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日外会誌. 122(2): 239-240, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」 
1.診療業務の多様化,細分化されていく中で個々の施設で求められる役割と課題について

湘南記念病院乳がんセンター 

水野 香世 , 三角 みその , 井上 謙一 , 土井 卓子

(2020年8月15日受付)



キーワード
ピアサポートシステム, アピアランスケア

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I.はじめに
診療業務の細分化にともない,医師は医療に,ナースは診察介助,化学療法看護,疼痛看護などに特化して来ている.しかし患者一人ひとりがもとめる医療の内容はそれぞれ多様化してきており,従来の方法を踏襲していては,患者の求める要求すべてにこたえることは不可能である.外科医が相対的に不足する状態はさらに顕在化し,医療崩壊を招くことも懸念される.同一地域で同じような医療内容の提供ばかりでは解決せず,各医療機関がそれぞれの個性や特徴を生かした運営をし,医師だけではなくナース,技師,栄養士,運動療法士,美容師なども協力することで,患者にとっても施設にとっても利益が生まれると考える.外科医が中心となってリーダーシップを取りながら,患者の求める「支えるという医療」を進めている当院の取り組みを紹介し,検討した.

II.医師を中心としたチームの組み立て
医療とは検査,手術,投薬,経過観察を行うことにより病気を治療することである.しかし患者には自宅や職場での治療中,治療後の生活があり,副作用や術後の後遺症,精神的な落ち込みも含め多くの問題を抱えている.QOLを向上させるためには上記だけでは不十分である.当院でその求められているもの何ができるかを考えた結果,1:体験者を中心としたピアサポートシステム,2:ナースによるリハビリの積極的介入,3:フィットネスインストラクターによる体操教室,4:栄養士による化学療法中の食生活ケア,5:アピアランスケア,6:イベントの企画を行うこととした.この他職種との連携をとったことにより外科医,ナースは本来の仕事に専念することが可能となり,業務の効率化を図ることができた.
1.体験者によるピアサポートシステム
主に治療前や治療中の患者を対象とした心のケアと生活相談を目的としてピアサポートシステムを院内に導入した.診察室の間に「情報室」を設置し,キャンサーネットジャパンが認定する「乳がん体験者コーディネーター」の有資格者とボランティアが勤務している.「情報室」では乳がんに関する文献,資料の整備,貸出しを行い,ウィッグの展示,案内,患者会の案内,家族支援など多面的に活動している.手作り帽子やバンダナ,手入れした使用済みウィッグを提供される患者もみられ,ここで患者同士のつながりも生まれている.
ピアサポートの導入は,欲しい情報が得られるだけでなく,不安や孤独を軽減する効果がみられ,診察待ち時間の有効利用にもつながり,医療者の負担も軽減した.
2.ナースによる術後リハビリ
当院では自分の検査結果や治療経過,気持ちなどを記載できる「ピンクリボン手帳」を患者に渡しており,リハビリ状態も記入できる.このチェックシートを活用し,術後早期からナースがリハビリ介入し,状態を把握,適宜指導する.可動域制限がある場合はリハビリテーション科に依頼するので,医師は運動障害を確認する必要がなく,診察時間も短縮できた.
3.フィットネスインストラクターによる体操教室(楽動体操)
術後にインストラクターの指導のもとストレッチやダンスを取り入れた体操教室(楽動体操)を開催した.効果を評価すると,身体面は関節痛や術後の患肢の挙上障害,浮腫や睡眠障害の改善,体重減少,精神面は気持ちの整理や不安の解消などの効果がみられた.
4.化学療法中のアピアランスケア1)3)
化学療法治療は眉毛やまつげの脱毛,肌の色素沈着がおこるため自信喪失し抑うつ気分になる患者もみられた.そこで乳がん体験者の美容家を招き,眉毛の書き方,色素沈着の隠し方など美容教室を定期的に開催した.看護師が眉やアイラインのtattooを勉強し,必要に応じた対応を可能とした.整容性の回復で表情が和らぎ笑みもみられるようになり,治療に前向きになれる人も多く,アピアランスケアは治療の継続,完遂に有意義であった.
5.化学療法中の食生活ケア
化学療法中の食欲不振,口内炎,味覚障害などに対し,管理栄養士がレシピを工夫,開発し,定期的に患者や家族と試食会を開催し作り方を指導した.美味しく食べられることは体力の維持とQOLに役立ち,化学療法の完遂に有意義であった.
6.イベントの企画・開催
患者と医療者で温泉旅行や地元鎌倉散策の会を開催した.旅館や地元の人の応援もみられ,心のつながりが深まり,治療のモチベーション維持につながった.
結果:
以上のような取り組みは,治療中の患者の精神的支えになり,つらい治療も中断することなく完遂し,成績向上にもつながると考えられた.医師は時間も限られており,すべての面で患者を支えることは不可能であるが,多くの人の力を借り,チームで支えていくことで患者満足度にもつながることがわかった.外科医が中心となったチーム作成について報告した.

III.おわりに
時代が求める外科医像には,医療者,患者,環境という三つの視点があると思われる.医療者側の視点では,他職種が連携し,タスクシフトによる業務の効率化が求められる.環境の視点ではその土地と地域の特性に合ったサービスの提供が求められる.患者の視点では,多様化するニーズに応える事が求められており,より細やかに対応,ケアしていくことで患者の満足度は上がっていくと思われる.この3点を意識した外科医が中心となってチームで連携して支える医療の試みを検討し,今後さらに充実を図っていきたいと考えている.

 
利益相反:なし

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文献
1) 国立がん研究センター研究開発費がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班編:がん患者に対するアピアランスケアの手引き.2016年版,金原出版,東京,pp120-167,2016.
2) 野澤 桂子 , 藤間 勝子 :臨床で生かすがん患者のアピアランスケア,1版,南山堂,東京,pp6-190.
3) Richard A , Harbeck N , Wuerstlein R , et al.: Recover your smile:Effects of a beauty care intervention on depressive symptoms, quality of life, and self‐esteem in patients with early breast cancer. Psychooncology, 28(2): 401-407, 2019.

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