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日外会誌. 122(3): 294-295, 2021

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若手外科医の声

フランス留学を経験して

福岡市立こども病院 心臓血管外科

安東 勇介

[平成15(2003)年卒]

内容要旨
海外留学を望む若手心臓外科医は多いが,フランスを候補に考える医師は少ないと思われる.自身の経験を紹介し,これから留学を検討する医師の参考にして頂けたら幸いである.

キーワード
留学, フランス, 小児心臓外科, ネッカー小児病院

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I.はじめに
私は卒後18年目の小児心臓外科医である.2003年に九州大学循環器外科に入局し,関連施設での研修,大学院を経て,2016年にフランスへ1年間留学した.その経験を通して感じたことを述べる.

II.ネッカー小児病院
医師を志した頃より将来は海外留学をしたいと漠然と考えていた.その時点では研究でも臨床でもとにかく留学できればという思いであった.大学院を修了して少しずつ執刀するようになると,臨床で留学したいという思いが強くなった.当初は英語圏への留学を希望していたが,臨床留学はハードルが高く行き詰まりを感じていた.先輩医師が留学していたネッカー小児病院ならば臨床での留学が可能と聞き,問い合わせたところ快諾をいただき留学が決まった.しかし当時はフランスで大規模なテロが起こった直後であったためビザの取得には難渋した.
ネッカー小児病院(Hôpital Necker-Enfants Malades)は18世紀に設立された世界最古の小児病院である.小児心臓外科部門はPascal Vouhé教授とOlivier Raisky教授を中心に4名の外科医で年間800例を超える手術が行われていた.その他のスタッフとしては正規のフェローが2~3名と海外からのインターンが数名おり,その母国はベトナム,スペイン,モザンビーク,レバノン,イスラエル,ドミニカなどで,国際色豊かな人員構成であった.術後管理は麻酔科と小児循環器科が担当しており,フェロー以下の業務は専ら手術の助手を務めることであった.二つの手術室を使って1日4件の手術が行われていたので,朝の症例カンファレンスが終わると手術室へ直行し,ひたすら手術に従事する毎日であった.症例は人工心肺を使用した根治的手術が多く,単心室疾患や姑息手術の割合は少なかったものの,1年間で経験した手術の質と量は,日本での数年間の研修に匹敵するものだった.
留学を通じて感じたことは,まず留学先を英語圏に固執する必要はなかったということだ.留学を考え始めた頃は,最も馴染み深い外国語は英語であるから,英語圏に留学したかった.しかしフランス留学を終えた今となっては,英語圏にこだわらずよかったと思っている.確かにコメディカルの半数は英語を話せず,カンファレンスはフランス語で行われるため全てを理解することはできなかった.しかしネッカー小児病院は各国から留学生や見学者が訪れるためフランス語を話せない者は珍しくなく,医師間のコミュニケーションは英語で十分可能であった.いざ手術が始まると,術中に頻繁に登場するいくつかの基本的なフランス語の単語さえ押さえてしまえば,助手を務めるのは難しいことではなかった.さすがにフランス語を解さずに術後管理を担当することは無理だったであろうが,そこは外科医は術後管理を担当しないというシステムに助けられた.もちろんフランス語ができればより理解が深まっただろうしその点は残念だが,もし英語圏にこだわっていれば臨床留学は果たせずネッカー小児病院の手術を見る機会はなかっただろう.また渡仏当初は全く聞き取れなかったフランス語も,毎日聞いていると少しずつ聞き取れるようになり,話せるようになっていった.40歳を前にして新しい言語を習得するのは楽しい経験だった.これから留学先を探す医師には,非英語圏にも留学する価値のある病院はたくさんあると思うので,ぜひ選択肢として考えていただきたい.
次に,留学することで手術を見て学ぶことの重要性を再認識した.留学を志した当初は,海外で執刀経験を積みたいという思いがあった.ところがフランス留学ではライセンスの関係上,執刀のチャンスはなかった.それに加えて言葉がわからないので手術は見て学ぶほかなかった.そこで見ることに意識を集中し手術の隅々まで見るように努めた.助手に入れない時は麻酔科医の位置から見学した.日本で研修中はこれほど専念して手術を見る機会はなかった.自分の中では当然と思っていたことが覆されたり,教科書でしか見たことのない手術を目の当たりにできたり,日々新たな発見があった.なかでも勉強になったのが手術視野の作り方であった.ネッカー小児病院ではフェローが頻繁に入れ替わるので,執刀医は助手に頼らずに手術を行わねばならない.必然的にstay sutureを多用して視野を出していくことになる.この技術は自分が執刀するようになって非常に役に立った.私も含めて,若手の外科医はトレーニング先を選ぶ上で執刀経験を重視しがちである.もちろん手を動かしてスキルを磨くことは重要だが,手術をよく見ることで自分のいままでのやり方を見直したり,新たな着想を得たりすることができる.手術は見るだけでも十分学ぶことができる,それを実感した留学であった.

III.おわりに
留学当初こそ言葉の壁を感じたが,それを乗り越えた先には非常に実りある留学生活が待っていた.これから留学を検討する医師には,留学の目的を明確にした上で,選択肢の幅を広くもって,自分にふさわしい留学先を見つけてほしいと思う.最後になりますが,留学にご助力を頂き,また本稿の執筆にあたりご推薦を賜りました九州大学循環器外科塩瀬明教授に深く感謝申し上げます.

 
利益相反:なし

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