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日外会誌. 122(4): 363-365, 2021

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理想の男女共同参画を目指して

女性外科医の妊娠・出産の実態とキャリア

東京慈恵会医科大学 外科学講座

川瀬 和美

内容要旨
女性外科医においては,その専門技術を習得し経験を積む時期と妊娠出産時期が重なることがキャリア形成に大きな問題とされている.日本外科学会(JSS)女性会員全員を対象に行った妊娠・出産の実態や意識に関する調査について述べる.

キーワード
女性外科医, 妊娠出産

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I.はじめに
外科を選択する女性医師は年々増加するとともに結婚・出産・子育てを行う女性外科医も増加している.技術を習得し経験を積む時期と妊娠出産・その後の子育て時期が重なることがキャリア形成に大きな問題となっている.これまで主に子育てという障壁を乗り越えるために全国的に子育て支援の拡充が行われ,外科においても様々な努力がなされてきたが,女性外科医の妊娠・出産の実態や対応に関してはこれまで明らかにされていなかった.そこで,2018年JSS男女共同参画委員会にて女性会員全員(3,570名)を対象に,「女性外科医の妊娠・出産に対する意識とその実態に関するアンケート調査」をウェブ形式で施行した1).本調査の詳細は報告書2)を参照されたい.
今回2回にわたりこの調査結果を基に考えていきたい.本稿では,女性外科医の妊娠・出産に関する実態を述べる.

II.妊娠出産アンケート
本調査の質問はかなり詳細かつ繊細な内容が含まれるため,対象者には本試験の目的と調査をお願いする際不快な思いに対し謝罪し,承諾者のみがアンケート開始画面に移り,さらに最初の質問で回答の意思を確認し,「いいえ」を選択された場合はアンケートは終了とした.
質問項目は次のとおりである:回答者属性,仕事の状況,生活状況,子供の有無:子供数と年齢,妊娠出産に関する意見(理想の結婚・出産時期,妊娠を歓迎しない発言・セクシャルハラスメントを受けた経験,仕事のための避妊・不妊治療の経験,妊娠または分娩の経験),妊娠状況(妊娠したが分娩に至らなかった経験,妊娠時の異常),分娩状況(分娩形態,分娩時の異常,産前休業前の労働時間,産前・産後休業・育児休業期間),妊娠に伴う仕事の継続(妊娠期間中の経験,妊娠時間中の就労緩和,妊娠出産をきっかけとした離職・転職),妊娠・出産に関する自由記載.
3,570名中1,068名から回答を得た(回答率29.9%).回答者の半数以上が30代で,年齢中央値は37歳(25~69歳)だった.
理想の結婚時期に関しては約半数が研修中あるいは後期研修修了後と回答し,婚姻や子供の有無による違いは認められなかったが,理想の妊娠出産時期に関しては,婚姻者,さらに子供を持つ回答者において後期研修終了後または専門医取得後,の回答が多く認められた.
表1に妊娠出産にまつわる詳細を示す.半数以上が仕事のための避妊経験があったが,対照的に19%が不妊治療を経験し,さらにその62%は常勤を続けながら治療を行っていた.50%名に妊娠経験があり,うち33%が分娩に至らず,その週数は平均9.7週だった.47%が子供を持っていた(平均子供数1.7人).
第1子のみに限定すると,入院を必要とする妊娠合併症は31%にみられ,発症年齢は32.3歳,分娩時の合併症は18%にみられ,発症年齢は33.1歳だった.妊娠時78%が当直免除,80%が被曝労働免除を受け,71%が6週以上の産前休業,88%が8週以上の産後休業(育休含む)を取得していたが,産休育休後に29%が転職・離職を経験していた.

表01

III.考察
手術技術習得のキャリアを積む時期と妊娠出産時期が重なる女性外科医にとって妊娠出産時期は悩む問題である.本調査で,理想の時期は「後期研修終了後または専門医取得後」の意見が特に子供を持つ回答者に多く,出産後は思うようにキャリアが積めない経験から来ると推察された.反対に子供がいない人には「キャリアを積むことに集中して,子供が欲しいと思った時には無理だった,不妊治療で苦労した」という意見もみられた.2016年の定期学術集会で吉村氏は「若い男女の妊娠や出産に対する希望を叶える第一歩は女性にとって医学的にみて理想的な妊娠年齢が25歳から35歳であることを知ることより始まる.」と述べた3).妊娠に時間制約があることを教育し,更に不妊治療が必要な場合も理解が必要である.理想的には高齢不妊治療に至る前に妊娠出産を安全に行い,仕事と個人生活を分担して行う伴侶とともに子育てと同時にキャリアを積める体制作りが大切ではないかと感じる.しかし忘れてはならないのは,男女共同参画で取り上げる話題は妊娠・出産・育児ばかりになりがちで,そのことでかえって苦しんでいる女性医師がいることである.今回のこの調査で得られた結果と貴重な回答者のご意見を反映して外科のさらなる環境改善を行っていく努力を続ける必要がある.

IV.おわりに
女性外科医の妊娠出産調査に1,000を超える真摯な回答が得られた.皆様に心より深謝いたします.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kawase K , Nomura K , Nomura S , et al.: How pregnancy and childbirth affect the working conditions and careers of women surgeons in Japan:findings of a nationwide survey conducted by the Japan Surgical Society. Surg Today, 51: 309-321, 2021.
2) 日本外科学会男女共同参画委員会:女性外科医の妊娠・出産に対する意識とその実態に関するアンケート報告書  http://www.jssoc.or.jp/other/info/info20191211.pdf
3) 吉村 泰典 :女性医師が仕事を継続しつつ,産み育てられる社会の形成のために.日外会誌,118(1): 100-102, 2017.

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