日外会誌. 122(4): 422-427, 2021
手術のtips and pitfalls
甲状腺癌気管浸潤に対する段差付き気管管状切除術
東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科学分野 筒井 英光 , 池田 徳彦 |
キーワード
甲状腺癌, 気管浸潤, 段差付き, 管状切除, 端々吻合
I.はじめに
気管管状(スリーブ)切除術は気管を全周性に管状に切除する方法で,端々吻合により再建する.甲状腺癌の気管浸潤は,気管軟骨間の輪状靱帯に始まり円周方向に広がることから1),管状切除は腫瘍学的に妥当であり2),再建後の気管変形も少ない術式である.気管だけの授動で比較的安全に端々吻合が行えるのは,およそ8気管軟骨輪(4.5cm)までとされている.重大な合併症は縫合不全であり,吻合部の過緊張や感染が原因となるため,これらを意識した手術手技が求められる.とくに気管切開の併施は感染のリスクになるため,(一過性であっても)健側の反回神経麻痺を起こさない愛護的操作を心掛けることが重要である.気管に浸潤するような症例では,既に患側反回神経麻痺を来していることが多いからである.
腫瘍浸潤が第一気管軟骨輪に及ばないものは,気管軟骨浸潤部の頭尾側の輪状靭帯を切断し端々吻合を行う.ここで問題となるのは,甲状腺癌の場合は高率に腫瘍浸潤が第一気管輪にかかることである3).反回神経は輪状軟骨下端で喉頭に進入するため,輪状軟骨と第一気管輪の間に水平な切離ラインを設定すると,反回神経進入部で吻合を行うことになり,健側反回神経麻痺のリスクが高まる.この様な場合,健側第一気管輪を温存した切離ラインの「段差付き管状切除」(図1)が安全である.結果として患側気管は輪状軟骨と吻合することになる.
利益相反:なし
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