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日外会誌. 122(5): 440-441, 2021

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若手外科医の声

リサーチマインドを備えた外科医を目指して

大分大学医学部 呼吸器・乳腺外科学講座

橋本 崇史

[平成18(2006)年卒]

内容要旨
医師は現状の日常診療に満足することなく,新規治療の開発に取り組む姿勢が求められる.そのため,日常にある問題点を研究で解明していく心がけを日頃から持つことが重要である.研究の実践は,患者の生存期間の延長だけでなく,精神的な充足をもたらす場合もある.

キーワード
臨床研究, 治験, トランスレーショナルリサーチ, リサーチマインド, 肺癌

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I.はじめに
医師の役割として,確立したエビデンスに基づいて日常臨床で患者の治療にあたるのは当然であるが,同時に研究者としての役割もあることは言うまでもない.しかし,多忙な日常臨床の中でその二者が乖離し,研究がお座なりになりがちなことも事実である.研究とどう向き合い実践していくのか,私の経験を述べさせていただく.

II.外科手術と臨床研究
私は2010年に大分大学総合外科学第2講座に入局した.臨床中心の教室であったが,2012年6月に九州がんセンターから杉尾賢二先生が大分大学に赴任され,それまでの考えが一変した.2013年3月に教授に就任され,教室の名称も2013年4月から呼吸器・乳腺外科学講座に名称変更された.トランスレーショナルリサーチの導入と臨床試験の導入,教育が行われた.中でも「肺野末梢小型非小細胞肺癌に対する肺葉切除と縮小手術(区域切除)の第3相試験(JCOG0802/WJOG4607L)」は,私にとって初めてのランダム化試験で,手術中にデータセンターに連絡し,肺葉切除か区域切除かの術式に割り付けられるという手順であり,まさに外科医にしか出来ない臨床試験であり,手術を通して将来の標準治療を変え得るエビデンス作りに参加し,大変光栄であった.

III.薬物と臨床研究
薬物療法に関する臨床試験は,主には術後補助療法に関するもので,「高悪性度神経内分泌肺癌完全切除例に対するイリノテカン+シスプラチン療法とエトポシド+シスプラチン療法のランダム化比較試験(JCOG1205/1206)」,「完全切除非扁平上皮非小細胞肺癌に対するペメトレキセド+シスプラチン併用療法とビノレルビン+シスプラチン併用療法のランダム化比較第Ⅲ相試験(JIPANG試験)」などを経験した.これらの試験概要は,個人的にも賛同できたが,優越性試験であったため,ネガティブスタディとなり,術後補助療法の新規治療開発が容易ではないことを痛感した.現在は免疫チェックポイント阻害剤を用いた周術期治療に関する治験に参加しており,結果が期待されるところである.また,治験では通常の臨床試験以上に厳格な管理が求められるので,これも良い経験となった.

IV.肺癌の基礎研究
肺癌の基礎研究に関しては,教室ではEGFR変異陽性肺癌に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の耐性化に関する研究が行われてきた.EGFR-TKI耐性化後の再生検に早くから取り組んでおり,組織採取困難と思われる病変に対しても,外科生検を積極的に行い,耐性遺伝子変異(T790M)の評価はもちろんのこと,症例を選択して次世代シーケンス(NGS)を用いた遺伝子解析を行っていた.また,LOGiK(九州肺癌機構)に「第3世代EGFR-TKI(オシメルチニブ)の耐性機序にかかわるバイオマーカー探索に関する研究(LOGIK1607)」を発案,実施し,臨床試験グループを通した活動も行ってきた.その影響もあり,私も基礎研究への興味が湧き,大学院に入り基礎研究を行うことになり,杉尾賢二先生のご指導のもと,「Driver遺伝子変異を有する肺癌における空間的・時間的な腫瘍内不均一性の解明」という研究テーマで科研費(若手研究B)を獲得することができた.この研究では,EGFR(L858R)陽性肺癌の腫瘍内2か所からマクロダイセクションを行い,NGSでコピー数の腫瘍内不均一性を認めると同時に細胞分裂やアポトーシスの頻度に差がみられるという結果に辿り着き,この研究により学位を取得した1).この内容は米国癌学会(AACR 2018, Chicago, USA)で発表させて頂くこともできた.

V.臨床研究を通しての患者との関わり
臨床試験の情報は日々アップデートされている.試験に参加できる患者を逸さないようにする心がけが重要である.自施設では参加していない試験でも,国内で実施されている試験は把握し,患者のPSや希望にも拠るが,選択肢として提案していくことも大事だと考える.2020年の私の経験例だが,標準治療をほぼ終えたEGFR変異陽性/T790M陰性Ⅳ期肺癌の患者に対して,県内では参加施設のなかった「EGFR-TKI治療後増悪したT790M陰性非小細胞肺癌に対するオシメルチニブを用いた第Ⅲ相試験の医師主導治験(WJOG12819L)」に登録のため,九州大学に紹介し,患者はオシメルチニブ内服に辿り着くことができた.残念ながらその患者はPDとなったが,治験まで参加したことで,悔いはないと仰られていた.臨床試験を通して,奏効こそ限定的であったが,精神的な充足は与えられたのかなと感じた.

VI.おわりに
この執筆を通して,日常診療に終始している若手医師に何かしらのメッセージになればと期待する.

 
利益相反:なし

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文献
1) Hashimoto T , Osoegawa A , Takumi Y , et al.: Intratumoral heterogeneity of copy number variation in lung cancer harboring L858R via immunohistochemical heterogeneous staining. Lung Cancer, 124: 241-247, 2018.

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