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日外会誌. 122(1): 95-98, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
8.外科医を増やすためのグランドデザイン―肝胆膵外科医の立場から―

1) がん・感染症センター都立駒込病院 肝胆膵外科
2) がん・感染症センター都立駒込病院 外科系副院長

脊山 泰治1) , 五嶋 孝博2)

(2020年8月14日受付)



キーワード
新専門医制度, 外科専攻医, 駒込病院, 東京医師アカデミー

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I.はじめに
新専門医制度開始後3年目となったが,全国で外科専門医プログラムに応募したのは毎年800人強と総枠約2,000人に対し,約40%程度の充足率となっている.本稿では,外科専攻医獲得に関する当院の取り組みを紹介し,医学生,研修医と接する現場から得た生の情報を基に,外科医のグランドデザインとしてあるべき姿を消化器外科/肝胆膵外科の立場から議論する.

II.がん・感染症センター都立駒込病院のプログラム
東京医師アカデミーではジュニアレジデント,シニアレジデント,サブスペシャルティと縦に繋がる研修体系を設定している(図1).外科専門医資格を取得後は,引き続き都立病院で研鑽する以外に,大学医局,がん専門病院のレジデントなどの選択肢を示している.体系図はキャリアデザインの全体像をイメージするのに有用であり,レジナビなどで医学生に説明するうえで役立てている.
当院は都立病院の中でも,がん・感染症センターと銘打っており,専門領域の高度な医療を提供する立場にあるが,心臓血管外科,救急部門,小児科,産科など足りない部門もあり,新専門医制度のプログラムでは都立墨東病院,多摩総合医療センタープログラムの連携病院となっている.当院で経験できない部門は基幹病院,グループ内の連携病院で補えるプログラムとなっており,新専門医制度のメリットと考えている(図2A).また,シニア3年目は自由選択枠を長く設定しており,当院で対応できる消化器外科,呼吸器外科,乳腺外科の専門医のサブスペシャルティに繋がる研修が可能となっている.

図01図02

III.当院の取り組み~研修内容の「見える化」~
新専門医制度が始まり,当院のシニアレジデントは2年連続応募なしとなり,スタッフでミーティングを行った.制度自体の理解を深めること,当院の特徴,売りをはっきりさせること,特徴に合ったプログラムを組むこと,学生,レジデントへの情報共有を徹底すること,レジナビや学生見学など直接接する機会を大事にすること,HPの情報を充実させること,ツイッターを開設し情報を発信すること(都庁公認,図2B),など多方向に取り組みを行った.特に,レジデント教育の実績があるため,「がん専門病院で外科専門医を取得できる」,という当院の特徴を前面に打ち出した.
学生,レジデントに説明する際に,全体像を示すこと,HPやツイッターで研修内容の画像,動画を示すことで当院外科研修の「見える化」に取り組んだ.結果として,外科専攻医を再び獲得できている.

図02

IV.外科医を増やすためのグランドデザイン
新専門医制度について学生,研修医から受けた質問で多かったのが,外科医としてのキャリアデザインについてであった.外科医を増やすには,学生,レジデントに対しいつ頃どの様な選択肢があり,どのように選択していくのか,というグランドデザインの「見える化」が重要と考える.
新専門医制度の卒業生の受け皿として,日本消化器外科学会は既に本年度から専門医取得条件を変更し,平均39歳であった取得平均年齢を34歳と短縮できるようになった1).学生・レジデントに対しこの変更について説明すると,消化器外科志望に対し好印象を得ることができた.

V.肝胆膵外科医を増やすには?
肝胆膵外科は消化器外科の中でも手術が長く一人前になるのに時間がかかる,などの理由で興味を持つことはあっても敬遠されがちである.2020年8月現在で,日本外科学会(会員数40,269名,専門医数23,723名:58%),日本消化器外科学会(会員数19,648名,専門医数7,413名:38%)に対し,日本肝胆膵外科学会は会員数3,569名,高度技能医+指導医で988名(28%)と高度技能医は高めのハードルとなっている.肝胆膵外科のキャリアデザインの印象として,高度技能医の取得は40代が多く,日本内視鏡外科学会の肝臓,膵臓の技術認定は更に上になっている(図3A).安全に高難度手術を施行でき指導できる,というコンセプトは正当性がありハードルを低くする必要はないと考えるが,消化器外科専門医と肝胆膵外科高度技能医の間にスモールステップとして近い目標がある方が目指しやすい.難度ではなく,安全に手術を施行することを目的とした内視鏡外科技術認定を取得しやすいコースを設定したり,胃や大腸で技術認定を取得後に肝胆膵外科を専攻したりするルートなど,肝胆膵外科医のキャリアデザインの「見える化」を図ることが現場からの提案である.

図03

VI.おわりに
外科希望者を増やすためには,学生,研修医から見て分かりやすい屋根瓦式のキャリアデザインを確立し,提示することが重要と考える.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本消化器外科学会HP.今後の消化器外科専門医・指導医に係る制度のグランドデザインについて. https://www.jsgs.or.jp/modules/senmon/index.php?content_id=102

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