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日外会誌. 122(2): 241-243, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」 
2.時代が外科医に求めるもの,外科医が時代に求めるもの,そして次代の外科医が求めるもの

群馬大学大学院 総合外科学

加藤 隆二 , 小川 博臣 , 片山 千佳 , 小澤 直也 , 須賀 邦彦 , 生方 泰成 , 大曽根 勝也 , 岡田 拓久 , 原 圭吾 , 佐野 彰彦 , 酒井 真 , 宗田 真 , 調 憲 , 佐伯 浩司

(2020年8月15日受付)



キーワード
働き方改革, 高齢化社会, 医療訴訟, タスクシフト, 医学教育

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I.はじめに
高度化する社会において,医療もまた確実な進歩を見せている.社会が変容すれば,おのずと医療の世界も変化をきたす.これは外科医の置かれている世界であっても例外ではない.現代という時代を生きる外科医に求められているもの,その一方で現代を生きる外科医が時代に求めているもの,そしてそこから次代の外科医が求めていることを考え,外科医の働き方について考察していく.

II.時代が外科医に求めるもの
高齢化社会という言葉が叫ばれて久しいが,今や本邦の平均寿命は男性で約81歳,女性で約87歳となっており,今後も徐々に延長していくことが予想されている1).高齢化が進むにつれ,何らかの周術期リスクを伴う症例が増加することは明らかである.
その一方で,医療者の絶え間ない努力はさらなる医療の高度化をもたらしている.この20年を振り返っただけでも,消化器外科を例にすれば腹腔鏡下手術の劇的な増加やロボット支援下手術の導入,また集学的治療の発達や化学療法の高度化が進んでいる.医療が高度化するにしたがって,外科医が習得しなければならない技術や知識もまた増えている.
そして,医療が高度化すればするほど,社会が要求する治療水準は上昇してくるのは当然のことである.
さらに,近年では患者の医療に対する意識の変化,特に医療を受ける上での権利意識の定着が進んできている.これは患者の自己決定に基づく望ましい医療のあり方への過程とも言えるが,ややもすると医療訴訟とも関連するため,現実では種々の説明に要する時間は大幅に延長しており,医療者の時間的・精神的負担を増大させていることも事実である.
このように,時代が外科医に求めているもの,期待しているものは大きくなっていく一方である.

III.外科医が時代に求めるもの
そのような時代の要求に対し,われわれ外科医が求めているものはなにか.一言で言えば,持続可能な労働環境の整備ではないか.
要求される医療水準の上昇は,外科医のさらなる自己研鑽に直結する.多くの外科医は自己研鑽そのものを厭うことはないと思うが,もともと厳しい労働環境の中でその時間と体力を捻出することは容易なことではない.自己研鑽という名の下に各々の裁量に委ねていては,決して外科医が置かれている環境は改善しない.過酷な労働環境は慢性的な疲弊を生み出し,かえって提供する医療水準の低下をきたす.
労働環境の改善という面で,近年ではAIの利用など技術革新に期待する声もあるが,並行して速やかに実施すべきなのは①外科医のマンパワー不足の解消②他科・他職種へのタスクシフトであろう.
①マンパワー不足については,統計的にこの20年で外科医師数は漸減傾向であるにも関わらず,40歳未満の若手外科医師数も減少傾向であり,実労働人数は深刻な減少になっている(図12).外科を専攻する医師の確保は,やはり重要で不可欠なものである.
②他科・他職種へのタスクシフトでは,もともと外科医が対応可能な業務が多く,どうしても期待される仕事が増えてしまうことが背景にある.例えば化学療法を腫瘍内科へ,CV挿入などを診療看護師へタスクシフトすることで,より外科医が手術という仕事の核心に集中しやすい環境が作れると考える.
また,直接的な労働環境とは異なるが,訴訟リスクもまた外科医を取り巻く環境として注目すべき課題と思われる.外科はどうしても侵襲的医療行為が多いが故に,その結果が患者やその家族の期待にそぐわなかった場合,訴訟につながる可能性が高い.しかしながら,患者を良くしたいと願わない医師はおらず,その思いに反して医療訴訟となった場合の精神的な負担は非常に大きい.これは,やはり社会が外科医療の重要性を認識し,より良い医療を実現していくためには,受療者側の権利ばかりを声高に主張するのではなく,受療者と医療者との間でしっかりとした協力関係を構築することが重要であることを啓蒙していくことが必要と考える.

図01

IV.次代の外科医が求めるもの
そして,次代の外科医が求めるものであるが,われわれは年に2回,手術手技講習会というものを開催している.これは医学生や研修医を対象とした講習会で,講師は現役の外科医が務めている.この会に参加していて感じることであるが,外科に興味を持つ学生や研修医は予想以上に多く,より高度な医療技術を学びたい,上手くなりたいという純粋な意欲や情熱がひしひしと伝わってくる.
この思いは,ひいては患者さんを良くしたい,それによってやりがいをもって働きたいという思いへとつながると思う.
しかしながら,実際に専攻するかどうかを考えた時には,現実的な判断として労働環境を危惧する声も多く,訴訟リスクもまた若手の意欲を抑圧する大きな要素と感じている.
したがって,今現在外科医が置かれている厳しい状況を社会問題と考え,広く国民に問いかけていくことが必要なのではないか.その結果,少しでも外科医が置かれている環境が改善していくことで,外科の重要性や,そのやりがいを強く意識することが出来るようになり,次代を担う外科医が増えていくのではないかと考える.

V.おわりに
本年初頭から顕在化したCOVID-19の世界的流行により,前述した手術手技講習会も中止せざるを得なくなっている.しかしながら,われわれはオンライン教育システムの構築を進めており,これを単なる機会の喪失とするのではなく,新たな教育体制の構築と,それによってより外科の魅力を発信していく可能性を模索している.
日々変化していく社会の中で,時代が外科医に求めるもの,外科医が時代に求めるものと次代の外科医が求めているもの,その間にあるミスマッチは多様に変化していく.しかし,それを少しずつ解消していくことで,より良い働き方が出来ると考えている.

 
利益相反:なし

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文献
1) 令和元年版高齢社会白書 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_1.html,内閣府,2019.
2) 平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html,厚生労働省,2018.

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