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日外会誌. 122(5): 433, 2021

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Editorial

外科医の労働改善に関して

熊本大学 大学院生命科学研究部心臓血管外科

福井 寿啓



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2019年度から働き方改革関連法が順次施行され,残業時間の上限規制,有給休暇取得の義務化,勤務間インターバルの努力義務などが行われるようになった.医師に関してはその特殊性により2024年から上限規制などが適用されるようになる見込みとなっている.現在,一般の上限である時間外労働が月80時間(年960時間)を超える医師は全体の約40%であり,さらに年1,860時間超の医師が全体の約10%程度であるとされている.現在の医師の勤務状況において,これらが数年以内に一般的上限規制内におさまるのは大変な努力が必要である.このことを踏まえ適用される上限時間等について,連続勤務時間制限や勤務間インターバル等の実施など一定の条件を満たした医療機関に限り地域の医療提供体制を確保する観点から暫定的に認められる水準,あるいは集中的に技能を向上させるために必要な水準が設定されるよう議論が進められている.
一方で外科医は着実に減少しており,特に40歳未満の若手外科医はこの20年間で約半減している.そのため全体的な外科医の平均年齢が上がっており,現在では50歳を超えている.これは全診療科の平均年齢よりも上回っている.若手医師がその進路を決めるのは学生時代での臨床実習や初期研修医時代であり,その時期に外科の魅力を感じさせることができるかどうかが大変重要である.外科の魅力,すなわちやりがいは,向上心と達成感の積み重ねで得られる喜びであると考える.自分に不可能であったことが知識と経験,訓練により出来るようになることは何ものにも代えがたい感動である.そのため外科医は成長するまで時間を要するし,基礎から段階を踏まないと応用のきかない医師に成長してしまう可能性がある.そのことがまた逆に過剰労働や若手医師の疲弊へとつながっているのも現実である.
医学部の定員数は増加しているにもかかわらず外科医総数には反映されていない.特に地方での外科医減少は深刻である.2020年度から都道府県別診療科別必要医師数が示されるようになりシーリングが開始されたところであり,今後の外科医師数に反映される効果を期待したいところである.一方でわれわれは若手医師にやりがいを感じてもらえることを怠ってはならず,医師の地域・診療科偏在の対策を今後もしっかりと取り組んでいかなければ地方の外科医療は崩壊する可能性がある.
勤務時間の上限規制と外科医減少の問題を解決するための一つとして,チーム医療や多職種の積極的な支援・介入が現時点では重要と考えられる.担当患者全ての管理を主治医単独で行うのではなく,チームでの管理制を取り入れ休暇を取りやすいようにすることが有効である.また内科や他科の医師たちにも術前・術後管理に関与してもらうことも必要な取り組みと考えられる.さらに看護師特定行為を有効に活用したり,ナースプラクティショナー制度の今後の動向にも期待したい.

 
利益相反:なし

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