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日外会誌. 122(1): 117-119, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(4)「希望と安心をもたらす医療安全管理―無過失補償制度の可能性も含めて―」
7.静岡県立静岡がんセンターにおける外科領域での医療安全管理の経験と今後の課題

1) 静岡県立がんセンター 食道外科
2) 静岡県立がんセンター 胃外科
3) 静岡県立がんセンター 肝胆膵外科
4) 静岡県立がんセンター 麻酔科
5) 静岡県立がんセンター 医療の質・安全管理室(RMQC室)

坪佐 恭宏1)5) , 谷澤 豊2)5) , 上坂 克彦3)5) , 玉井 直4)5)

(2020年8月14日受付)



キーワード
静岡県立静岡がんセンター, 外科領域の医療安全, 患者手術部位誤認防止, 高難度新規医療技術, 医療事故調査制度

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I.はじめに
医療環境が複雑化している現在,診断治療の結果には一定の不確実性が生じることは避けることができない.特に外科領域において,術後合併症(続発症)の一定頻度の発生は想定されるが,時に予期せぬ病態に遭遇することもある.このような状況において医療安全対策は非常に重要であり,医療事故の予防,続発症発生時の対応は患者だけでなくわれわれ医療者を守るためのものでもある.静岡県立静岡がんセンターにおける外科領域の医療安全対策の実際を紹介し,今後の課題についても述べたい.

II.外科領域における医療安全対策例
当院の手術件数は年々増加してきており,2019年の全身麻酔手術は約3,700件であった.この多数の手術件数を安全に施行するために様々な医療安全対策を講じてきた.外科領域における代表的な医療安全対策例を列挙する.
・多職種カンファレンスによる治療方針の決定
・充実した説明文書を利用した分かりやすい説明とその内容のカルテ記載
・患者および手術部位誤認防止マニュアル整備
・手術前後のタイムアウト施行
・ガーゼ器械カウント,術後レントゲン確認
・大量出血時などの術中緊急事態マニュアルの整備
・高難度新規医療技術への対応
・続発症報告,インシデント報告システムの構築
・医療事故への対応
 今回は高難度新規医療技術への対応,続発症報告および医療事故への対応について述べたい.

III.高難度新規医療技術への対応
高難度新規医療技術とは「当該病院で実施したことのない医療技術であってその実施により患者の死亡その他の重大な影響が想定されるもの.」とされていて,実施するに当たっては診療科の長はあらかじめ担当部門に申請することが求められている.図1に当院における高難度新規医療技術の申請から実施までの流れを示した.各診療科から担当部門である医療の質・安全管理室(RMQC室)に申請しクリニカルプラクティス委員会で実施可否や実施条件などを審議し,結果を病院長に報告するとともに各診療科へ通知する.
これまでに当院で申請された高難度新規医療技術は肝胆膵外科から1件,婦人科から3件で,腹腔鏡下の手術手技とロボット支援下の手術手技であった.
実施後の流れを図2に示した.各診療科から1例毎に実施報告書を提出し,結果を病院長に報告している.報告を必要とする症例数や追跡期間は規定されておらず,当院では10例目までは症例毎に実施結果報告を義務化しており,11例目~15例目はまとめて報告している.また実施後3年以内の全例の有害事象を年1回まとめて報告することとし死亡例は速やかに報告することとしている.

図01図02

IV.続発症報告
続発症の報告基準は①死亡例,②想定外の永続的な障害や後遺症の例,③予定外の濃厚な処置や治療例としている.外科系からの続発症報告件数は年間約70件で全身麻酔手術件数の約2%である.
重症の続発症報告が提出された場合には,RMQC室が支持をして多職種によるMortality morbidity(MM)カンファレンスを行っている.2018年までは全職員を対象に年1~2回の開催であったが2018年に病院機能評価を受審し,その際に「MMカンファレンスをさらに積極的に施行すべき」との指摘があり,2019年からは各診療科と関係部署の職員を中心とした小規模単位のMMカンファレンスの開催も促進し,改善策を含めた報告書の提出を義務化している.

V.医療事故への対応
続発症やインシデントアクシデントの中でも,医療に起因するレベル4または5の重大な医療事故と判断した場合は,直ちにRMQC室長(医療安全管理責任者を兼務)と病院長に報告が上がり,組織的に迅速に対応している.まずは患者の治療に全力を注ぐことを最優先しつつ,説明内容を含め事実経過について客観的で正確なカルテ記載をするよう指示している.
なかでも死亡事例に関しては,病理解剖やautopsy imagingを積極的に行い,死因をより客観的に判断できるよう努めている.また,医療に起因しているか,予期していたかの判断をなるべく早く行うが,病院長が判断に迷う場合は医療事故調査制度に係る判定会を開催する.医療事故調査制度が施行(2015年10月)されてから2020年6月までの判定会は外科系では4件あり,医療事故調査制度による医療事故調査委員会を設置した案件は1件であった.これらの判定会や委員会を何度か経験し非常に重要と感じるのは,客観的で正確なカルテ記載および説明内容のカルテ記載である.

VI.おわりに
今回は主に当院における高難度新規医療技術と医療事故調査制度に対する対応を紹介させていただいた.本文中にも述べたが,高難度新規医療技術における報告を必要とする症例数や追跡期間の明確な基準がない点や,医療事故調査制度上での医療事故調査委員会の施行条件(医療に起因しているか,予期していたか)が不明確であり,各施設の判断に委ねられている点は今後の課題と思われる.また高難度新規医療技術には,効果や安全性に関する明確なエビデンスが確立されていない手技もあり,新たな知見が得られた際に,再度,検討を行う必要もあるだろう.
医療事故を含め続発症やインシデントアクシデント発生時は迅速な報告が重要で,それにより早期対応が可能となる.その際は説明内容を含め,正確で客観的なカルテ記載が重要であり,特に医療事故案件では自らを守る重要な証拠ともなる.

 
利益相反:なし

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