では2013年に保険収載されたTAVIは,もともと外科手術不可能な高リスク患者に対する治療であった.その成績が明らかになるにつれ,徐々に適応が拡大してきている.
一方,open surgeryも負けてはいられない.低侵襲化を図るとともに,人工弁の種類も多岐にわたり,それぞれの長所を考慮し個々の患者に最も適した機種を選択するようになってきている.また,大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術も,経験のある施設を中心に市民権を得つつある.
カテーテル治療かopen surgeryか,弁置換か弁形成か,人工弁の種類は,など幅広い治療の選択肢がある.患者の人生全体を考慮し,各々の治療法を段階的に組み合わせることも重要である.こうした中で,内科医と外科医が一緒になって個々の患者に対する最適の治療を提供する「ハートチーム」という概念がある.
そこで今回は,循環器内科のスペシャリストにも執筆をお願いし快諾頂いた.非常に読み応えのある内容になったものと自負している.
利益相反:なし
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