日外会誌. 122(2): 233-235, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」
9.地方にある外科教育病院の試み―外科と英語を学びたい医学生に対するオンライン勉強会の開催―
手稲渓仁会病院 外科 今村 清隆 , 中村 文隆 (2020年8月14日受付) |
キーワード
e-mentoring, 外科教育, 屋根瓦制度
I.はじめに
2019年1月からオンラインを用いた全国の医学生向けの勉強会を開始したところ,その後Covid-19の流行が始まった.教育分野へのオンラインの活用は,今でこそ多くの施設で行われていることであるが,偶然であるが1年前から始めていたため,この状況で歩みを止めることなく加速することができている.少しでも皆様の参考になればと筆者の経験を共有する.
II.動機
当院は札幌にある研修病院で,20年来,常勤外国人医師を雇用し,英語による医学教育を重視してきた.そのため,海外で将来働きたい,または医師として英語を使えるようになりたいという医学生が全国から集まる.筆者は2014年度より初期研修の外科担当として毎年50名程の医学生の外科見学の応対をしている.その過程で,外科系では内科系に比べて英語に関心がある医学生は少ないため,勉強仲間や勉強法を見つけるのに苦労していることを知った.また,当方としても見学後にいかにマッチングまでつなげるかを考えた結果,院内で研修医向けに10年以上続いていた毎週の英語を用いた外科勉強会を医学生向けに修正してオンラインで開催することにした.
III.オンライン勉強会の方法
Zoomを用いて毎週火曜日21時から1時間とし,開始と終了時間を守り,多忙な医学生でも参加しやすいようにした.また自由参加,途中入退室可とした.テキストとしては,「Surgery-A case based clinical review 2nd edition(Springer社)」を用いて週に1章ずつ行った.逆転授業(Flipped classroom)方式という,予習を促し実際の勉強会ではテキストの内容確認と,指導医の臨床経験を共有する手法を用いることで理解を深めた.勉強会運営が軌道に乗るまでは参加者を絞り,慣れてから徐々に広報を行った.広報の方法として,見学学生に声をかけた他,週刊医学界新聞(医学書院)や,ブログやFacebookなどのSNSを活用した.
IV.実績
2019年1月から2020年7月までに全部で70回開催し,医学生のべ590名,初期研修医のべ72名が参加した.9月から2月までは6年生が医師国家試験の準備のため,参加者は半減したが,Covid-19流行に伴い参加者が増加した(図1).参加者からの声として,「『わからないところがある方がやりがいある』という先生の言葉とアットホームな雰囲気で楽しんで参加できる」,「英単語や疾患を調べて講義に参加することが習慣化し実力が身に付く」,「英語が堪能な医学生もたまに参加するので刺激になる」などが挙がった.5,6年生が参加者全体のそれぞれ40%以上を占め,他に2〜4年生や初期研修医も参加した.参加医学生の所属大学は,5大都市(東京・神奈川・愛知・大阪・福岡)以外が8割を占めていた.
V.今後について
学生向けのオンライン勉強会は,すでに意欲的な学生から,司会や運営に携わりたいと自発的に申し出があり,徐々に権限委譲を始めている.泌尿器・整形・小児外科などの各専門分野は,他施設からの指導医にも協力いただき,参加者のニーズに対応できるように指導医側の厚みを増やしている.
当院の臨床研修は,「挑戦し続ける医師になる」を合言葉に,研修医や指導医の意欲的な活動をサポートしている.そのため,当院の臨床研修修了生や他にも海外で活躍している先生の協力を得て,定期的にWebinarを開催している.これまでに10回行い,973名が参加した(図2).終了後のアンケート(回収率60%)でも9割以上が「参加して満足した,今後に役立つ」と返答している.このWebinarは毎回の企画書と報告書を病院に提出し支援いただいている.
同様に院内の初期研修医向けの外科勉強会,他施設と合同で外科専攻医向けのオンライン勉強会も行っている.後者は,他施設でも教育的な活動をしている指導医や実際に米国で研修した指導医に協力をいただき,現在では8施設から合計25名の参加者がいて,徐々にその輪を広げている.テキストとしては米国外科専門医試験の問題集を用いて土曜日朝に毎週行っている.
VI.考察
これまでの活動により,医学生,初期研修医,外科専攻医が仲間と勉強するためのそれぞれの舞台をオンライン上に構築できた.学習者にとっては,経験年数が近い医師の方が何かと相談しやすく,わからないポイントを理解してもらいやすい.そのためオンライン勉強会の舞台で指導力のある医師には,すぐ下のレベルでの指導役をお願いしている.このようにして,「屋根瓦制度」をオンラインでも形成できる.目指すはオンラインでお互いに教え合う文化の醸成である.物理的な箱が必要なくなり,教室は無限大に広がった.通学の手間も消失した.大勢集まることでの生じるノイズもない.Localな指導医は,スキルアップしてオンラインで学習者を集めることができれば,その価値は大きく高まる.
小学校から大学まで全ての教育機関が取り入れようとしているオンライン教育を外科医の育成にも積極的に使うことが良いと思われる.ただし,オンライン勉強会はCovid-19以前にはいわゆる“Blue Ocean”であったが,今は連日のように質の高い勉強会やWebinarが目白押しである.継続するためには,常に“first penguin”として自らが“挑戦し続ける姿勢”を持ち続けることが重要と考える.
VII.おわりに
日々の学びに加え,毎週のオンライン勉強会で地道に勉強する習慣を身につけることと,海外でも活躍されている先生の講演を聞いて刺激を受けることで成長できると考える.距離を感じさせないビデオ会議(telepresence)を用いることで,所属施設の地理的要因は関係なくなり,指導医はe-mentoringを行うことができるようになった.
利益相反:なし
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