日外会誌. 122(2): 275-277, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(7)「NCD(National Clinical Database)の10年を振り返る―課題と展望―」
5.NCD-Pediatric(小児外科領域におけるNCD)の課題と展望
1) 日本小児外科学会デ-タベース委員会・NCD連絡委員会 米倉 竹夫1)2) , 臼井 規朗1) , 古村 眞1) , 藤代 準1) , 照井 慶太1) , 藤野 明浩1) , 岡本 晋弥1) , 佐々木 英之1) , 佐々木 隆士1) , 寺脇 幹1) , 伊勢 一哉1) , 平原 憲道3) , 宮田 裕章3) (2020年8月15日受付) |
キーワード
National Clinical Data-Pediatric, 医療品質評価, 専門医制度, リスクキャリキュレーター, National Surgical Quality Improvement Program-Pediatric
I.はじめに
National Clinical Database(以下,NCD)は,大規模臨床データベースをもとに外科系専門医制度の連携と医療水準評価による医療の質の向上を目的に,2010年に外科系10学会が集まり設立され,2011年よりその運用が開始された.ここでは小児外科領域における医療品質評価であるNCD-Pediatric(NCD-P)の構築・運用を中心に,小児外科領域におけるNCDの10年を2年毎に振り返るとともに,今後の課題と展望について報告する.
II.2010~2012年:NCDと小児外科専門医制度の連携
日本小児外科学会では1979年より施設の症例・術者登録による認定医・施設認定制度が運用されており,NCDへの移行には,①新生児の非手術症例も登録が必要,②NCD術式は外保連術式がベースで小児外科術式の漏れがある,③NCDの全2,625術式を小児外科専門医制度130術式に紐づけが必要,の問題があった.そこで小児外科領域では医療品質評価の構築より,NCDの専門医制度との連携を優先した.2011年のNCDのテスト登録で動作と悉皆性の担保を確認し,2012年から専門医制度登録をNCDに完全に移行した.なおNCD術式は毎年変更があり,小児外科専門医制度130術式への紐づけ作業も毎年更新する必要がある.
III.2013~2014年:NCD登録データの解析にもとづくNCD-Pの構築
2011~2012年のNCD小児外科領域には,年間約50,000件,1歳以下が約10,000件,30日以下の新生児は約2,500件の手術登録があった.鼠径ヘルニアと虫垂切除術があわせて約50%を占め,小児外科専門医は虫垂切除術を除き80%以上の手術に関与していた.一方,NCD小児外科領域には738術式が登録され,その6割は手術件数が10件未満であった.また全死亡率は0.9%で,死亡率が5%以上と高い手術は術前状態が不良な新生児消化管穿孔術式ぐらいで,小児外科の専門性が高い高難度手術でも1%以下であった.即ち小児外科では高難度の術式は多数あるがそれぞれの件数は少なく,Mortalityは低いがMorbidityは低くないという特殊性が明らかとなった.
そこで小児外科領域の医療品質評価であるNCD-Pでは,高難度でかつある程度の件数がある術式を選出し,実数入力を避けることで入力負担を軽減し,さらに将来的な国際比較や連携を念頭にNational Surgical Quality Improvement Program-Pediatric(NSQIP-Pediatric)を参照とし,構築することとなった.まずNCD-P対象術式としては全体の12%にあたる高難度術式を選出し,その医療品質評価項目として約70項目を設定し,さらに新生児手術であれば80項目を,内視鏡外科手術であればさらに10項目を追加入力するcase report formを作成した.なお虫垂炎手術は1.5階部分として10項目を設け,それ以外の術式は基本13項目のみの入力とした.
IV.2015~2016年:NCD-Pの運用とその周知,会員へのfeed-back
2015年1月からNCD-Pの運用を開始した.またNCD-小児外科領域会議を年2回開催し,専門医制度との連携やデータ入力の注意点や,入力負荷の理解を得るためにNCD-Pの意義の周知を行った1).会員へのfeed-backとしては,NCDデータをもとにAnnual Report 2011-2012を公開し2),本邦における術式毎の年間の手術件数,小児外科認定施設・教育関連施設,専門医の関与状況を提示した.さらに虫垂切除術は10~12歳に,肺切除術は新生児期と14~15歳の二つのピークが,胆道拡張症手術は0~2歳にピークが,胆道閉鎖症では生後1~2カ月が多いが1割は新生児期に行われ,先天性横隔膜ヘルニアは生後2日目に手術のピークがあるなど,主術式の手術時年齢も含め本邦小児外科手術の基礎データを会員に提示した.
V.2017~2018年;NCD-Pの改修とデータ解析
小児外科関連術式は全NCD術式の40%に達するため術式検索は負担が大きく,至適術式の選択はNCD-Pの解析にも重要である.そこで術式検索システムを,小児外科専門医術式が選択しやすく,選択頻度が高い術式を階層化したものに改修し,2018年9月から運用を開始した.会員へのfeed-backとしては,2015~2016年のNCD-Pの解析結果をAnnual Reportとして公開した3).このreportでは,内視鏡手術とオープン手術を年齢別に分析し,新生児や乳児でも20%が内視鏡手術であったことを報告した.さらにNCD-P対象術式の死亡率・総合併症率も解析し,『総合併症あり』が当該術式登録数の15%以上は消化管穿孔手術(新生児),気管形成術,臍帯ヘルニア/腹壁破裂手術,横隔膜ヘルニア手術,食道閉鎖症根治術で,『体重当たり25ml以上の術中・術後輸血が10%以上』は消化管穿孔手術(新生児),胆道閉鎖症手術,気管形成術,悪性腫瘍手術で,『術後90日死亡が5%以上』は消化管穿孔手術(新生児),横隔膜ヘルニア手術であったと報告した(図1).
VI.2019~2020年:新規プロジェクトとNCD-Pの利活用
新規プロジェクトとして,2019年3月からAuditとリスクカリキュレーターの実装を開始した.リスクカリキュレーターは,2015~2016年の高難度12術式(計3,367手術)を対象とし,2015年データを作成コホートとし予測モデルを作成し,2016年データを検証コホートとして確認した.その結果,陽性的中率・陰性的中率とも30日予後は約90%,合併症も70%台と良好な結果を得た.NSQIP-Pの結果と比較検証でも,30日予後も合併症も作成コホート・検証コホートとも同等のAUC値であることが確認できた.
NCD-Pの利活用としては,2016年から一般公募で虫垂炎手術,腸管不全,嚢胞性肺疾患,食道閉鎖の四つが,またDB委員会として高難度12術式の医療品質評価と新生児外科の臨床研究も開始され,2020年にはbig dataが集まった虫垂炎手術の論文がAnn Surgery4)とJ Gstrointest Surg5)に報告された.また高難度12術式のリスクカリキュレーターの論文がJ Pediatr Surgに掲載され6),それをもとにfeed-back機能の実装を進めている.
VII.おわりに―小児外科領域におけるNCDの今後の課題と展望―
今後の課題としては,長期フォローアップのシステムの構築と胆道拡張症手術など成人領域との横断的な検証がある.特に長期フォローアップは新生児外科手術において最も重要な案件で,成人の「膵がん」や「乳がん」のフォローアップシステムを参考に構築を進める必要がある.また専門医制度におけるNCDデータの利活用には,今後も入力者と専門医制度委員会と継続的なデータ確認が必要と考える.
今後の展望としては,randomized control trialが困難な希少な小児外科手術においても,継続的なデータが蓄積されbig dataとしての観察研究を進めることにより,日本の小児外科医療を世界に発信することが可能と考えられる.
利益相反:なし
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