[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (633KB) [全文PDFのみ会員限定][検索結果へ戻る]

日外会誌. 122(2): 230-232, 2021

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」 
8.東北地方における地域の夜間・休日救急診療での外科医の役割と課題

1) 東北大学病院 総合外科
2) 東北大学病院 総合地域医療教育支援部
3) 北里大学病院 一般・消化器外科

濱中 洋平1) , 多田 寛1) , 赤松 大二朗1) , 石井 正1)2) , 内藤 剛3) , 海野 倫明1) , 亀井 尚1) , 石田 孝宣1)

(2020年8月14日受付)



キーワード
東北大学, 地域医療, 救急医療, 臨床研修, 外科専門研修

このページのトップへ戻る


I.はじめに
地域の住民にとって,夜間・休日に救急診療を受けられる病院の存在は重要である.しかし,地方の中心部から離れた地域の病院においては,常勤医だけで夜間・休日の救急診療を行える人員体制にはなく,地元の大学が応援医師を派遣することが多い.一次および二次救急医療においては,内科・外科を問わず多様な疾患に対応できる外科医の役割は大きい.地域によって医療事情は異なるため,地域に応じた,地域で求められる技能と知識を身につけた外科医の育成が必要である.そこで,東北大学総合外科から夜間・休日に応援医師を派遣している医療施設の救急外来において,発表者が一人で初期対応した症例について,個人の記録をもとに検討を行った.

II.救急診療の概要
期間:2007年7月から2019年9月までで,発表者が大学に所属していた計8年7カ月間
勤務施設数:36施設
勤務回数:426回
総勤務時間:8,083時間
診療した患者延べ数:2,960人(うち,1歳未満41人,1歳以上6歳未満272人,6歳以上13歳未満211人)
年齢中央値:50歳(0〜101歳)
性別:男性1,530人,女性1,416人,不明14人
来院方法:救急車以外2,529人,救急車431人
転機:帰宅2,653人,入院240人(うち,緊急手術11人),転院49人,死亡18人
患者全体において頻度の高い主たる症状・所見を外傷と外傷以外に分けて示した(表1).外傷では,創傷が390人と最も多く,次いで打撲203人,骨折125人,捻挫92人,虫刺症81人,熱傷68人であった.外傷以外では,消化器症状が372人と最も多く,次いで頭痛・発熱306人,呼吸器症状152人,意識障害89人,循環器・胸部症状81人であった.また,全体のうち小児・婦人科領域に限った主たる症状・所見を示した(表2).

表01表02

III.東北大学総合外科の地域での夜間・休日救急診療支援
東北大学総合外科は食道・胃腸・肝胆膵・移植肝臓・血管・甲状腺・乳腺の七つの専門外科で構成され,発表者は乳腺外科を専門としている.大学在籍の医局員は大学院生を含め約120人で,令和2年度の新入局員23人のうち東北6県の病院で研修したのは21人である.医局より応援医師を派遣している一次および二次救急医療施設は,仙台市内が10施設,宮城県内の仙台市外が31施設,宮城県外が15施設の計56施設で,医局員はグループに分かれて担当の医療施設の診療にあたっている.夜間・休日に応援医師を派遣している施設は,20~199床の小・中規模の公立もしくは公的病院の割合が多い(表3).

表03

IV.外科系新専門医制度と臨床研修制度
日本外科学会の提唱する外科系新専門医制度のグランドデザインは,臨床研修から外科専門医,サブスペシャルティ専門医,高次専門医とステップアップするが,地方の外科医の多くは引き続き地域の救急診療にも携わることになり,その土台となる臨床研修および外科専門研修における多領域での臨床経験は貴重である.臨床研修が必修化された2004年度は,内科,外科,救急,小児科,産婦人科,精神科,地域保健・医療が必修であったが,2010年度からは,内科,救急,地域医療だけが必修になった.しかし,2020年度からは,一般的な診療において頻繁に関わる負傷または疾病に適切に対応できるように,外科,小児科,産婦人科,精神科が再び必修になり,各科最低4週間で,8週間以上の研修が望ましいとされた.また,一般外来における研修にも重点がおかれ,こちらも最低4週間で,8週間以上の研修が望ましいとされた.この臨床研修の改革は,多様な疾患にも対応できる外科医になるためには理想的なものと考えられる.

V.地方で地域を守る外科医であるために
夜間・休日に受診可能な医療施設が多数ある首都圏とは異なり,地方の特に中心部から離れた地域においては,小・中規模の限られた医療施設の宿直医が住民の救急対応を行う使命を担う.その守備範囲は広く,専門外であっても初期対応をしたうえで他施設へ紹介することを求められ,簡単に受診を断ることはできない.頻度の高い外傷の処置をでき,プライマリ・ケアを実践できる外科医は,最も頼りにされる存在であるといえる.地方で外科医を目指す若手医師は,整形外科を含め外来診療を中心とした幅広い診療科での研修を行い,専門性を持った後においても救急診療で遭遇する頻度の高い疾患については最新の知識と技能を維持する必要があるといえる.

VI.おわりに
救急診療の視点から地域を守る外科医について考察を行った.新たな研修制度と指導医の熱意のもと,地域住民が安心して生活することを支える外科医が今後益々増えることを期待したい.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。