日外会誌. 122(2): 253-255, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」
6.内視鏡外科手術業務のタスクシフティング―臨床工学士によるカメラ保持業務―
1) 沖縄赤十字病院 呼吸器外科 宮城 淳1) , 友寄 隆仁2) , 仲里 秀次3) , 川上 雅代3) , 友利 健彦3) , 永吉 盛司3) , 豊見山 健3) , 大嶺 靖3) (2020年8月15日受付) |
キーワード
内視鏡外科手術, カメラ保持業務, タスクシフト, 臨床工学士, Clinical Engineer
I.はじめに
平成30年10月10日に四病院団体協議会より厚生労働大臣あてに『医師の働き方改革』について要望書が提出された.(1)応召義務の見直し,(2)タスクシフティング,(3)労働基準法に基づく当直の見直し,(4)医師の自己研鑽を抑制しない,(5)時間外労働時間の見直しとなっている.さらに令和1年10月1日には同協議会より『医師タスクシフティング・タスクシェアリング』の提案書を厚生労働省に提出した.具体的に薬剤師,看護師,救急救命士,麻酔科業務に加えて臨床工学士(Clinical Engineer,以下CEと略す)の業務拡大についても提言された.当院においてはCEが内視鏡手術時のスコピスト業務を行っている.今回その現状や有用性,問題点について検討した.
II.対象と方法
平成30年5月から令和1年8月までに,当院外科においてCEによりスコピスト業務行った症例について後ろ向きに検討した.当院ではCEが7名在籍しており,うち3名が専属でスコピスト業務を行っている.食道癌,胃癌,胃十二指腸潰瘍などを『上部』,直腸・結腸癌などを『下部』,肺癌,縦隔腫瘍,気胸などを『呼吸器』,ソケイヘルニアなどを『ヘルニア』,胆石,肝切除などを『肝胆膵』,虫垂炎や胆嚢炎などを『緊急』として6つのグループに分けて業務時間,合併症や偶発症について検討した.
III.結果
本検討期間中にスコピスト業務を行った症例の合計は315例,うち呼吸器が78例,上部手術23例,下部手術72例,ヘルニア36例,肝胆膵手術77例,緊急手術26例,その他3例であった.スコピスト業務を行った時間は虫垂炎の45分から食道癌の14時間まで合計1,255時間42分,平均3時間55分であった.
特記する点は,助手を必要とせず術者とCEの二人で手術を行った症例が315例中108例(34.3%)であった.上部,下部手術の殆どは助手を必要としており,呼吸器,肝胆膵では約半数近く,ヘルニア,緊急手術のグループはほとんど助手を必要としていない状況であった(図1).本検討期間中にCE業務に関連した合併症や偶発症はなかった.
IV.考察
当院では平成30年5月よりCEのスコピスト業務を導入しているが,導入当初はまず呼吸器外科よりスコピスト業務を開始した.現在では内視鏡手術全例でスコピスト業務を行っている.肺癌,食道癌,胃癌,大腸癌,肝癌など高難易度手術では医師による助手業務が必要であるが気胸,呼吸器良性疾患,胆石,ヘルニア,虫垂炎ではスコピストが助手の代わりも兼任しているため術者のみで手術を行っている状況であった.助手を必要としなかった108例について,手術に入る予定であった医師はその時間で病棟業務を行って超勤時間を短縮したり,学会の準備や論文の作成など自己研鑽に時間を費やせた.当院での医師一人あたりの時間外手当は平均7,300円なので,スコピスト業務を行った合計時間1,255時間42分として計算すると,合計9,166,610円の経費削減になっている.さらに本検討期間中,26例の緊急手術にも対応できた点は,医師の負担軽減に大きく貢献していると考える.
一方,CEがスコピストとして手術業務に参加するためには,ある程度の医学的な知識が求められる.例えば急性虫垂炎の手術において,ポート挿入の際に腸管を損傷しないように先端の視野を確保できるか,虫垂を検索するメルクマールとして腸管の位置が把握できているか,超音波凝固切開装置を使用する場合には腸管を損傷しないように視野を確保できるか,手術終了の際にも腹腔内全体を観察して出血や腸管損傷などの検索がスムーズにできるかなど,医学的知識に加えてスコープを操作する技術も必要と考えられる.CEのスコピスト業務は現在,日本臨床工学士学会ガイドライン20101)が業務指針となっているが,近年のスコピスト業務拡大には追いついていない.CEの業務見直しが必要である意見も多々あり2)現在,新たなガイドラインの作成が行われている.さらに今後,認定看護師のような資格条件が加われば質の担保も確保されると考えられる.
また近年では外科を希望する若手医師の不足が社会問題となっており,日本外科学会定期学術集会でのシンポジウムや卒後教育セミナーなどで頻回に取り上げられている2).当院では以前,研修医が手術中にカメラ保持業務を行っていた.MEによるカメラ保持業務を開始して,研修医には主に手術操作に参加してもらっている.実際に急性虫垂炎の手術を執刀してもらう機会も多々ある.MEがカメラ保持業務を行う事によって指導医が直接,研修医の手を取りながら鉗子の操作を教える事が可能となる(図2).内視鏡外科手術が主流となる近年,研修医に手術をさせる機会が少なくなったが,MEの手術参入で研修医の執刀する機会が増えれば,将来的に外科を希望する医師が増えてくる事も期待される.
V.おわりに
CEスコピスト業務は内視鏡外科医のタスクシフトとして,医師の時間確保の点,病院経営的観点から有用であった.今後,外科希望の医師確保にも貢献できる可能性がある.なお,本論文の論旨は第120回日本外科学会定期学術集会にて発表した.
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